抜け・漏れのない社内ルールづくりを目指して
従業員数が多く、経営者が従業員の全員に目を配ることができない組織はもちろんですが、従業員数拡大を目指すベンチャー企業などにおいても、組織統制という意味で社内ルールを設けることは非常に大切です。
日本労働組合総連合会の調査では、男女差に関する社内ルールについて報告されています。「職場で旧姓・通称の使用がともに認められている」のは36.3%と過半数以下である結果となりました。社会保険などの公的書類については結婚後の名前を使用しなければなりませんが、職場内のコミュニケーションや名札・名刺においても旧姓を使用できる企業は多くありません。
出典元『日本労働組合総連合会』社内ルールにおける男女差に関する調査2019
旧姓を利用できるかは社内ルールの一つです。旧姓を使ってはならない、旧姓を使わなければならないなどの善し悪しは今回の記事では議論しませんが、企業ごとに異なる社内ルールは就業規則や業務マニュアルなど、様々なルールが存在します。
社内ルールを作る上での注意点は「従業員への過度な行動制限に繋がるルールを作らない」「ルールと現場の行動が乖離しすぎないようにする」などいくつかあります。注意点に気をつけながら作成すれば、組織統制や会社の発展、従業員のモチベーション向上などに役立てることができるメリットもあります。
実際に社内ルールを作成する際には、どのような目的でルールを作るのかを明確にすることが大切です。社内ルールを作る際のフォーマットとしてご利用できるように、社内ルールを作る上でどのような目的があるのかをリストアップします。
社内ルール一覧と例を参考にして、自社組織に活用しよう
社内ルールの目的についてリストアップを行います。それぞれに例や注意点を記載していますので、是非参考にしてみてください。
基本経営規程について
業務の効率化
残業時間が長いのに終わらない業務、あまり意味のない資料や報告書の作成、情報共有不足による業務進捗の遅れ。このような状態に陥るのは、業務効率が悪いからだと考えられます。
例えば「報告書などを紙ベースで制作し上司の印鑑が必要」なルールはクラウドサービスやメールなどを利用するように変更すれば、PC上で制作しメールで送受信することができ、時間短縮に繋がります。マニュアルや資料なども電子化して社内又は事業部ごとの共有フォルダで管理するルールに変更することでも時間短縮やコスト削減することができるのです。
効率の悪い部分を改善し効率化を図るためのルールを作成してみましょう。
売上の向上
「ルールで売上なんかあがらない」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし売上を向上させるためのルールを作ることも可能です。
例えば「営業に行った顧客には2日以内にお礼のハガキ(メール)を出すこと」をルールにしたり、「成績優秀な社員が使用しているツールやトークなどをマニュアル化し、マニュアルにそった営業や販売活動を行うこと」をルール化したりすることで、売上の向上が期待できます。
個々の能力に任せるのではなく、どんな過程を踏めば売上がアップするのか、ルールを設定することも大切です。
組織規程について
経営理念の体現
どんなに立派な経営理念を掲げていても、ルールに落とし込めていなければ机上の空論となってしまいます。経営理念を体現するためにはどのような「行動」や「考え方」が必要なのか具体的なルールとして落とし込むことが重要です。
例えば「お客様第一主義」の理念があるのであれば「在庫がない場合は同業他社のサイトを検索して商品を探す」などお客様に喜んでいただけるようなルールを作るのです。
最近では、お客様よりも「従業員第一主義」という理念を掲げることで離職率が軽減するだけではなく、売上の向上も見込めるため、企業の成長には福利厚生の充実や従業員が働きやすい環境を整えるためのルールも必要だと言えるでしょう。
コミュニケーションの活性化
社内でのコミュニケーションを円滑にするルールもあります。「フリーアドレス制度」「チャットツールの利用」などのルールは近年取り入れている企業が増えています。
従業員と役員が一緒にランチに行き相談などをすることができる「ランチ制度」、従業員全員が参加し情報を共有したりコミュニケーションを図ったりする「全体会議」、「○時~○時はパソコン使用禁止」というパソコン使用禁止の時間を設け、その時間はスタッフ同士のコミュニケーションの時間に当てる・・・などのルールを設定している企業もあります。
他社との競争に勝つ
サービス、品質の向上
製造過程における品質チェック項目をリスト化してレ点チェックを付けるルール、お客様に接客するサービスのみだしなみや言葉遣いに関するルールなど、サービスや品質を向上させるためのルールを設定することはとても重要です。
特にサービスや接客に関しては、マニュアル通りの画一的なサービスだけではなく顧客や状況に応じたサービスが必要になる場合もありますので、行動指針が抽象的だと個々の解釈や理解度が異なってしまいます。
会社の方向性を定め、サービスや品質を均一化し向上させるためのルールを設定しておく必要があるでしょう。
コスト削減
