少子高齢化で離職防止の価値が向上している
厚生労働省の調査によると、大卒の3年以内の離職率は長らく3割程度であり長らく改善されていません。少子高齢化で働き手が減っていく中で政府は働き改革で高齢者や女性、あるいは外国人労働力などの利用促進を進めていますが、それにも関わらず、労働力人口は減っていくと考えられています。
離職率改善に乗り出している企業は多いものの、多くの企業では有効な対策が打てておらず、対策はしているものの効果は出ていないといった状況が一般的になっています。社員の離職理由は各企業によって大きく異なるため、どの企業にも通用する「万能薬」のような対策が存在しません。一般的に退職する社員は「一身上の都合で」と離職に至った理由を曖昧にしたり建前の理由を会社に伝える場合が多く、社員を離職させている理由の特定が困難な場合が多くなり、適切な対策ができないためです。
しかしどのような理由が建前として使われることが多いのか知ることで、対策もとりやすくなります。今回の記事では、建前としてよく伝えられる理由を紹介します。
離職理由で本音は伝えない?改善すべき原因を見極めるために
リクナビなどの公表している離職理由の本音ランキング・建前ランキングなどのデータを比較すると、退職者が実際に会社に伝えた建前の離職理由と本音の理由の間には大きな違いがあることがわかります。
参考URL『マイナビ転職』本音と建前は必須? 退職理由ランキングと好印象な伝え方・例文
参考URL『リクナビNEXT』転職理由と退職理由の本音ランキングBest10
「給料や待遇が悪い」ことでの離職が多い場合、離職率改善として「給与や待遇を向上させる」施策が考えられます。しかし「給料や待遇が悪い」理由が建前である場合には、「給与や待遇を向上」させても離職数は減らないどころか、既存従業員の人件費の増加につながり、他の施策の予算に影響が出てしまう可能性があります。
離職を防止する施策を考えるためには、自社で多い離職理由を見極める必要があります。本音と建前でギャップの大きい離職理由については、離職する社員からの意見を引き出せず、改善すべき原因を見落としてしまう可能性もあります。改善すべき原因を見落としてしまうと、本質ではない施策に対して予算や時間を使ってしまうことにも繋がります。
なぜ建前の離職理由を伝えるのか
退職の意向を固めている社員にとって、本音の理由を伝えることのメリットはほとんどありません。辞めたあとの会社のことを思って伝えるといった場合を除いて、退職者の関心は辞めるまでの期間に気まずい思いをしないことや、あまり問題にならずにスムーズに辞められることなどにあります。
退職が決まってから実際に退職するまで一緒に働く社員の悪口や直接辞表を提出することになる上司への不満など、人間関係に関する問題は伏せられる傾向があります。
建前の離職理由として多く挙げられる内容について
リクナビの建前ランキングによれば、実に回答者の4割が挙げた「キャリアアップのため」という理由に続いて「仕事内容が面白くなかった」「労働時間、環境への不満」「会社の経営方針や経営状況の変化」「給与が低かった」「雇用形態への不満」「勤務地が遠かった」などが挙げられています。
キャリアアップなどのポジティブかつ引き止めにくい理由を伝えることで、引き止めにあわないようにする意図が考えられます。
仕事内容、経営方針、雇用形態とのミスマッチや、給与、労働環境などの待遇面、勤務地との距離への不満など、不満を聞いてもすぐに変化させることが難しい理由を伝えることで、会社側も退職者側も納得した上でスムーズに離職できるように意図していると考えられます。
本音と建前のギャップが大きい理由について
本音ランキングにおいてはたった6%しか挙げていなかった「キャリアアップのため」という理由が約4割もの退職者に建前の理由として挙げられており、聞こえもよく、一般的に幅広く用いられていることがわかります。
本音ランキングでは上位に入っていた、上司・経営者への不満、社長のやり方や社風とのミスマッチ、同僚、先輩、後輩などとの人間関係の問題など、性格的な不一致や属人的な理由は、建前ランキングでは上位にランクインしていません。
実際に退職するまで人間関係のトラブルを避けたいなどの理由や、退職したあとも上司や職場の同僚などと少なくとも表面上は良好な関係を保ちたいなどの理由が考えられます。
離職率改善における原因は慎重に見極めよう
多くの人が離職理由として建前を会社に伝えているため、自社の離職率改善のためには、本音の離職理由を見極めて改善しなければなりません。
建前の退職理由ではポジティブな内容が挙げられやすいため、今までの仕事ぶりや考え方などからポジティブな理由が建前なのか本音なのか、十分に見極める必要があるでしょう。