キャリア開発の取り組みは需要に対して実施が遅れている
キャリア開発とは、自社内で社員がキャリアを築いていくために、企業が社員に対して支援を行うことを意味する言葉です。
少子高齢化による人手不足が続く中で、社員の離職を防止して企業が成長を続けるためには、自社内で働く社員のキャリア形成・能力開発が必要不可欠です。
労働政策研究・研修機構の調査によると、社員のキャリア形成を促進する取り組みを実施している企業は調査対象全体の3割未満であり、最も高いサービス業でも4割に満たないという調査結果が出ています。
出典元『労働政策研究・研修機構』「キャリア自律」はどんな企業で進められるのか
Adeccoの調査によると、自身のキャリアを現在の勤め先で築きたいと考える人が全体の約半数を占めるのに対して、自身のキャリア構築に対して76.9%の人が不安があると回答しています。
出典元『Adecco』「人生100年時代」のキャリアビジョンに関する意識調査
Adeccoの調査結果から、多くの労働者が現在の勤め先でキャリアを構築できるかを不安に感じており、企業の従業員に対するキャリア開発の取り組みが十分でないことが見て取れます。
今回の記事では、キャリア開発を行った企業の事例から、キャリア開発の目的・内容・効果を詳しくご紹介します。
キャリア開発の事例とは?3社の事例を詳しく解説!
キャリア開発を行った企業の事例を3つご紹介し、それぞれの事例のキャリア開発の目的・内容・効果について詳しく触れていきます。
- 株式会社ティップネスの事例
- ソフトバンクグループ株式会社の事例
- 株式会社日立製作所の事例
1.株式会社ティップネスの事例
株式会社ティップネスは、フィットネスクラブを経営する会社です。
キャリア開発の目的
株式会社ティップネスは、店舗スタッフのモチベーションを高めつつサービス品質の向上を図るために、キャリア開発を実施しました。
フィットネスクラブ業界では激しい競争が続いているため、全ての店舗で高品質のサービスを均質に提供するという目標がありました。サービスの質を向上・安定させるためには、スタッフ一人ひとりが自分に何を求められているかを理解し、今まで以上に高いパフォーマンスを発揮してもらうことが必要です。
株式会社ティップネスでは、スタッフ一人ひとりの「今何ができるのか」「今後何ができるようになる必要があるのか」という、能力とキャリアを可視化する仕組みが必要だと考え、キャリア開発の取り組みを始めました。
キャリア開発の内容
株式会社ティップネスではキャリア開発の取り組みとして、店舗の仕事を「エクササイズ」「サービス」「マネジメント」などに分類し、それぞれに必要なスキル・知識を定義しました。
定義したスキル・知識の中から、従業員に自分の仕事に必要な能力について自己評価してもらった上で、上司との面談を実施します。上司からアドバイスを与えながら、従業員自身に中長期的なキャリア目標と短期的なスキル・知識の習得目標を立ててもらうことで、キャリア開発を支援しました。
キャリア開発に必要なスキル・知識については、関連する教育をシステム上で明示することで、会社がスタッフに対して自ら学び成長する機会を提供しました。
キャリア開発の効果
株式会社ティップネスのキャリア開発では、スキルや知識の身につけ方であるキャリアパスを提示した結果、従業員が自ら新しいスキルや知識の習得に取り組んでくれるようになりました。
キャリア開発のために従業員のスキルや知識を評価した結果、何の仕事をできる従業員がどこに何人いるかが把握でき、戦略的な採用や育成、配置や異動をできるようになりました。
2.ソフトバンクグループ株式会社の事例
ソフトバンクグループ株式会社は、インターネット・通信事業を営む会社です。
キャリア開発の目的
ソフトバンクグループ株式会社は、様々な出自を持つ人材の育成制度を整備するために、キャリア開発を実施しました。
ソフトバンクグループ株式会社は、社員数が倍々に増えていき、一気に社員数1万人以上の大企業になりました。M&Aや新卒など、多様なバックグラウンドを持つ人材の集合体となったため、人材育成施策の整備が必要になりました。
