非正規雇用労働者に対しての社会の動きについて
働き方改革など、非正規雇用労働者の問題は解決する優先順位の高い課題となっています。そのような時代の中、2013年非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップや賃金アップなどを促進するものとして、キャリアアップ助成金制度が誕生しました。
非正規雇用労働者は増加傾向にあります。少子化に伴う労働力人口の減少により、政府は育児休暇など家庭と仕事の両立、定年後の再雇用など、仕事に就いていない人の就業支援を行っています。企業としても、単純労働や定例業務などに従事する非正規労働者を雇用することで人件費を削減するなどの狙いがあります。労働者としても、自分の自由な時間に働ける、気軽に採用されて離職できるなどの理由から非正規労働を選ぶ場合もあります。
非正規労働者が増える一方で、本当は正社員として働きたい、不本意非正規の問題が深刻になっています。スキルなどの不足から正社員として働けず、低賃金や雇用調整の対象となる雇い止めなど、最低限の生活すらままならず、貯金はおろか健康保険や年金の加入すらも厳しい人がいるのが現状です。
平成28年度の調査として、国民年金受給者の平均受給額は約55,000円、厚生年金保険の平均受給額は約147,000円と3倍弱の開きがあります。賃金額などの格差だけでなく、将来の年金を含めても格差が開いてしまうことがわかります。家賃などを含めて老後を毎月55,000円で生活するのは厳しいことも想像に難くないかと思います。
出典元『厚生労働省』平成28年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況
出典元『厚生労働省』平成28年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況
非正規雇用者の約40%弱が厚生年金に加入していない現状があります。約2,000万人が非正規雇用者として働いているとのデータもあるため、2,000万人×38.7%=774万人が国民年金しか受け取れない可能性を示唆しています。
キャリアアップ助成金の中でも、年金などの社会保険などの加入に加え、基本給の向上を行うことで、就業意欲を高め、社内全体の労働生産性を高めたいとした場合に使える助成金があります。今回は「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」について紹介します。
選択的適用拡大導入時処遇改善コースとは
選択的適用拡大導入時処遇改善コースは、非正規雇用従業員や短時間労働者に対して、より手厚い年金や保険制度などの「社会保険の選択的適用拡大」を労使合意に沿って導入した事業主が受給対象となります。受給対象の事業主が社会保険適用の措置を有期契約の従業員に実施し新しく被保険者とし、基本給を増額した際に助成金が助成されます。
選択的適用拡大導入時処遇改善コースは非正規雇用労働者の社会保険加入を促進し、将来への安心した年金や健康保険の加入を促進することが目的ですが、社会保険加入によって手取りが減ってしまうことを避けるため、加入した際に基本給を上げることをセットにした制度です。
この結果、従業員の就労意欲向上や会社全体の生産性向上が期待できます。
社会保険の選択的適用拡大、労使合意とは
「社会保険の選択的適用拡大」や「労使合意」とはなんでしょうか。
2016/10/1に、社会保険(厚生年金や健康保険)の資格を有しないとされたパート労働者などについても、被保険者数が501人以上の企業に勤める人は、以下①~④の要件をすべて満たす場合は、被保険者資格を持てるようになりました。適用範囲が広がり、資格を得ることができるようになることを労働者への「適用拡大」とよびます。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 1ヵ月の所定内賃金が月額88000円以上であること(残業代、通勤手当等は含まない)
- 雇用期間が1年以上見込まれること
- 学生(夜間、通信、定時制は除く)でないこと
2016/4/1からは、被保険者数が500人以下の企業に勤務するパート労働者なども「適用拡大」の対象となり、前記①~④の要件をすべて満たす人については、社会保険の被保険者となることができるようになりました。ただ適用(被保険者となること)が義務なのではなく、労使間の合意があれば、適用が可能になるというものです。
「労使合意」とは、事業主の同意に加えて対象者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合の同意があること、労働組合がない場合は従業員の過半数を代表する者(労働者代表)の同意、または従業員の2分の1以上の同意があることをいいます。
選択的適用拡大導入時処遇改善コースは、社会保険の選択的適用拡大を労使合意に沿って導入した事業主が受給対象となります。
受給金額について
