アファーマティブアクションとは?実際の取り組み事例をご紹介!
アファーマティブアクションとは、男女格差をなくすための措置のことであり、男女間の格差の是正を目的に行う取り組みの総称です。ポジティブアクションという言葉で表される場合もありますが、意味に違いはありません。
格差による不利益を被っている側が女性であることが多いため勘違いされがちですが、アファーマティブアクションという言葉は、女性への救済措置のみを表すわけではありません。今回の記事でも女性への格差を主に扱いますが、保育士や看護師などの女性が多い職場では、男性への格差是正を意味します。
アファーマティブアクションに積極的に取り組む企業は増加しており、取り組みの内容や結果など、様々な事例が公開されています。
今回の記事では、アファーマティブアクションに実際に取り組んだ企業の事例から、アファーマティブアクションに取り組む際のヒントを探していきます。
アファーマティブアクションの企業における実施事例
アファーマティブアクションに取り組んだ企業の事例を「抱えていた課題」「取り組みの内容」「取り組みの効果」に分けて、6例ご紹介します。
- 日本航空株式会社の事例(女性の活躍推進のための体制整備)
- 野村證券株式会社の事例(募集・採用の取り組み)
- 明治安田生命保険相互会社の事例(職域拡大の取り組み)
- 株式会社リクルートホールディングスの事例(登用の取り組み)
- 東京急行電鉄株式会社の事例(継続就業の取り組み)
- 株式会社アイエスエフネットの事例(環境整備・風土改善の取り組み)
1.日本航空株式会社の事例(女性の活躍推進のための体制整備)
日本航空株式会社では、アファーマティブアクションの取り組みとして、女性の活躍推進のための体制整備を行いました。
- 事業内容:航空運送
- 従業員規模:12,000人
抱えていた課題
日本航空株式会社は、以前から女性の活躍推進に積極的に取り組んでいます。
JALグループの半数は女性従業員であるため、女性が活躍できる場の発掘と女性の視点を積極的に事業運営に取り込むことが、新たな企業価値の創造につながると考えました。
取り組みの内容
- 最大3年取得可能な育児休職制度を整備
- 家庭と仕事の両立を支援するため、勤務に応じた制度(深夜勤務免除、育児短時間勤務制度など)を整備
- 2014年度から一時保育補助、月極保育補助育児用品レンタル補助、家事代行などの補助サービスを拡大
- 業務効率の向上により、全社員のワークライフバランスを推進し、女性をはじめとする多様な人財が能力を十分に発揮できるよう、男女共に働き方の柔軟性を高める
- 個々の業務の繁閑に合わせた柔軟な働き方を促進する観点から、2015年度からフレックスタイム制の適用部門を拡大し、更なる利用を促進
取り組みの効果
女性の活躍推進のための体制整備に取り組んだ結果、女性管理職の数と比率が年々増加しています。
2.野村證券株式会社の事例(募集・採用の取り組み)
野村證券株式会社では、アファーマティブアクションの取り組みとして、募集・採用の取り組みを行いました。
- 事業内容:証券業
- 従業員規模:12,000人
抱えていた課題
野村證券では、2005年まで総合職・一般職の区分が存在し、男女間で職種役割がはっきり分かれていました。
社員一人ひとりに最大限に能力を発揮してもらうために、男女間の職種役割をなくし、採用の仕組みも変更する必要がありました。
取り組みの内容
- 採用関連のイベントで女性の働き方に特化したセミナーを実施
- 性別に一切関係のない採用選考を行う一方で、女性社員の話を聞くことで、女性の学生が入社後のイメージを持ちやすいようにしている
- 総合職で働くイメージが持てるよう、女性の働き方についての講演を行い、女性が働く上で大切なキャリア支援制度やワークライフバランスなどについて紹介
- 面接官を男性・女性ともに設置し、採用選考に必要な内容の研修を受講し対応
取り組みの効果
アファーマティブアクションに取り組む以前である50歳以上の世代を除けば、社員の男女比がどの世代でもほぼ同数になっています。
3.明治安田生命保険相互会社の事例(職域拡大の取り組み)
明治安田生命保険相互会社では、アファーマティブアクションの取り組みとして、職域拡大の取り組みを行いました。
- 事業内容:金融業・保険業
- 従業員規模:34,000人
抱えていた課題
明治安田生命保険相互会社では、会社全体で約6割いる女性社員のキャリアアップ意欲が年々向上しているのに対して、女性に向けたキャリアアップ制度が伴っていませんでした。
取り組みの内容
従来の雇用管理区分は「総合職」「特定総合職」「アソシエイト職」の3区分で、女性が大半を占める「特定総合職」「アソシエイト職」では、管理職登用に制限(課長相当職まで)がありました。
2015年4月から雇用管理区分を「転居を伴う/転勤がない」以外は同等の位置づけとする「総合職(全国型)」と「総合職(地域型)」の2つに段階的に再編・統合し、2017年4月に職種の再編・統合を完了して、女性の活躍分野を拡大しました。
役割(職制・職務)に応じた処遇を「総合職(全国型)」と「総合職(地域型)」で共通にして「同一職務=同一賃金」を指向する処遇体系に見直しました。
取り組みの効果
女性管理職比率が2014年では8.6%だったのが、2017年には21.2%と大幅伸展し、女性職員のキャリアアップ意欲も過半数を超える水準に上昇しました。
女性だけでなく男性も働きやすい会社として、両立支援制度の一つである育児休職において、2016年度の男性育児休職取得率が92.8%と高い取得率になっています。
