中小企業こそ「面接の仕方」の見直しが急務
日本の生産年齢人口(※)は、1990年代をピークに減少の一途をたどっています。2013年には32年ぶりに8000万人を下回り、5年経ったいまも人口減少に歯止めがかかる兆しはありません。平成26年版「情報通信白書」(総務省)によると2060年、生産年齢人口は4418万人にまで落ち込む推計です。
(※)生産年齢人口とは、15歳以上65歳未満の生産活動に従事しうる年齢の人口を指し、働く意思のある労働力人口と働く意思のない非労働力人口に分けられる。
生産年齢人口の著しい減少を受けて、「人手不足倒産」も深刻さを増しています。2018年7月9日に帝国データバンクが発表した「人手不足倒産の動向調査(2018年上半期)」によると、 従業員の離職や採用難などによって収益が悪化し倒産に至った件数は70件。半期ベースで過去最多を更新したなか、特筆すべきは中小規模企業の倒産が目立っていることです。
出典元『帝国データバンク』人手不足倒産、3年連続の前年同期比増
文部科学省の「平成29年度大学等卒業者の就職状況調査(4月1日現在)」によると2017年度卒大学生の就職率は98.0%で調査以来過去最高を記録しましたが、ここでも大企業と中小企業との採用力格差は顕著になりました。リクルートの「第35回 ワークス大卒求人倍率調査(2019年卒)」によると、大卒求人倍率は1.88倍ですが、中小企業のみに限定すると9.91倍に跳ね上がり、中小企業における採用難が懸念されます。
出典元『株式会社リクルート』第35回 ワークス大卒求人倍率調査(2019年卒)
出典元『株式会社リクルート』第35回 ワークス大卒求人倍率調査(2019年卒)
採用競争に敗れ人手不足で事業遂行不能となり倒産に追い込まれる。こうしたリスクは、もはや対岸の火事ではありません。中小企業ほど、自社に合った人材を採用し定着率を向上を図る必要に迫られています。そのためには「面接の仕方」を見直し、改善することが急務になります。
面接の仕方を見直すことで、採用競争力は上げられる
採用力強化や従業員の定着率を改善するために「面接の仕方」を見直し改善することが役立つといえる、面白いデータがあります。
株式会社ディスコの「学生モニター調査」によると、内定辞退者の約77.8%が「もともと志望度が高くなかった」ことをその理由に挙げています。続く第2位「条件面」は31.9%ですから、選考過程において応募者の志望度をいかにして高められるかが採用力強化のキモであることがわかります。
出典元『株式会社ディスコ』8月1日時点の就職意識調査-キャリタス就活2018 学生モニター調査結果(2017年8月発行)
さらに同調査では、第一志望ではなく”すべりどめ”だった企業への入社を決めた人に、なぜ入社を決めたのかを質問しています。42.2%が「面接など選考を進めるなかで徐々に」と回答しています。面接で採用担当者と接点を持つことで志望度が高まれば入社に至りやすい、という傾向が読み取れるのです。
出典元『株式会社ディスコ』8月1日時点の就職意識調査-キャリタス就活2018 学生モニター調査結果(2017年8月発行)
応募者と直接対面する面接の場は、以前とは比べ物にならないくらい重要度が上がっています。「面接の仕方」を見直し改善することで、採用競争力の向上を図れるのではないでしょうか。
面接の仕方改善に役立つ6つのチェックリスト
1.面接官は会社の顔、法的タブーにも注意をする
新人や若手の面接官がまず抑えておくべきは、面接官の心得でしょう。
応募者は面接官の態度を見て、入社後の様子をイメージします。採用要件に合う人物かどうかを評価しようと、採用面接ではあれこれ質問しがちですが、面接官は会社の顔であることを忘れず、相手をリラックスさせて本音を引き出せるようつとめましょう。
質問が禁じられている”法的タブー”にも要注意です。万が一、禁止事項を質問してしたことへの不満をSNSなどで拡散されたときのダメージは計り知れません。
2.「良い人材」と「悪い人材」を定義しよう
面接という限られた時間の中では、スキルマッチやポテンシャルに目が向きがちです。けれども、最も重要なのは「自社に合うかどうか」です。
人事部門のKPIは応募者数や面接数、採用人数に置かれることが多いものですが、せっかく採用した人材が早期離職してしまっては本末転倒です。定着率向上を視野に入れて面接を行うために、自社に合うかどうかを基準にして「良い人材」と「悪い人材」を定義する必要があります。
3.面接評価シートを作成し、評価項目を明確にする
履歴書や職務経歴書からは判断できない「人柄」の評価は、自社に合うかどうかを測る重要な指標です。「面接の仕方」見直しにおいても、肝心なポイントです。
応募者の「人柄」を評価するのは言語化が難しいものですが、人材要件にあわせ自社オリジナルの面接評価シートを策定してみましょう。
評価シートを策定することで「評価項目」と「評価基準」が明確になり、面接時にはシートに沿って質問をすることができます。また、面接官同士での目線をあわせて組織で一枚岩となって採用競争に挑むことが可能になるでしょう。
4.評価基準を明確にしよう
人材要件を満たし自社へのマッチ度が高い人物を採用するためには、評価項目だけではなく評価基準を明確にし、採用に携わる全員に周知することが大切です。最近では、リファラル採用を推奨する企業も増えていますから、その場合は一般社員へも周知が必要です。
たとえば、評価項目の一つが「主体性」と定められていても、何をもって主体性が高いとみなすのかという判断基準が曖昧だったり人によって異なると、評価シートを策定しても形がい化してしまいます。
5.主観での評価から脱却しよう
順を追って「面接の仕方」見直しを進めても、ベテラン人事や現場マネージャーの鶴の一声で、面接の評価が変わってしまうようなケースは少なくありません。
もちろん、経験で培われた”勘”は説得力があります。けれども、面接の評価が個々の面接官の「主観」に委ねられたままでは、採用後にあまり活躍できないまま早期離職してしまう”採用のミスマッチ”が起きたとしても、「面接の仕方」を改善するヒントはつかめません。新米人事の育成にも膨大な時間がかかるでしょう。
採用のミスマッチ解消こそ、人手不足倒産リスクを回避するための重要な打ち手なのです。
6.マインドセットを見抜くための質問を用意しよう
採用のミスマッチを面接の現場で未然に防ぐためには、採用面接で応募者のマインドセットを見抜くための質問を用意する必要があります。
マインドセットとは、経験や教育、生まれ持った性質などから形成される「ものの見方や考え方」を指し、従業員個人の成長のみならず企業組織の活性化にも影響を及ぼします。
初対面である応募者の人柄や性格、価値観などマインドセットを見抜くことは容易ではありませんが、事前に準備を行えば、見抜くことができます。
「働き方改革」で採用競争はさらに激しさを増す
人手不足を背景として「働き方改革」に本腰を入れる企業も増えています。ソフトバンクやコニカミノルタ、新生銀行など大手企業でも副業解禁が相次ぎ、積水ハウスが「男性社員に1ヶ月の育休取得を必須にする」とのニュースは話題を呼びました。
大手企業が人材獲得競争に備えて働き方改革を進めれば進めるほど、中小企業の採用競争力が相対的に低くなることは想像にかたくありません。
けれども働きやすさを追求するだけでは、働き手のモチベーション向上には限りがあります。働きやすさと働きがいの両方を得られてこそ、モチベーション高く働けるのです。そのためには、企業文化やチームメンバーとのマッチ度は極めて重要です。
人材獲得競争がより一層激化するいまこそ、自社が求める人材要件を再定義し、「面接の仕方」を見直してみてはいかがでしょうか。