相手の言動が気になりすぎることはありますか?
「人の表情や態度の変化に敏感」「相手のささいな言動で傷ついてしまう」「同僚が叱責されるのを見ると、自分のことのように苦しい」。こういった経験に思い当たる方は、もしかすると「HSP(Highly Sensitive Person)」かもしれません。
HSPとは、米国の心理学者であるエイレン・N・アーロン博士によって提唱された概念です。繊細な度合いが強く、人の気持ちや下界からの刺激に敏感な人たちを表す概念で『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ』という著書によって、世界中で認知されるようになりました。
HSPは一つの特性であり精神的な問題ではありませんが、近年仕事と厚生労働省の調査では、うつ病など精神障害の請求件数は増加傾向にあります。HSPの人材への対応も含め、ストレスチェックの義務化など、企業に対して労働環境を整備することが求められているのが現状です。数値でいうと、職場でストレスになっていると感じる事柄がある労働者は過半数を超えており、喫緊の課題となっています。
出典元『厚生労働省』平成 30 年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
近年では、企業としてもHSP人材と上手に向き合っていくことが求められており、多様な人材を活用する視点でも注目されている考え方の一つにもなっています。今回は、HSP人材が得意なことや苦手な職務について説明します。
HSP人材に向いている仕事の傾向や適職とは?
HSPの人もさまざまなタイプがいるため、一口に「向いている仕事」といっても、その人の状況や感じ方、持っているスキル・特性によって異なります。それを踏まえた上で、以下のような傾向の業務、仕事でその特性を発揮できると言われています。
自分のペースで進められる仕事
HSPの人にとって仕事の手順は重要です。厳しい時間制限がある仕事よりも、自分の裁量・ペースで進めることができる仕事の方が向いていると言われます。HSPの人は、急な予定変更などイレギュラーな出来事に強くなく、同時に周りの状況も気にしてしまい、思うように仕事に着手できないといった傾向もあります。
自分の感性などを活かし、自分のペースを重視しながら取り組める仕事が本来の能力を発揮できます。
自分の裁量でできる仕事
自分の裁量でできる仕事はHSPの人にとって魅力的です。ノルマなどがなく、接客なら接客だけに注力できるタクシードライバーや、納品は守っていれば段取りは自分で決めることができるWebデザイナーなどのような業務が一例です。
できるだけ段取りが自由なものだと、ストレスなく自分のペースで取り組める点がHSPの人には合っています。
コツコツと取り組める仕事
スピードが求められる仕事よりも、確実にこなしていきたい慎重なタイプは、地道に続けることで成果が出る仕事に向いています。環境の変化に敏感で疲れやすいHSPにとって、規則的な生活リズムが維持できることは、仕事選びにおいて非常に重要なポイントです。
継続する中で成果を出すことに長けているのがHSPの人たちなので、たとえば、規則性が重視される公務員などの仕事には、大きな適性があるといえるでしょう。
フレックス、リモートワークなど、勤務時間・体系に融通が利きやすい仕事
HSPに限らず、家事や育児、趣味などのプライベートを満喫したい人や、通勤にストレスを感じている人にもおすすめの勤務形態です。
たとえば、シフト制の仕事(コールセンターなど)や、出社時間を自分で決めることができる営業スタッフなどは、曜日や時間などに調整がしやすいというメリットがあります。
自分の感性を活かせる仕事
HSPの人は、創造性や芸術性に優れている人材も多くいると言われています。
クリエイティブ系の仕事(デザイナー、画家、音楽家、写真家、ライターなど)は、感性が豊かなHSPの人に向いています。組織のしがらみに縛られることがあまりないのも魅力でしょう。
会社に縛られない仕事(フリーランス)
働き方などがある程度自由になるフリーランスは魅力的です。煩雑な人間関係や仕事のノルマなどを気に病むことはなく、通勤のわずらわしさも解消されるでしょう。
人の悩みや困りごとに寄り添う仕事(心理カウンセラー、ソーシャルワーカーなど)
HSPは人の痛みに共感することができる細やかな心配りができる人材なので、心理カウンセラーやソーシャルワーカーといった、人の悩みなどに寄り添う仕事にも向いていると言われています。
達成感などの精神的な満足度を重視するタイプなので、直接誰かの役に立てるこういった仕事は大きな幸福感を得ることができるでしょう
物事を教える仕事(教師、インストラクターなど)
他者のニーズを敏感に察知できるHSPのような人は、人に物事を教えることも得意としています。何かしらの専門性を獲得すれば、そのスキルを活用できます。
とはいえ不特定多数の人と接することは避けられないので、日常のコミュニケーションが苦痛になりやすい方は検討したほうがよいでしょう。
HSP人材が苦手な職務・職種例とは?
HSPの人に向いていない仕事は、一般的に、感情的なコミュニケーションが必要なものや、業務にある程度の刺激があるもの、競争やノルマが求められるもの、環境の変化が激しいものなどが挙げられます。こういった仕事は、心の振れ幅が小さいHSPの人にとってはストレスが大きくなりがちです。
失敗や批判にさらされる危険性もあるため、こういった仕事は避けた方がよい場合もあります。
日常の業務で、濃度の濃いコミュニケーションが求められる仕事(接客業など)
人の求めているものに敏感なHSPの人は、接客業なども上手にこなすことができますが、業務の中で気を使いすぎることも多く、疲弊してしまいがちです。上司の要求に応えようと無理をしすぎてしまうことも往々にしてあります。
そういったことを考慮すると、なるべく人付き合いの少ない仕事・職場を選ぶほうが無難とも言えます。
競争が激しい仕事(営業職など)
同僚や競合との厳しい競争やノルマがある仕事は、HSPの人にとって、それだけで大きなストレスを抱え込むことになります。自己管理能力の高いHSPですが、第三者に干渉されると自分のペースを乱してしまいがちで、持っている能力を十分に発揮できなくなることもあります。
良心的なHSPは、全体の中で誰かと競うことを得意としていないため、逆にその優しさと能力を他者に利用されてしまうリスクもあります。
勤務形態が不規則な仕事(運送業など)
残業や夜勤、出張などが多い仕事は、それだけで環境に大きな変化が生まれてしまうという意味で、HSP向きとはいえません。環境の変化に敏感で疲れやすい彼らにとっては、自分のペースで休息が取れないと、すぐに疲れをため込んでしまいます。
自分に最適なペースで働くことができることが、HSPの能力を発揮する上ではとても重要なのです。
HSP人材の適職を知り「適材適所」を組織として実現する
HSP人材は、よくも悪くも敏感で、周りへの気遣いができるため、ある程度、彼らのペースを守ることができる環境が何よりも重要です。疲れやすく、自分のことを責めやすいというネガティブな面に注目されがちですが、得意なことで力を発揮できれば、企業にとって非常に頼りになる存在になりえます。
まずはHSPの人たちの傾向と適職を、組織としても理解し、適材適所を考慮していくことが重要なのです。