4.株式会社リクルートホールディングスの事例(登用の取り組み)
株式会社リクルートホールディングスでは、アファーマティブアクションの取り組みとして、登用の取り組みを行いました。
- 事業内容:人材ビジネス・販売促進支援領域の情報・サービスの提供
- 従業員規模:3,000人
抱えていた課題
リクルートホールディングスでは、管理職は長時間労働で責任の高い仕事を行う分、家庭との両立が難しいという組織風土がありました。
管理職の女性比率は、課長職で10%ほどいましたが、部長・役員層においては非常に少なく、一般的な平均レベルと同じか平均よりも低い状態でした。
取り組みの内容
- 女性次世代経営人材の育成
将来的に経営を担うポストへの積極的な女性輩出を目指し、経営候補となる女性社員にスキル/スタンスの醸成を目的とした、女性研修プログラムを実施しました。
- 28歳キャリア面談
ライフイベントが重なる28歳のタイミングで自らのキャリアを考えてもらうために、女性社員に対して先輩女性社員がメンターとなるキャリア面談を実施しました。専用サイトを作り、メンターのこれまでのキャリアや28歳当時の悩みを紹介し、多様なロールモデルを提示しています。
- 海外エグゼクティブとのネットワーキング
女性社員の視野を広げることを目的に、海外の関連会社の女性エグゼクティブとの座談会を実施しました。様々なロールモデルを積極的に提示することで、アグレッシブなキャリアプラン設計の支援をしています。
取り組みの効果
リクルートグループ全体で、課長職だけではなく部長や役員層の女性比率が伸びています。
出典元『ログミーBiz』リクルートの4年間の取り組みでわかったこと
女性活躍だけでなくダイバーシティの観点で取り組んでおり、介護、LGBT、男性の育児・育休など包括的に取り組み、社内の意識醸成にも効果が表れています。
5.東京急行電鉄株式会社の事例(継続就業の取り組み)
東京急行電鉄株式会社では、アファーマティブアクションの取り組みとして、継続就業の取り組みを行いました。
- 事業内容:鉄軌道事業・不動産事業
- 従業員規模:4000人
抱えていた課題
平均勤続年数が男女で約10年も差があり、女性にとって長く安定的に働ける環境ではありませんでした。(2013年時点で、男性平均勤続年数19年4ヶ月、女性平均勤続年数9年9ヶ月)
取り組みの内容
- 育児休職の延長:「1歳到達後最初の4月15日まで」に延長
- 育児時間有給の付与:子が1歳まで1日2回、1回30分
- 所定外労働の免除:子が小学校就学の始期に達するまで
- 短時間勤務の許可:子が小学校就学の始期に達するまで1日2時間の範囲内
- 子の看護のための休暇 :子の人数に関係なく年間10日
- 家族看護の支援:年間20日まで保存年次休暇の使用
- カムバック制度:育児を理由に退職した者で、退職時に再入社意思がある者は、末子が小学校4年生に達するまでの間に再入社を許可
- 多用な働き方支援:半日休暇・時間休暇・スライド勤務・バリュータイムなどの各種制度を整備
- カフェテリアプラン提供:社員向けの法定外福利制度であるカフェテリアプラン制度の中で、ベビーシッターや保育所を利用する際の費用補助を、選択式メニューとして提供
- 育児休職者への情報提供:社内の各種情報提供を行うために、外部のwebシステム(wiwiw)を導入
取り組みの効果
在籍人員に占める女性比率が、2013年では13%だったのが、2017年には16.3%に増加しました。女性の平均勤続年数も9年11ヵ月に伸びています。
6.株式会社アイエスエフネットの事例(環境整備・風土改善の取り組み)
株式会社アイエスエフネットでは、アファーマティブアクションの取り組みとして、環境整備・風土改善の取り組みを行いました。
- 事業内容:情報通信業
- 従業員規模:1,800人
抱えていた課題
IT業界では元々女性が少なく、ライフイベントを通してキャリアを諦める女性が増加する傾向にあります。株式会社アイエスエフネットでは、IT業界での女性の雇用増加と、女性の活躍の場の創造を目指して、アファーマティブアクションの取り組みを始めました。
取り組みの内容
育児休業期間中に積極的に社員とコンタクトをとり、会社からの情報を伝達したり近況を確認したりして、育児休業中に感じる疎外感を和らげ、スムーズに復職できるよう支援しました。
女性のキャリア形成を支援するため、外部講師を招いた講習会や、子育て中の社員同士の交流会等のイベント「ほっとサロン」を半年に1回開催しました。女性だけに限らず、従業員が健康に充実して働けるように「働く人が健康になるセルフメディケーション研修」などのイベントや研修を開催しました。
ダイバーシティ部の主導で、社内で起こっている問題や今後の課題に対しての改善の提案を、ダイバーシティ会議で月1回行っています。
取り組みの効果
女性社員の産休・育休取得率だけでなく、取得後の復職率がほぼ100%となっています。
男性の育児休暇取得率も年々増加し、2011年以降平均して20%を超えています。2017年には初めて女性役員が誕生し、女性の活躍推進が広がっています。
他社の事例を参考にアファーマティブアクションに取り組もう!
アファーマティブアクションに取り組む企業は非常に多く、今回ご紹介した企業以外でも、様々な取り組みが行われています。
アファーマティブアクションの取り組みの内容は、企業の抱える課題や目標によって異なり、一つの取り組みが複数の課題に対して有効という場合もあります。
自社でアファーマティブアクションの取り組みを始めるに当たって、他社の事例を参考にして、自社の課題や取り組みの内容を検討してみてはいかがでしょうか。