同一労働同一賃金のガイドライン案の“元の法律”を知っていますか?
「同一労働同一賃金」制度は、2020年度の施行(中小企業については、準備期間を考慮して1年後)を目指し、関連法案の改正準備が進められています。
しかし実は既に「同一労働同一賃金推進法」という法律が存在しています。これは2015年9月に設けられた法律で、現在国会などで議論されている内容と同様に、EU諸国で一般的な「同一労働同一賃金」制度を基に、正規労働者と非正規労働者の賃金や待遇などの格差を是正するために成立した法律です。
「同一労働同一賃金推進法」は、実効性が不透明であったことや、経営者から「企業の実態を踏まえてほしい」などの意見があったことを受けて「企業の実態を反映しながら実行できる」内容へと改正が進められています。
今回は、2020年度の施行を目指している「同一労働同一賃金」制度を理解する上でポイントとなる、2015年9月に施行された「同一労働同一賃金推進法」について、概要や、今のガイドライン案(法改正案)にどう影響を与えているのかについて説明します。
同一労働同一賃金推進法の概要や問題点とは?
2015年施行時の目的について
「同一労働同一賃金推進法」の正式名称は「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」と言います。「職務待遇確保法」とも呼ばれます。2015年9月9日の参議院本会議で可決・成立し、公布日の同16日から施行されました。
雇用形態が多様化する現代において、“働き方”(正規労働者、非正規労働者など)によって、待遇や雇用の安定性の面で格差が存在しています。「正規・非正規」という働き方が、社会における格差の固定化の要因にもなっており、「正規・非正規間の格差」を是正するための施策を推進することを定めたのが、「職務待遇確保法」です
「雇用形態を問わず職務に応じた待遇を確保し、労働者が希望する雇用形態で働く機会を与えられ、充実した職業生活を送れるようにする」ことが、この法律の基本理念です。
「同一労働同一賃金推進法」では、職務に応じた均等・均衡待遇を確保するための国の責務や必要な取り組み(実態調査や施策など)について制定、実現を推進しています。企業にも、国の施策に協力するよう、努力義務を課しています。ただし、現在の同一労働同一賃金ガイドライン案のように「同一賃金を支給しなければならない」といった踏み込んだものではありませんでした。
関連法案として、均等・均衡待遇に関する労働法には以下のような法律があります。
- 労働基準法3条:均等待遇(国籍、信条、社会的身分を理由とした差別を禁止)
- 労働基準法4条:男女同一賃金の原理
- パートタイム労働法8条:短時間労働者の待遇の原則
- パートタイム労働法9条:通常の労働者と同視すべき短時間労働に対する差別的取り扱いの禁止
- 労働契約法20条:期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
- 派遣労働者法30条:均衡を考慮した待遇の確保
2015年施行当時の問題点について
法案成立時、もともとは踏み込んだ法律になる予定が、与野党の攻防があった結果、企業への法的拘束力が弱まってしまい、同じ価値労働には同じ対価をという「同一労働同一賃金」の原則から後退したものになりました。
当初「職務に応じた待遇の均等の実現」という記述があったのですが、最終的には、「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度その他の事情に応じた均等な待遇及び均衡のとれた待遇の実現」に変更されています。「責任の程度や事情に応じた」という表現が加わったことで、実質的に同一賃金にする必要はなく、企業がそれぞれで解釈できる余地を残しました。
「施行後一年以内に講ずる」とされた法制上の措置についても、「三年以内に法制上の措置を含む必要な措置を講ずるとともに、当該措置の実施状況を勘案し、必要があると認めるときは所要の措置を講ずる」に変更されたことで、実効性は不透明になっています。時間的な猶予ができ、場合によっては措置を講じないという選択も可能な内容になりました。
本来の「同一労働同一賃金」の基本的な考え方が曖昧になってしまった結果ですが、「同一労働同一賃金」に関する趣旨の法律ができたことは、一定の評価ができるという声もあります。
日本は、先進国の中で唯一「同一労働同一賃金」の取り組みが大きく遅れていると言われています。2008年時点で、経済協力開発機構(OECD)から、『正社員と非正規社員との格差を是正する旨の勧告』を受けています。働く人はもちろん、国際的な常識から考えても、働く現場で「同一労働同一賃金」の価値観を導入し、従来の格差を解消していくことは、待ったなしの課題なのです。
現在の同一労働同一賃金ガイドライン案での目的とは
現在の同一労働同一賃金ガイドライン案では「正規・非正規を問わず、均等・均衡な待遇を実現する」=「同一労働同一賃金」を実現するために策定されたもので、2016年12月20日に安倍総理が議長を務める「働き方改革実現会議」において政府案として提示されました。
このガイドライン案は今後、関係者の意見聴取や労働契約法などの改正法案に関する国会審議を経て最終的に確定され、改正法の施行に合わせて施行となる予定です。
ガイドライン案の施行時期
同一労働同一賃金ガイドライン案は、2016年12月に「働き方改革実現会議」に提示されました。2017年9月に労働政策審議会から法律案要綱の答申が行われており、この答申を踏まえて改正法律案を作成し、2018年4月に国会へ提出されています。
2018年7月6日に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が公布されました。パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法などの改正が盛り込まれていますが、大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月からの実施が求められています。
同一労働同一賃金をめぐる動向
- 2016年6月 「ニッポン1億総活躍プラン」閣議決定
- 2016年9月 政府「働き方改革実現会議」発足
- 2016年12月 働き方改革実現会議「 同一労働同一賃金ガイドライン(案)」提示
- 2017年3月 働き方改革実現会議「 働き方改革実行計画」取りまとめ
- 2017年6月 厚生労働省 労働政策審議会「 同一労働同一賃金に関する法整備について」取りまとめ
- 2018年上半期 労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法等改正案 通常国会で審議予定
- 2019年~2020年頃? 改正法施行?
引用元『PASONA WEBマガジン INITIATIVE』「同一労働同一賃金」法改正のポイントと企業が準備すべきこととは
実効性の高い法案になるために改正されている
「同一労働同一賃金推進法案」は2015年に施行されていますが、「企業の実態を反映していない」「実効力がない」などの理由から、企業の実態を反映して実行力がある内容に、法改正が進められています。
EU諸国で一般的な「同一労働同一賃金」をそのまま取り入れることは、企業の実態としても難しく、無理に実効させようとすると経団連を始めとした多くの企業の反発を受けることが考えられます。そのために、日本ならではの「同一労働同一賃金」制度の指針を示したものが、「同一労働同一賃金ガイドライン案」です。
同一労働同一賃金の目的である「正規・非正規間の格差是正」はもちろんながら、法改正では実効性も伴った内容になると予測されます。そのため、政府としても各企業への対応をより強く求められます。
自社の制度などの仕組みを変えるには、大きな労力がかかります。法改正されてから動くのではなく、法改正がされる前に「現在の評価制度の見直し」や「客観的かつ公平な評価制度」などの準備をしてみてはいかがでしょうか?