「やりがい搾取」は社会現象の一つ
政府が推進する働き方改革の一つに長時間労働の是正が含まれています。長時間労働かつ低賃金、賃金の代わりに金銭報酬でない「やりがい」を与える「やりがい搾取」が問題になっています。
「やりがい搾取」は低賃金で労働力を確保できる手段として、特にブラック企業で多くみられます。今回の記事では、そもそも「やりがい」や「やりがい搾取」とは何かについて説明いたします。やりがい搾取に遭わないためにはどうすべきかについてお伝えいたします。
「やりがい」に必要な3つのこと
やりがいを感じるために必要な物は「達成感」「楽しさ」「正当な評価」の3つです。3つが何によって満たされるかどうかは人それぞれであり、「やりがいの感じ方」は人によって違います。
顧客に褒められることにやりがいを感じる人もいれば、難しい仕事をこなして自己成長を感じた時にやりがいを感じる人もいます。職種によって価値観の傾向も変わります。
「やりがいのある仕事」の落し穴
「達成感」「楽しさ」「正当な評価」が得られる「やりがいのある仕事」に、自分から進んで仕事に没頭している労働者は、充実感や自己実現ができる環境を得ているように見えます。しかし、長時間労働かつ低賃金であれば、「やりがい」があるがゆえに労働環境の不当性に気が付かないままに体調不良を引き起こすまで働き続けることにもなるのです。
やりがい搾取の意味や定義とは
「やりがい搾取」とは何でしょうか。
「やりがい」という金銭以外の報酬を受け取っていると意識づけられていることが前提になります。「やりがい」を感じているために賃金が低い状態に甘んじたり、長時間労働が自然と選択されてしまう環境が出来上がります。つまり、自覚のないまま正当な対価以下で労働が搾取されている状態です。
「やりがい搾取」という言葉が生まれたのは2007年頃です。提唱者は東京大学教授の教育社会学者、本田由紀氏です。やりがいを感じて自己実現をしながら職務に没頭するワーカホリックは、安定した仕事をしている場合は問題になりにくいですが、不安定な仕事と結びついた際に問題が起こります。本田氏は、若者の「やりたいこと志向」がワーカホリックの問題を生み出しているとも指摘しています。
やりがい搾取という言葉が生まれた背景
内閣府が公表している「国民生活に関する世論調査」の結果(P18)では、これから「心の豊かさ」と「物の豊かさ」のどちらに重きを置きたいかという調査において、昭和47年時点ではほぼ同程度だったのに対し、現在では「心の豊かさ」が「物の豊かさ」の約2倍程度となっています。
やりたいことを仕事にできた「ワーカホリック」が問題になる背景には働き手の意識の変化があるのです。
やりがい搾取があなたに与える影響とは
大事なことは、体を壊すまで自分を安売りしない意識を持つことです。あなたの労働力の対価が不当である可能性を忘れないでください。まず最優先すべきは自分の健康を守ることです。
いくらやりがいがあるとしても、今の仕事は正当に評価をされているか、見つめなおしてみるのもいいでしょう。一度止まることで見えて来るものがあります。
やりがいがあるからこその落し穴
目標が明確であったり、チャレンジとスキルとのバランスが保たれていると「無理をして頑張っている」「大変な状況にある」と感じない事があります。この状態では、高パフォーマンスを発揮して働けるため、やりがいも感じます。そして、疲れを感じにくいのです。
しかし、疲れの蓄積に気がつかないまま働き続けていると、気が付いた時には心身共に尽き果てた状態になってしまいます。
やりがいと給与は反比例しない
「やりがいがあるなら給与は高くなくてもいい」もしくは「やりがいがあるから給料が多少安くても仕方がない」と考えたことはありませんか?これが「やりがい搾取」を起こさせる危険な考え方です。
仕事に対してやりがいがあってもなくても、給料は労働に見合う対価として求めるべきです。不当に低い給料はあなただけの問題ではありません。やりがいを優先して相場より安い給与で仕事をする人が増えることで、結果的にその業界の給与水準が下がってしまうからです。
「やりがい搾取」の職場を避ける簡単な方法
就職や転職の際に「やりがい搾取」の職場を避けるにはどうしたらいいでしょうか。「やりがい搾取」を見抜く簡単なポイントがあります。それは会社のサイトなどに書かれている「社員の声」を読むことです。
「やりがい搾取」の言葉を提唱する本田氏によると、やりがい搾取が起こりやすい条件が4つあるといいます。
- 趣味性(好きなことを仕事に)
- ゲーム性(自由度が高い)
- 奉仕性(人の役に立てる)
- サークル性・カルト性(居場所の提供)
4つを踏まえて、社員の声を読んでみてください。好きなことで「成長」をする機会が与えられる場合や「お客様のために」貢献できる奉仕性が強調されている時は危険信号です。
自分自身のやりがいと向き合おう
実際にやりがい搾取を行ってしまう企業の多くは「見合った人件費を支払えない」ことが多いのです。そもそものビジネスモデルに問題があったり、法律順守意識(企業コンプライアンス)が低いなど、根幹の部分に問題があることが多いからです。
根幹の部分に問題がある場合には、会社自体が変わることは難しいと言えます。現状に問題を見つけたなら、会社を相手に、提案してみる価値はあります。しかし、状況が変わらなかった場合には転職を考えるのも一つの道です。