ソフトバンクグループ株式会社では「自ら手をあげた者に機会を与える」という基本ポリシーを表す制度をつくることから、キャリア開発の導入がはじまりました。
キャリア開発の内容
ソフトバンクグループ株式会社では、キャリア開発の取り組みとして「自ら手をあげた者に機会を与える」という理念をもとに、希望の部署と合意すれば異動がかなう「社内FA制度」や、新規事業の立ち上げや成長事業で人材が足りないときに社内公募を行う「ジョブポスティング制度」を整えました。
ソフトバンクグループ株式会社のキャリア開発は、キャリアを磨くための制度だけでなく、社員が自らのキャリアについて考える機会を提供するために「キャリアカレッジ」というイベントも開催しています。
キャリアカレッジとは、外部の有識者を招いての講演会や、社内各部署の社員を集めてのパネルディスカッションなどを行う社内イベントです。
キャリア開発の効果
ソフトバンクグループ株式会社のキャリア開発では、様々な制度やイベントによって社員にキャリアを構築する機会を与えた結果、社員が各自のキャリア構築に積極的になり組織全体の生産性が大きく向上しました。
ソフトバンクグループ株式会社は、様々な研修を内製化した「ソフトバンクユニバーシティ」という独自の研修制度をつくり、社員のキャリア開発を支援しています。
ソフトバンクユニバーシティは、自社の社員だけでなくグループ外にも広く門戸を開いており、経歴や国籍を問わず誰もが自由に応募できるようになっています。多様な人材との交流は、社内だけでは生まれないような新しい視点や価値観を得るきっかけとして、社員のキャリア開発に役立っています。
3.株式会社日立製作所の事例
株式会社日立製作所は、情報通信・電力・建設などの事業を営む会社です。
キャリア開発の目的
株式会社日立製作所は、個人の成長を組織の成長に結びつけていくことを目的として、キャリア開発を実施しました。
株式会社日立製作所では、会社が求める成長だけでなく社員の個人としての成長も重要と考え、社員として・個人としての成長を両立することで、個々人のキャリアの充実につなげようと考えました。
キャリア開発の内容
株式会社日立製作所ではキャリア開発の取り組みとして、GPMという目標管理のためのパフォーマンスマネジメントプログラムを、グローバル共通で展開しています。
GPMとは、事業の目標と個人の目標を連動させて上司からのフィードバックを行うことで、会社と社員の成長を連動させようという施策です。
GPMは、仕事のサイクルを半年から1年単位で見て定期的なキャリア面談と組み合わせることで、社員が自身のキャリアを中長期的な視点で考えて自発的・持続的に成長していけるように支援しています。
キャリア開発の効果
株式会社日立製作所のキャリア開発では、事業の目標と個人の目標を連動させて社員のキャリア開発を支援した結果、社員のキャリアアップと会社の生産性向上を同時に達成できるようになりました。
株式会社日立製作所では「キャリア開発支援プログラム(CDP)」を通して、各社員のキャリア発達課題やライフステージに対応した様々なプログラムを展開して「自分のキャリアは自分で決めて自分で引き受ける(自己決定・自己責任)」という意識の醸成を行っています。
社員が自己理解を深められるようなキャリア開発支援を行うことで、社員一人ひとりが自立・自律できるようになり、社員のキャリアアップや会社の生産性向上につながっています。
キャリア開発は他社の事例を参考にして取り組もう!
キャリア開発とは、自社内で社員がキャリアを築いていくために、企業が社員に対して支援を行うことを意味する言葉です。
キャリア開発は多くの企業で取り組まれており、特に会社の将来像と個人の将来像のすり合わせが難しくなる、社員数の多い大企業を中心に用いられています。しかし、現代は市場のグローバル化やテクノロジーの進化によって市場予測が困難であるため、中小企業であっても社員のキャリア開発が重要になります。
自社でキャリア開発に取り組み始める際は、他社の成功事例を参考にすることで、施策の質と成功の可能性を大きく上げることができるでしょう。