リーダーシップは相手があってこそのもの
歴史をさかのぼると、紀元前から「リーダーシップ」の重要性が説かれています。プラトンやマキャベリなどの著作が有名ですが、1900年代以降は主にアメリカで広く研究され、多大なる発展を遂げてきました。
現代リーダーシップ理論の初期の研究では「リーダーシップとは生まれながらに備わった性質である」という前提を持つ「特性理論」が主流でした。しかし1940年代になると、リーダーの特徴などをつぶさに研究するにはそれでは不十分となり、性質でなく「行動」に目を向けた行動理論が提唱されました。
行動理論もまた、1960年代になると限界が指摘されました。行動理論では「理想のリーダー」とされる人物でも、実際にはリーダーシップをいつも適切に発揮できているわけではなかったのです。「どのような状況下でも唯一普遍で最適となるリーダーシップは存在しない」という疑問が生じたのです。では「どのような状況下であれば」「どのようなリーダーが最適なのか」を研究した「条件適合理論」が提唱されました。
条件適合理論のうち、部下の業務習熟度に注目した「SL理論」を紹介します。
SL理論とは?
SL理論とは、Situational Leadership Theoryの略であり「状況に応じたリーダーシップ理論」を意味しています。特性理論や行動理論ではリーダーの人格や行動に注目されていましたが、それに続いた条件適合理論ではリーダーを取り巻く環境も視野に入れ、より一般化したリーダーシップ理論を目指しています。
SL理論は1977年P.ハーシーとK.H.ブランチャートにより提唱されました。大枠はこれより以前に提唱されたフィドラーによるコンティンジェンシー・モデルを継承したものですが、SL理論では部下の業務習熟度に特化したリーダーシップ・スタイルの分類を行っています。
重要になるのがいうまでもなく「部下の習熟度」です。管理職になればさまざまな部下がつくことになりますが、SL理論では「新人」「仕事になれてきた若手」「さらに仕事になれてきた若手〜中堅」「一人立ちできているメンバー」というフェーズに分類して、とるべきリーダーシップを検討します。
SL理論で考える2つの軸
部下の習熟度だけでなく、当然ながら「リーダーとしてどのように接するべきか」にも具体的な指標が必要です。SL理論では部下に対する接し方を「援助的行動」と「指示的行動」の2軸で考えます。
援助的行動とは、主に部下との信頼関係構築などを目的とした行動で、「傾聴する」「褒める」「促進する」などといったコミュニケーションや承認行為を指します。
指示的行動では、業務の手順などを具体的に指示する行為を指します。仕事の仕組みを「構造化する」ことであったり、文字どおり指示を与える「コントロールする」ということがここに含まれます。
部下に合わせたリーダーシップの取り方
SL理論ではどのようなリーダーシップの取り方が提案されているのかを見てみましょう。
出典元『EARTHSHIP CONSULTING』SL理論(状況対応型リーダーシップ)
指示型リーダーシップ
具体的に指示をし、業務管理を細かく行います。
入社したばかりの新人などは「何をしたら良いかがわからない」ことが多いため、的確に指示を与えることが成長につながります。
コーチ型リーダーシップ
リーダーの考えを部下が納得いくよう説明し、疑問を解消するよう努めます。
新人から業務に慣れてきた段階で、「部下自身の考え」を尊重して「自律的に仕事を進める能力」を養成する際に有効です。仕事になれてきた若手社員に対して行うと、成長を促せます。
援助型リーダーシップ
部下と相談し、考えを共有しながら業務を進める段階です。
具体的な指示を減らすことで、部下が自分自身で何ができるかを考えて実行できる段階です。しかし不安なことも多いため、上司が適切にサポート(支援)を行いながら、自分の考え方を養っていきます。仕事になれてきた中堅社員に対して行うと、成長を促せます。
委任型リーダーシップ
業務遂行を部下に委ねます。この段階に移行すると、部下自身もリーダーとして振る舞えるようになり、一人立ちを目標とします。
「次のリーダー」を育てるためのリーダーシップ
SL理論は「部下の業務の熟練度に応じて適したリーダーシップを発揮する」ことが重要であるという考えが根幹にあります。
部下の状況にあわせてコミュニケーションを取るべきか、指示を出すべきかなどの行動が定まるということを示した理論であり、現代のリーダーシップの考え方にかなり近いものとなっています。実際に、新人社員や中堅社員などへの対応が変わるのは現在の日本の働き方においてもイメージがわきやすいのではないでしょうか?
SL理論も、元をたどると行動理論で重要視されていた「業務への志向性」と「人への志向性」が根本の考えにあり、現在の日本でリーダーシップを発揮するためには「業務への志向性」と「人への志向性」は欠かせないものなのです。