コスト削減への取り組みは、売上拡大と並び企業活動を行う上で大きな使命の一つです。
「印刷にかかるコストを削減するためのルール」「空調の温度や社内の照明などに関するルール」「在庫管理を徹底しロスを防ぐためのルール」なども設定を従業員に意識づけることでコスト削減をすることができます。
従業員のモチベーションアップについて
働きやすい環境づくり
会社の売上や利益に関することだけではなく「充実した福利厚生」「評価してもらえる」「風通しが良い」など従業員が働きやすいと感じることのできるルールも必要です。
中には「勤務時間は1日6時間」「失恋した際に休暇がもらえる」「申請すれば在宅など勤務場所を自由に設定することができる」など従業員にとって働きやすい環境を整えるためのルールを設定している企業もあります。
働きやすい環境で仕事をしていると従業員のモチベーションもアップし、高いパフォーマンスで仕事ができるようになります。
人事評価制度
人がやる気を出すときというのは、人から認められたときと達成感を感じたときだと言われています。正しい評価をしてもらえるということは、認めてもらえるということです。評価制度が充実している環境は従業員のモチベーションがアップします。
逆に人事評価制度がしっかりと確立できていなければ、従業員は「自分は会社でちゃんと評価してもらえているのか」「何を目標に働けばいいのか」という不安にかられることもありモチベーションの低下、そして離職率にも影響を及ぼしてしまいます。
以前は上司が部下を一方的に評価するようなルールが一般的でしたが、最近は「チーム内でお互いを評価し合う」「従業員全員が人事に関わる」などの人事評価のルールを導入する企業も増えています。
従業員の教育について
新入社員教育ツール
新入社員には座学研修やOJTの研修などを通じて「学生から社会人へのマインドチェンジ」「ビジネスマナー」「理念の浸透」「業務の基礎知識・スキル」「コミュニケーション力」「自立性、自主性」など複数のことを教育しなければいけません。新入社員は将来の企業を担う大切な人材です。
新入社員教育のスケジュールや段取り、教えるレベルが不均一にならないようにしっかりとルールやマニュアルを設定する必要があります。
「研修のカリキュラムやスケジュール」「使用する資料」「誰が指導するのか」「研修後のチェックの有無」などをルール化し、効率よく教育できるようにしましょう。
業務レベルの均一化
マニュアルの作成は大変だ、面倒くさいと考えている経営者や管理者の方がいらっしゃるかもしれませんが、業務マニュアルは業務レベルを均一化できるだけではなく、会社を発展させるためにも重要なツールだと言えます。
業務マニュアル作成には「社内の誰でも同じレベルで仕事ができる」「業務の無駄をなくす」「サービスや品質の向上」「業務の内容が明確になる」「教育時間の短縮」「業務を引き継ぎやすくする」などといった多くのメリットがあります。
新入社員や経験の浅い社員でも業務マニュアルを作成しておけば、短期間で一定レベルの業務を行う事が可能になりますし、マニュアル通りに作業を行えばヌケやモレ防止にも繋がります。
基本的な業務に関するマニュアルは必要ですが、業務のすべてをマニュアルで管理することはできません。マニュアルやルールで縛りすぎると、従業員自らの考えるを失わせたり、マニュアル以外のイレギュラーな対応ができなくなってしまったりする可能性があるからです。
リスク回避について
情報漏洩
情報漏えいがおこってしまうと莫大な損害金が発生するほかにも社会からの信用が得られなくなるなど多大な損失を引き起こしてしまう可能性がありますので、情報漏えいを防ぐためのルールは必須と言えるでしょう。
「メールやFAXをかける際は必ず宛先を確認する」「個人情報が含まれる書類は必ずシュレッダーにかける」「パソコンのパスワードを定期的に変更する」などといったルールを作成し、従業員に徹底してもらうことが大切です。
クレーム対応
クレームの対応を間違ってしまうと、大きなトラブルに発展してしまう可能性があります。「誠意を持ってお詫びする」「お客様の話をしっかりと聞く」「決して言い返してはいけない」などといったルールを作っておくことで万が一のクレームにも備えることができます。
むやみやたらとクレームをいれる「クレーマー」への対策もルール化しておく必要があります。
自社の社内ルールを知って改善していく
社内ルールを作成するポイントは、目的を明確にすることと従業員の行動を制限しすぎるルールは作らないことです。
従業員の価値観に関するルールなどに関しては、現場の実態を理解しておく必要があります。例えば「社員がプライベートも含めコミュニケーションを取る」というルールを作った時、実際に働く従業員が「仕事とプライベートはきっちり分けたい」と考えていたとします。現場とルールが乖離しているとミスマッチを引き起こし、従業員がストレスを感じる要因になってしまうのです。最悪の結果「会社のルールについていけない」など離職に繋がる可能性も出てきます。そのため現場の実態や経営理念と乖離しないようなルールを作成するのが望ましいと言えるでしょう。
まずは自社の社内ルールを知ること、そして実際に現場でどのようなルールが運用されているのかを知ることが重要です。