ピーターの法則を知っていますか?
組織構造を成す人材の特徴として、「ピーターの法則」という言葉があります。ピーターの法則とは「企業など組織に属する人材は、その全員が自己の能力を発揮・進展させ続けなければ、組織がいずれ「無能化」し、機能しなくなる」という階層社会学の法則です。
ピーターの法則は、米国の教育学者であるローレンス・J・ピーター氏が、著書『ピーターの法則―〈創造的〉無能のすすめ』の中で提唱したことから名前が付けられた法則です。能力主義社会の現況が表されているとして、ビジネスの分野でよく用いられる法則でもあります。
「同一労働同一賃金」の価値観が広く浸透している欧米諸国では、個人の成果に対して、報酬や昇進・昇給などが発生する成果主義が中心です。一方で日本は、独自の雇用システムである「終身雇用制」や「新卒一括採用」などが一般的で、個人にさまざまな業務を経験させることで能力を高め昇進・昇給させる能力主義が中心です。「ピーターの法則」は、日本のような能力主義において当てはまりやすい法則であると言われています。
「ピーターの法則」とは一体何なのか、概要や特徴について説明致します。
昇進したら無能になる、ピーターの法則とは?
ピーターの法則の意味と定義
「ピーターの法則」とは、「企業などの組織に属する構成員は、その全員が自己の能力を進展させ続けなければ組織がいずれ無能化し、機能しなくなる」という、社会学的な見地から組織構造を成す人材の特徴を説かれたものです。ローレンス・J・ピーター氏の著書『ピーターの法則(The Peter Principle)』で提唱されたものです。
世界的ロングセラーである『ピーターの法則』は、1969年の刊行から現在に至るまで、世界中で読まれている「伝説の名著」と言われています。
ピーターの法則の内容
ピーターの法則の概要をまとめると、次の3つが挙げられます。
- 有能な人も昇進し続けると、いつしか能力の限界に達する=「無能」になる。
- あるポストにおいて、有能な人はさらに出世していくが、無能な人は今のポストに留まり昇進が止まる。有能な人でも次のポストにおいて同様のことが挙げられ、一定のポストで留まってしまう。結果、どの階層も無能な人材で埋め尽くされる。
- 組織は「まだ無能レベルに達していない人」が仕事をすることで機能している。
昇進・昇格をしても、そのポジションがその人にとっての限界点である場合、どれほど優秀だった人材も「無能化してそのポジションに留まる」という事象が発生します。つまり、無能な管理職層が構築されてしまうということです。
「課長」に昇進した従業員がいたとしても、有能である人材はいずれ「次長」に昇進します。しかし「課長」で留まる人材は、次長としての能力などが足りていないと判断されます。次長に昇進した人が、部長に昇進できないのであれば、部長としての能力が足りていないと判断されます。まだ昇進し続けている組織であればよいのですが、昇進しきった組織での現状のポストは次のポストに昇格できない人材(次のポストにいくための勉強や実績がつかない人材)に埋め尽くされるというものです。
ピーターの法則は、すべての階層社会のからくりを理解するカギとなるものとも言われます。ビジネスの現場から産業界、政界、官公庁、宗教、教育現場まで、さまざまな分野に従事する人は誰もが、ピーターの法則の影響を受けています。
【参考:日本型雇用とピーターの法則】
日本型の出世ともいえる「現場叩き上げで管理職やそれ以上に出世する人」は、特にピーターの法則が当てはまりやすいと言われています。背景には、現場の末端で厳しい仕事を経験しているため、“努力を重ねて出世することが働く上でのゴールだ”という感覚を持っているからでしょうか。
欧米諸国のように、MBA取得者を経営陣に据え、経営層と現場を分けているケースではピーターの法則は生じにくいと言われます。 特に米国の雇用システムでは、賃金は労働の対価であるという「同一労働同一賃金」の概念が一般的です。組織はトップダウン方式で、仕事はリーダーから上層管理職、担当者という順番に告げられます。こういったシステムでは、管理職が無能では目標の業績をあげることは困難です。
MBA取得者の経営陣は、学びという自身のバックグラウンドに自信を持ち、積極的に行動することや学びの習慣が常態化します。そのため、現在のポジションで最善の行動をやり抜く力持ち合わせている人が多く、結果、目標を達成していく可能性が高まるのです。
ピーターの法則を回避するための対策例
ピーターの法則への対策としては、次のような内容が挙げられます。
- 次の段階の業務に必要な技術やスキル、仕事のやり方が身につくまで、昇進を控える。
- 有能な人を能力が発揮できる地位に固定する。この場合、昇進できないことへの不満解消策として昇給させるなどの対応は、マストで考えること。
人が昇進を続けると無能になるのは、高い地位の仕事が、現在の業務を基礎としてより高度な知識や技術が求められることに基づいていないからです。昇進前と昇進後とでは、求められる業務内容やスキル・能力、成果が異なるため、それまでの技術や経験が生かせなくなることが大きな原因です。
あらかじめ個人の適性を精査し、人材の能力を最大限発揮できるようなマネジメントが求められるのではないでしょうか。
誰もがどこかで、能力の限界点に達する可能性を考慮する
ピーターの法則は、ビジネスの現場に密接に関係しており、現場で活躍している社員を管理職にした場合などに発生しやすいものです。優秀なプレイヤーが必ずしも優秀なマネージャーになれるわけではありません。
人事担当者や経営層としては、人材のマネジメントスキルの有無を見極め、管理職への昇格か、役職はそのままで昇給させる方法で個人の働きに報いるのが適当なのかなど、人材の適材適所を見極める必要があります。その際に、ピーターの法則をどれだけ熟知し活用できるかが、組織作りに大きく影響します。この機会に、今一度ピーターの法則を確認しておくことをオススメします。