マネジメントスキルを細分化する必要性とは
社会人としての経験・キャリアも備わってきた20代後半から30代前半にかけて、「キャリアアップのための転職」というターニングポイントを迎える方は少なくありません。
社会人経験のある中途採用、特にリーダー職や管理職といった層の採用では、マネジメントスキルが重視される傾向にあります。これは転職者にとっても企業にとっても、中長期的な活躍という意味で重要なスキルなのです。
HR proによる調査では、中途採用において求められているものの1位は「職務経験」と、キャリアを問うものです。そして2位にランクインしているのが「スキル」です。
出典元『HR Pro』「中途採用に関するアンケート調査」結果報告
一言でマネジメントスキルと言っても、抽象的な概念の状態では、企業や人によって異なる意味で理解されている可能性があります。大切なのは、具体的に把握することです。マネジメントスキルという抽象概念を細分化し、具体的なビジネスシーンでどのように使用されるスキルがあるかを把握しましょう。
育成・採用選考でのアピールなどを行うためには、細分化したどのスキルが備わっているのかを知る必要があります。今回は、抽象的なマネジメントスキルを細分化するとどのようなスキルにわけられるのかについて説明します。
業界・職種を問わず重要なカッツモデル
人事採用のお仕事で重要な「人材価値の判断」の良い参考になるのが、20世紀半ばにハーバード大学の経営学者ロバート・カッツが提唱した理論です。
カッツの理論は主にリーダーシップや教育力にコミットした管理職向けのもので、人材価値の評価する項目の設定し、会社内におけるポジションによってどのような能力が必要かを述べたものです。これは会社を運営するための理論ですが、会社の組織体制を最適化する人事のお仕事に役立つ知識でもあります。
カッツに寄れば、管理職に求められるスキルは以下の3つに分類されます。
テクニカルスキル(業務遂行能力)
一般に「スキル」と聞いて私たちが思い浮かべる具体的な業務スキルの事を指します。「エクセルが使える」「TOEICが800点以上でビジネスレベルの英語が扱える」といった具体的な能力のことです。
ヒューマンスキル(対人関係能力)
主にコミュニケーション能力に特化したスキルです。仕事は主にチームで行うことが多いですが、メンバーがストレスなく働けるような根回しや、クライアントなど社外の方との関係性を構築する能力です。
コンセプチュアルスキル(概念化能力)
ビジネスシーンにおける現状とこれからを大局観を持って冷静に分析し、他者に伝えることができるといった抽象度の高いスキルです。仕事で起きる個々の問題を概念的に捉え、プロジェクトの方向性を見極めるうえでとても大切な能力です。
これら3つのスキルの理解について、組織内のポジションによって求められる程度が異なることが大切です。
出典元『日本の人事部』マネジメント・管理職に求められるスキル
管理職・経営層の人材は上図のうち「ミドルマネジメント」と「トップマネジメント」に分類されます。マネジメントスキルとして必要なのは、コミュニケーションを含むヒューマンスキルに合わせ、抽象思考をキーとしたコンセプチュアルスキルであると考えることができます。
「マネジメントスキル」を4つに細分化
カッツモデルはマネジメントスキルだけでなく、ビジネス一般もカバーするものです。マネジメントスキルはカッツモデルで言及される3つのスキルを基礎としたスキルで、社会人としての基礎となるスキルはどの業界のどんな職種にも必要です。
具体的なビジネスシーンで活用されるマネジメントスキルとはどのようなものがあるのでしょうか?
押さえておきたいのは以下の4つです。
アセスメントスキル
部下の特徴を正しく把握する能力です。技術的な特徴だけでなく、性格や個性も含めて理解することがポイントです。
ある意味でコミュニケーション能力にも関係するスキルで、相手を否定せずにまずは受け入れる姿勢が大切です。
コーチングスキル
アセスメントスキルを前提として、部下の能力を最大限に引き出すスキルです。部下の自発性を尊重し、考え方や性格に合わせて問いを投げかける技術がポイントとなります。自分自身での目標設定を促し、一人立ちへ導きます。
社内教育で特に重要となるスキルです。「どうすればいうことを聞いてくれるか」ではなく、「どうすればやりたくなるか」を考えることがポイントです。
アカウンタビリティスキル
相手にわかりやすく伝える「説明力」に該当するスキルです。相手に物事を伝えたり教授したりするのにまず大切なのは「自分自身が理解すること」です。説明すべき対象をきちんと捉えたうえで、相手が理解しやすい言葉や、イメージしやすい比喩などを適切に選べる表現力もこのスキルを支えています。
アカウンタビリティスキルは「理解力」により支えられているため、一朝一夕で伸ばせるものではありません。しかし、考える習慣をつけることで伸ばすことは可能です。日頃から「わからないことをそのままにしない」「なぜわからないかを考える」という習慣をつけ、考える癖をつけるようにしましょう。
セールス・ネゴシエーションスキル
簡単に言えば「営業力」です。自分の意図をきちんと相手に伝え、それを納得させるスキルです。
営業力は、何も社外での商談だけに限りません。社内でも部下に納得させて業務を促したり、部署間で主張が衝突したときの調整などでも重要です。ストレスなくプロジェクトを進めるに当たって必要なスキルです。
このスキルは「相手の立場になって考える」ことが上達のポイントです。「相手が求めているのは何か」「解決しなければならない問題点は何か」を相手の立場になって推測し、クリアするために自分の意向はどうなのかを検討するようにしましょう。
スキルアップには「急がば回れ」で習慣の見直しが大切
抽象概念である「マネジメントスキル」は、どのようなビジネスシーンでどう役に立つかを具体的に把握して理解することが大切です。状況や目的により複数のスキルに細分化することができるため、自分の長所や短所を理解するためには、各スキルができているのかを見つめ直すことが重要です。
求職活動や実際のマネジメントでは長所を活かすことで、個性を潰さないように伸ばすことが大切です。また、教育研修や自己啓発セミナーを受講することで「どうすれば短所を補えるか」というヒントが得られます。
大切なのは、向上意識を持続させることです。「考える習慣」を身に付けることで、ビジネススキルは確実に向上させることができます。