1900年代から1940年代までの主流だった「特性理論」
リーダーシップの研究の歴史は古く、その必要性は紀元前にすでに指摘されていたほどです。ビジネスシーンでの有用性が明らかになると、1900年代からアメリカを中心としてリーダーシップの研究が盛んとなってきました。そしてさまざまな仮説などが検証され、現代のリーダーシップ理論があるのです。
その基礎をなしているのが「特性理論」と呼ばれるものです。
1900年代から1940年代までに研究されてきたこの理論は、カリスマ性のような「リーダーシップ」は「生まれながらの天性」であるいう仮説が前提としてあります。
リーダーシップを定義づけるものとは何でしょうか?
この記事では、特性理論の説明を通して、リーダーシップについて考えを深めていきます。
特性理論はどのように生まれたのか?
歴史上のリーダーシップについて言及した重要な書物として、プラトンの『国家論』とマキャベリ『君主論』の2つが挙げられます。『国家論』では「英知を持ったリーダーが国を治めよ」といういわゆる哲人理論が主張されていて、『君主論』では「権謀術数に長けたリーダー像」の必要性が言及されています。
19世紀になると、トーマス・カーライルが『リーダーシップ偉人説』を発表しました。『リーダーシップ偉人説』では「他より優れた何らかの資質を持ち合わせた偉人だけがリーダーと成り得る」という主張がなされており、これがリーダーシップを先天性なものと捉える特性理論の基礎となっています。
特性理論における前提
リーダーシップが語られる歴史のなかで「リーダーシップとは生まれ持った才覚により発現する」という思想が定着しました。では、特性理論ではそもそもどのような人物を「リーダー」とみなしていたのでしょうか?
特性理論におけるリーダーとは「ある目標の達成に向けて組織の構成員の能力や行動を引き出す能力を持つ者」とされています。ポイントは「単に目標を達成する」という一点でなく、「組織としての機能を十分に発揮させながら目標達成へと導く」ということです。自他共栄の振る舞いを行える人物をリーダーと呼び、そうした能力のことを「リーダーシップ」と呼んでいるのです。
どのような特性が「リーダーの才能」になるのか?
リーダーシップの有無を調べるにはどのような特性を吟味すれば良いのでしょうか?
多くの研究の結果、以下の要素が「リーダーの資質」としてリストアップされました。
- 知性:学識や判断力、創造性などの知的営みの能力が高い。
- 行動力:判断力、協調性、社交性、適応力など状況に応じた行動の的確さ。達成志向、根気、忍耐などの最後までやり遂げる力がある。
- 信頼感:自信、責任感に溢れメンバーとの関係性を構築できる。
特性理論の問題点
リーダーとしての資質を見極めるための指標となった特性理論ですが、1940年代で研究は衰退します。というのも、特性理論では「リーダーと非リーダー」という大きな区別には役立ったのですが、「リーダーシップを持つ人材」をより細かく研究する上で不十分な要素が多かったのです。
リーダーを取り巻く環境や、やるべき業務などによって、振る舞うべき態度は変わってきます。外的状況などを加味したリーダーシップ理論の構築のためにも、リーダーシップを多角的に議論する必要が生まれました。
時代とともに変わる「リーダーシップ」
リーダーシップの特性理論は「リーダーシップは天性的なもので生まれつき備え付けている」の考えに基づいて研究されてきましたが、普遍的な特性が発見されませんでした。
「リーダーシップは生まれつき備えついているものではなく、誰しもが身につけられる可能性があるものである」と新たな仮説が成り立ったのです。時代とともに、リーダーシップの認識も変化していったことも大きな要因です。その結果、リーダーシップ研究は「特性理論」から「行動理論」へと移行していきました。
歴史小説などでは「リーダーシップは生まれつき備え付いているもの」と表現されることが多いのですが、実際にはそうでなく、エンターテイメント・フィクションとして捉えるべきだと言えます。