障害者採用についての社会的な背景
働き方改革では「一億総活躍社会」の実現を目指し、「女性」や「高齢者」「外国人」などの多様な人材の活用が求められています。これは障害者も例外ではありません。
障害者雇用については、民間企業における法定雇用率が平成30年4月1日より引き上げられ、2.2%となりました。従業員を45.5人以上雇用している企業は障害者を雇用する義務が発生します。
厚生労働省の調査によると、障害者の数は936.6万人であり、人口の約7.4%に該当しています。そのうち65歳未満は障害者全体の約48%であり、人口の約3.7%の約450万人となっています。
出典元『厚生労働省』障害者の数
人口比率では約3.7%の方が障害者採用の対象となり、法的な義務も含めて「障害者がいないから採用できない」は言い訳にはなりません。しかし実態として、民間企業の過半数以上の企業が「法定雇用率」が未達成であるとの調査も報告されています。
出典元『厚生労働省』平成 30 年 障害者雇用状況の集計結果
障害者を雇用しない理由として最も多く挙げられている理由は「当該障害者に適した業務がないから」であり、次点で「職場に馴染むのが難しいと思われるから」「施設・設備が対応していないから」と、障害者を受け入れる企業側に多くの課題が残っているため、過半数以上の企業で障害者雇用の法定雇用率の未達成であると考えられます。
今回は、障害者雇用における採用基準を設ける方法と注意点について説明します。
国の定める障害者の定義とは?
障害者の定義は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む) その他の心身の機能の障害がある人で、障害や社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある人のことを指します。
障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所有者が対象で、手帳を持たない統合失調症、そううつ病(そう病、うつ病を含む)、てんかんの方も対象となります。障害者採用の障害者とは「心身の障害があるために長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な方」が対象となります。
従来の採用基準で設けられている項目の確認
今までの採用基準では、カルチャーマッチ、スキルマッチが判断基準でした。カルチャーマッチとは企業のカルチャー(社風や理念、考え方、価値観等)に応募者が共感(マッチ)したかどうかという部分を採用基準に設ける採用手法のことです。カルチャーマッチを採用に取り入れることで離職率を減少することができるだけでなく、採用活動の工数が削減され採用に伴うコストカットにも繋がるといわれています。
スキルマッチは、企業が求める能力と求職者の持っている能力を照らし合わせて即戦力として活躍できるか、その能力を持ち合わせているかで判断する手法です。
スキルはハーバード大学のロバート・カッツ教授(Robert L. Katz)が1955年に発表した論文『スキル・アプローチによる優秀な管理者への道(Skills of an Effective Administrator)』の中で、さらに細分化されて提唱されました。カッツはマネージャーに必要とされる能力をテクニカルスキル・ヒューマンスキル・コンセプチュアルスキルと3つに分類しています。
出典元『日本の人事部』マネジメント・管理職に求められるスキル
テクニカルスキルとは、仕事や業務を適切にこなす能力で業務遂行能力と言い換えられます。ヒューマンスキルは、人間関係を円滑にし、人との繋がりを最大限に活用する能力で対人関係能力のことを指します。コンセプチュアルスキルは、物事の本質を捉える能力で、複雑なものごとの状況や構造などを、俯瞰的・体系的に捉えて概念化する能力を指しまして、本質を見極めて対応する能力のことです。
障害者雇用の採用では、従来の採用基準に加えて職業準備性も一緒に検討する必要があります。
障害者の雇用支援を行う企業が提唱した「職業準備性」の意味や定義について
職業準備性とは職業生活を開始するに当たって要件を準備することを指します。職業生活で必要な身体条件、体力、仕事に対する意識、上司や同僚とコミュニケーションしていくための能力、必要な技術、技能の獲得等がそれらにあたります。
職業準備性を高めていくためには技術的な面よりも、基本的な労働習慣を身につけることが要求されています。ですので職業準備性はスキル等の条件だけでなく、メンタル面も大切となります。
職業準備性の構成項目について
職業生活に必要な条件としては「職業生活を維持するために必要な態度や基本的労働習慣」を持てているかどうかです。仕事に対する意欲や一定時間労働に耐える体力、規則の遵守、責任感、賞賛および批判を受け入れる態度等が備わっているかチェックしましょう。
次に「職業生活を支える日常生活・社会生活面の能力」です。自分の健康管理、生活リズムの確立、日常生活の管理、規則正しい生活を送ることができているか、また周りの人との対人技能、謝罪や挨拶、報連相など基本的なコミュニケーション、対人関係が築けるかは確認しましょう。
最後に「自分の障害(疾病)についての理解」ができているかという点です。業務中に体調の変化が起きた場合に自己で対応していただくこともある為、自分の障害(疾病)への受容やその実践ができるかどうかも職業準備性に含まれます。
障害者雇用だからといって特別な採用基準を作る必要はない
障害者雇用の採用基準を設定する場合には、従来の採用基準はもちろんのことながら、職業準備性を理解することも大切となります。職業準備性は障害の有無にかかわらず重要な項目が挙げられているため、障害者雇用だけでなく、自社の採用基準全般にも活用できるでしょう。
障害者雇用だからといって特別な採用基準を設けることはなく、自社にとって必要な人材から採用基準を設ける必要があるのです。