キャリアアップ助成金制度について
働き方改革など、非正規雇用労働者の問題は解決するべき優先順位の高い課題となっています。非正規労働者に関する課題を解決するために、2013年に非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップや賃金アップなどを促進することを目的とした「キャリアアップ助成金制度」が誕生しました。
少子化に伴う労働力人口の減少に伴い、定年後の再雇用など、パート・アルバイトなどの非正規雇用での労働人材確保も国の施策の一つです。リーマンショック以降、非正規雇用労働者の数は増え続けており、統計での平成29年のデータでは2,036万人の人が非正規雇用で働いています。正規雇用が3,423万人であるため、労働者のうち3人に1人は非正規雇用で働いているということです。
正規・非正規間の給与格差も大きな影響を与えています。国際的に見ても、正規・非正規間の賃金水準の差は大きいものです。ヨーロッパ諸国では7~8割程度であるのに対し、日本では6割弱と国際社会から見ても格差があると判断できます。
出典元『総務省』「地方公共団体の短時間勤務の在り方に関する研究会」説明資料
今回は、キャリアアップ助成金のうち、正規社員と非正規社員間の格差を埋めることを目的とした「賃金規定等改定コース」について紹介します。
キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースとは?
キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースは、非正規雇用労働者等の基本給の賃金規定等を増額改定し、昇給した場合に助成されるものです。
正規雇用者と非正規雇用者の間にはかなりの賃金格差が存在しています。データによると、所定内給与額を所定内実労働時間数で除した時給の平均で比較すると、2005年では非正社員と正社員の差は 1.7倍、また、所定外給与やボーナスなどの特別給与額を含めた年収全体で時給を比較すると、その差は2倍以上もありました。
2016年の非正規雇用社員と正規社員の賃金差については、所定内給与額ベースで 1.5倍、年収ベースで 1.8倍程度の差が生まれています。徐々に改善されている傾向にあるものの、国際社会の約8割といった水準にはまだ及んでいません。
同一労働同一賃金の考えもあり、こういった非正規雇用社員の賃金差を解消する目的で誕生した制度です。
受給金額について
受給金額は改定した規模と人数によって変わってきます。1年度1事業所当たり最大100人まで申請できます。
すべての有期契約労働者等の賃金規定等を2%以上増額改定した場合
※< >は生産性の向上が認められる場合の額、( )内は大企業の額
- 1人~3人 :1事業所当たり95,000円<12万円>(71,250円<90,000円>)
- 4人~6人 :1事業所当たり19万円<24万円>(14万2,500円<18万円>)
- 7人~10人 :1事業所当たり28万5,000円<36万円>(19万円<24万円>)
- 11人~100人:1人当たり28,500円<36,000円>(19,000円<24,000円>)
一部の賃金規定等を2%以上増額改定した場合
※< >は生産性の向上が認められる場合の額、( )内は大企業の額
- 1人~3人 :1事業所当たり47,500円<60,000円>(33,250円<42,000円>)
- 4人~6人 :1事業所当たり95,000円<12万円>(71,250円<90,000円>)
- 7人~10人 :1事業所当たり14万2,500円<18万円>(95,000円<12万円>)
- 11人~100人:1人当たり14,250円<18,000円>(9,500円<12,000円>)
中小企業において「3%以上」の増額改定を行った場合は、以下の金額が加算されます。<>は生産性向上が認められた場合です。
- すべての有期契約労働者等を対象とした増額改定: 1人あたり14,250円<18,000円>
- 一部の有期契約労働者等を対象とした増額改定 : 1人あたり 7,600円<9,600円>
受給要件について
受給要件は、キャリアアップ助成金制度で共通する部分と、こちらのコースのみとわかれます。キャリアアップ助成金に共通する部分は下記です。
キャリアアップ助成金全体に共通する受給要件
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
- 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備している事業主であること
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること
「キャリアアップ計画」とは、非正規雇用労働者のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるために、今後のおおまかな取り組み(目標・期間・目標を達成するために事業主が行う取り組み)などイメージでいいのであらかじめ記入するものです。このキャリアアップ計画は、あくまでも当初の計画を記入するため、変更届を提出すれば随時変更することも可能です。
そして「キャリアアップ管理者」とはこのキャリアアップ計画をすすめる人のことで、1事業所あたり1名配置します。キャリアアップに関して知識、経験のある人が望ましいですが、資格などは必要ありません。
賃金規定等改定コースのみの受給要件
- 有期契約労働者に適用される賃金規定を作成している
- 増額改定前の賃金規定等を3ヵ月以上運用している
(新たに賃金規定を整備する場合、対象となる有期契約労働者の賃金支払状況が3ヶ月分確認できること) - 増額改定後の賃金規定等を6ヵ月以上運用している
- 支給申請日において2%以上増額改定した賃金規定を運用し、その賃金規定等に属する有期契約労働者等に適用し昇給させている
申請するときには賃金が上がる3か月前のデータを提出し、改定後6ヵ月きちんと昇給した賃金が支払われているか、人事制度は運用されているかが比較、チェックされます。きちんと運用できているかがポイントになります。
申請期間について
賃金改定前日までにキャリアアップ計画書の提出、賃金規定等の改定(新規に作る場合は作成)・2%以上増額を行うことが必要です。計画書は、賃金規定等を改定する日までに労働局に提出する必要があります。その上で対象労働者の賃金規定等を改定した後6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に申請してください。
賃金規定等改定コース申請の注意点について
申請するには、労働協約又は就業規則、対象労働者の出勤簿又はタイムカード、賃金規定や賃金一覧表などの書類も必要となります。もしもない場合は、賃金規定を作るためにも職務評価表を作っておき、職務評価と賃金が連動できるようにしておくと良いでしょう。
同一労働同一賃金の対策に備えて活用を検討しよう!
家庭の事情などで、あえて非正規社員を選択し就業しているケースもありますが、正社員と非正規雇用社員の賃金格差はまだ3割以上あるのが現状です。
賃金規定等改定コースは、正規・非正規間の格差を埋めようと誕生した助成金で、国はどんどん進めていきたいと考えています。対象労働者数に対して支給金額が決まり、最小1人から受給が可能な助成金です。中小企業においては3%以上であれば、加算される形でさらに受給金額が増えるため、同一労働同一賃金の関連法案が改正される前に今から準備し、是非活用を考えてみてはいかがでしょうか。