基本給の増額割合に応じて変わります。1事業所当たり1回のみの受給で支給申請上限人数は30人までなので、最大360万助成金が支給されます。
< >は生産性の向上が認められる場合の額、( )内は大企業の額
- 3%以上5%未満 :1人当たり19,000円<24,000円>(14,250円<18,000円>)
- 5%以上7%未満 :1人当たり38,000円<48,000円>(28,500円<36,000円>)
- 7%以上10%未満 :1人当たり47,500円<60,000円>(33,250円<42,000円>)
- 10%以上14%未満 :1人当たり76,000円<96,000円>(57,000円<72,000円>)
- 14%以上 :1人当たり95,000円<12万円>(71,250円<90,000円>)
受給要件について
受給要件は、キャリアアップ助成金で共通するものと選択的適用拡大導入時処遇改善コースのみに適用されるものとあります。それぞれ分けて説明致します。
キャリアアップ助成金で共通する受給要件
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
(キャリアアップ計画書は、コース実施日までに管轄労働局長に提出すること) - 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備している事業主であること
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること
「キャリアアップ計画」とは、非正規雇用労働者のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるために、今後のおおまかな取り組み(目標・期間・目標を達成するために事業主が行う取り組み)などイメージでいいのであらかじめ記入するものです。キャリアアップ計画は、あくまでも当初の計画を記入するため、変更届を提出すれば随時変更することも可能です。
「キャリアアップ管理者」とはこのキャリアアップ計画をすすめる人のことで、1事業所あたり1名配置します。キャリアアップに関して知識、経験のある人が望ましいですが、資格などは必要ありません。
選択的適用拡大導入時処遇改善コースのみの受給要件
- 労使合意に基づき社会保険の適用拡大の措置を実施した事業主であること。
- 新たに社会保険の被保険者となった全ての有期契約労働者等の基本給を増額し、かつ、定額で支給されている諸手当を減額していない事業主であること。
- 新たに社会保険の被保険者となった全ての有期契約労働者等の基本給について、前の基本給と比べて一定の割合(3%以上)で増額する措置を講じた事業主であること。
- 有期契約労働者等を措置適用後6か月以上の期間継続して雇用し、当該労働者に対して基本給の増額後6か月分の賃金を支給した事業主であること。
- 当該労働者を雇用保険、社会保険の被保険者として適用させている事業主であること。
- 社会保険加入状況及び基本給を明確にした雇用契約書等を作成および交付している事業主であること。
社会保険の適用拡大の措置を行っただけでなく、有期雇用労働者の賃金を前の基本給より3%以上アップさせること、そしてアップさせた給与を半年間支給している必要があります。
申請期間について
申請期間は、増額した賃金を6か月間支給した日の翌日から起算して2か月以内に申請しなければなりません。
上記の図を例にすると、6か月間の賃金支払い日が10/15なので、その翌日の10/16から2か月以内に申請する必要があります。
選択的適用拡大導入時処遇改善コースの注意点について
選択的適用拡大導入時処遇改善コースの注意点は、対象の労働者を3ヶ月以上雇用し、その間社会保険の加入義務がなかったことが条件となります。
パートなど有期雇用労働者がいるけれど、その人が雇用されてから3ヶ月未満だったり、そもそも社会保険の加入義務があるのに加入させていなかったなどは対象外です。
キャリアアップ助成金は様々なコースが設けられているため、有期雇用から正社員にした場合は正社員化コースだけが支給されるなど、それか一方しか支給されないことがあるので注意が必要です。
金銭的な面から有期社員をサポートできる制度
社会保険の負担は有期契約労働者にとって、とても大きなものであり、将来的に返ってくるものであったとしても手取り額が減ってしまうことに抵抗感を感じる人は少なくありません。意図的に社会保険の適用範囲外で仕事をすることは多くあり、社会保険にあえて加入していないということは現状多く存在します。
選択的適用拡大導入時処遇改善コースは、社会保険の加入を渋る要因の1つである手取り額減少を改善するために基本給アップが行える助成金であり、社会保険適用範囲内へ移行する決断を促すための有効な制度です。選択的適用拡大導入時処遇改善コースでは最大360万が支給されますので、金銭的な部分から、社会で活躍したい人をサポートしたいとお考えの企業では是非活用してほしい助成金の1つです。