日本の企業内教育の現状について
これまで日本企業では、新卒一括採用、年功序列、終身雇用をベースとした、採用活動・人材開発等の人事戦略が取られてきました。その大きな流れの中で、日本では新入社員に対する非常に手厚い教育・研修が行われています。
一般財団法人 日本生涯学習総合研究所の調査によると、入社時の新入社員教育を行っている企業は97.5%にも上り、さらに入社1、2年の社員へのフォローアップ研修を実施している企業は、72.4%に達することがわかります。
出典元『一般財団法人 日本生涯学習総合研究所』「企業における人材育成」に関する実態調査 概報
リクルートマネジメントソリューションズは、管理職になってコーチングを受けたことがある人に対して調査を行い、206人から回答を得ました。調査結果によると、対象者のうち、約半数が「役に立つコーチングを受けたことがある」と回答しています。
出典元『リクルートマネジメントソリューションズ』コーチングに関する実態調査
コーチングと類似した概念であるティーチングも教育研修に用いられることがありますが、それぞれの目的や期待できる効果は異なります。
本記事では違いを明確にし、状況に応じてティーチングとコーチングを使い分けができよう、ご説明します。
ティーチングとコーチングの共通点と相違点は?
ティーチングは、英語の「teach」から来ています。「teach」は、語源が「指し示す」であることから、ティーチングは、「知識や経験のない人或いは少ない人に、自身の知識、指示、アドバイスを与えていくこと」と定義されています。
コーチングの意味・定義とは
コーチングは、一言で言えば「支援する」という意味で使われています。
コーチングの起源は、およそ1500年代まで遡り、コーチ(Coach)という言葉の語源は「馬車」であり、「人をその人が望むところまで送り届ける」という意味があるとされています。派生し、現在のコーチングの意味である「人の目標達成を支援する」という意味で使われるようになりました。
国際コーチ連盟(ICF)では、コーチングを「目標の達成に向けて、その人に必要な知識、スキル、ツールが何であるか棚卸しをし、テーラーメイドに備え付けさせるプロセスである」と定義しています。
ティーチングとコーチング、それぞれのメリット
ティーチングのメリットは、一度に複数人に対して実施できること、研修内容を統一できるところに最大のメリットがあります。
新人研修に代表されるように、社会人としてのビジネスマナー、会社の理念やビジョンの浸透など、複数人を一定のレベルに上げることを目的とする研修に最適です。研修内容は同じであるため、教える側のスキルやレベルに影響を受けることなく学ぶことができ、スタッフの習熟度合いをチェックしやすいこともメリットと言えるでしょう。
コーチングは「自発的に目標達成に向けたアクションが取れるように支援すること」が目的であるため、以下のメリットが挙げられます。
- 相手が、コーチングを通じて新たな視点や気づきを得ることができる。
- 相手の可能性ややる気を引き出すことができる。
- コーチングにより、一人では見つからなかったアイディアが生まれる。
- 考える力を育て、自発性や応用力を高めることができる。
コーチングにおいては、相手が「気づき」を得ることが重要な第一歩となります。「気づき」を得ることでやる気が芽生え、自主的にアクションを起こせるよう支援することが、コーチングの目的です。
ティーチングとコーチングの相違点について
ティーチングとコーチングの最大の違いは、コミュニケーションのスタイルです。
ティーチングにおけるコミュニケーションスタイルは、教える人から、教えられる人へ向けての「一方通行」となります。これはティーチングが、相手に「知識や能力がない」ことを前提とする(=つまり答えは教える側が持っていると考える)のに対し、コーチングは「知識や能力がある」ことを前提とする(=答えはコーチングを受ける人が持っていると考える)ためです。
当然コミュニケーション方法も異なり、ティーティングの場合は、教える人から教えられる人への一方通行となりますが、コーティングの場合は、コーティングをする人とコーチングを受ける人の間での双方向コミュニケーションになるのです。
ティーチングとコーチングの場面別使い分けについて
大勢をスピーディーに育成するには、ティーチングが向いています。教えた内容に統一性をもたせられるので、育成したスタッフ間で知識やスキルの差が出にくいのも、ティーチングのメリットの1つです。
- 基本的な知識を教えるとき
- 一度に大勢に対して研修を実施したいとき
- 教える内容に統一性をもたせたいとき
コーチングは、相手自身が気づきを得て、自発的にアクションを起こせるように支援するものです。コーチングを1セッション終えただけでは、これといった効果は感じられないことがあります。ティーチングに比べると、研修や教育の成果が得られるまで時間はかかりますが、本人がコーチングを通じて高めた考える力や自発性は、その後の業務上でも応用力を発揮することが期待できるでしょう。
- キャリアビジョンや目標設定をさせたいとき
- 異動などで新たな役職、役割を得た時のサポートとして
- 相手に気づきを与え、自発的な行動を促したいとき
ティーチング・コーチングを使い分ける
ティーチングとコーチングは、そのスタイルや考え方に大きな違いがあります。双方のデメリットを補完しあう形で、教育・研修制度に盛り込み、運用ができれば、最大の効果を得ることができるでしょう。
教育対象者にとって、ティーチングとコーチングのどちらが重要であるかを判断する能力も必要です。個々のスキル、能力、状況に差がある、中途入社のスタッフや、管理職への教育・研修の場合は、人事担当者のみならず、直属の上司や、現場の先輩社員らが、適切な教育方法や研修内容を判断できるようにしておくことも肝要でしょう。
そのために人事と現場の受入部署が連携し、最適な研修スタイルについて議論する場を設けたいものです。