日本の労働力状況について
労働人口減少に伴い、多種多様な人材の採用・活用が求められていいます。政府としても「女性活躍推進法案」「高年齢者雇用安定法」など、様々な人材の雇用・活用の整備に注力しながら「副業解禁」「育児・介護休業法」「残業時間の上限規制」など多様な働き方を推進していることは働き方改革の流れからご存じの方も多いかと思います。
帝国データバンクの調査によると、正社員が不足している企業の割合は2019年10月時点で50.1%となっています。過半数以上の企業が人手不足に悩んでいる実態が明らかとなっています。
出典元『帝国データバンク』人手不足に対する企業の動向調査(2019 年 10 月)
生産年齢人口(15歳~64歳)も減少し続けています。総務省の調査によると、生産年齢人口は1995年をピークに減少し続けており、今後しばらく減少傾向が続く見通しです。
労働生産人口は減少し続けていますが、労働力人口は増加しています。2012年に6,565万人だった労働力人口は2018年には6,830万人と約300万人増加しています。理由として、労働生産人口であったが労働に携わっていなかった失業者や主婦などの女性が社会進出したこと、シニア採用や外国人採用などによって増加したと考えられます。
出典元『総務省統計局』労働力調査(基本集計)平成30年(2018年)平均(速報)結果の要約
人材の確保という視点で「外国人採用」についても多くの注目を集めています。今回は外国人採用の概要について説明します。
外国人採用を行う目的や実態について
日本は労働力不足が顕著で、多くの人事担当者・経営者の方が実感されていると思います。パーソル総合研究所と中央大学の調査によると、2017年に121万人であった人手不足は、2030年には644万人となることが予測されています。
出典元『パーソル総合研究所・中央大学』労働市場の未来推計 2030
一方で、日本で就労する外国人労働者は増えています。内閣府の「『外国人雇用状況』の届出状況表一覧((平成28年10月末)」の報告によれば、国内の外国人労働者は2012年以降、加速度的に増えており、2017年には約128万人(2016年比18%増)となっています。
外国人採用を行う事業所はまだ多くはありません。総務省統計局によると平成28年の事業所数は約558万事業所と報告されていますが、厚生労働省の調査では外国人を雇用している事業所は約17万事業所であるため、実際に外国人を活用している事業所は3%にとどまります。
出典元『厚生労働省』今月の特集 日本で安心して働いてもらうために 外国人雇用Q&A
First Advantageが各国の採用候補者を対象に実施したスクリーニング調査によると、日本における経歴詐称率は5.47%と諸外国と比べて低い水準にあるものの、日本人が「真面目で嘘をつかない」というわけではなく、「経歴を詐称するインセンティブがない」ことが理由として考えられています。「経歴を詐称するインセンティブがある」文化で育った外国人人材においては、経歴詐称などが起こるリスクについても理解しておくことが大切です。
出典元『Japan PI』海外の採用事情 経歴詐称が多い国・少ない国ランキング 日本は何位?
マイナビの「企業 外国人留学生採用状況調査」によると、外国人留学生の採用目的に関しては、「国籍を問わず優秀な人材確保のため」が50.6%と高く、優秀人材の確保は国際業務のためだけでなく、会社全体の優秀人材の確保を意識した採用の延長線上で外国人留学生採用を行っているという目的がわかります。
出典元『マイナビ』2017年卒 企業 外国人留学生採用状況調査
外国人採用を行うメリットとは
外国人採用のメリットには何があるでしょうか。
語学に堪能ですので英語や外国語に対して不慣れな日本人よりピンポイントでそのスキルを補う人材を採用することができるでしょう。
若い労働力を補充できる点も利点です。日本は少子高齢化でなかなか若い人材を採用することができません。その点、若くてバイタリティのある外国人材に入社してもらうことが可能です。
社内の活性化や組織風土の改善もメリットとなります。日本人とは異なる仕事への姿勢は、組織にとって大きな刺激となります。社員の就労意識の向上やグローバルな視点や対応へも役立つことが期待できるでしょう。日本人にない考え方をするため、新しい発想やシステムが生まれ、新しいビジネスチャンスが生まれるかもしれません。
外国人採用を行うデメリットとは
逆に外国人採用のデメリットは何があるでしょうか。
文化や習慣の違いはデメリットにもなりえます。視点や発想の違いは文化や宗教の違いからくる可能性もあるため、異文化に対する理解と配慮が必要になります。日本人同士であれば「言わずもがな」「空気を読む」という形で間合いで意思の疎通が図れることがあっても、外国人ではなかなかそうはいきません。何がどうなのかはっきり正確に伝えるコミュニケーションがないとトラブルになるケースもあるでしょう。
事務手続きも時間を要することもデメリットとなります。在留資格の確認やビザの手続き、外国人を採用する際には、きちんと労働条件を説明した上で雇用契約を結ぶ必要もあります。企業側も入国管理法について詳しく学び、手続きに漏れがないように管理をし、就労ビザに関しては更新時期にきちんとサポートしなければなりません。
日本の社会保険や扶養家族の書類など、外国人労働者が理解できるよう資料を整備したり、日本語が不慣れな方であればその言語で資料を作成するなどのフォローも必要となります。
外国人採用を行う上での注意点について
では外国人採用を行う中で留意する点は何があるのでしょうか。
まずは慣習や文化の違いを理解するという点です。宗教や価値観が違うため、ミスマッチを引き起こしやすく、社内風土にあうかどうか、事前の見極めが大切となります。
採用後は外国人労働者を受け入れる体制をきちんと整備しておく、社員の意識や偏見を持たないよう教育研修を行いフォローする体制を作ることも必要となります。
任せる仕事について、きちんと雇用契約を結びますが、外国人労働者に対しても日本人と同様な労働条件の確保等に努めなければなりません。外国人であることを理由に賃金形態、昇給基準、労働保険、社会保険関係の適用等で差別的な取扱をしない等、日本人と変わらない制度で受け入れましょう。
外国人労働者側にもきちんと理解してもらうために「労働条件通知書」を作成し、労働条件を理解させる点も注意しましょう。
外国人採用に関する助成金の紹介
外国人採用において支給される助成金があります。
中小企業緊急雇用安定助成金
景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に助成される助成金です。対象となる企業は中小企業ですが、直近の3カ月、もしくは前年の同じ時期に比べて生産量が減少していることが支給の対象となります。
支給額は一時的な雇用調整として従業員を休業させた場合、休業手当または賃金相当額の4/5、教育訓練は加えて訓練費として一人一日あたり6,000円支給。出向の場合は出向元事業主が負担して賃金相当額×4/5支給されます。
雇用調整助成金
こちらも景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に助成される助成金です。生産量が減少していることが条件となっていきますが、生産量が5%以上の減少であることが条件となり、それによって支給されます。
支給額は休業手当や出向手当にあたる金額の1/2、教育訓練の経費として一人一日あたり1200円が支給されます。
外国人採用導入の検討価値はある
外国人採用は主に人材確保を目的として行われますが、他にも様々なメリットがあります。
しかし言語や価値観、教育研修など、事前に考えておくべき注意点も多いことは事実です。とはいっても日本の少子化は進んでおり、労働力減少、人材不足の問題にはいずれ企業としても向き合わなければならない問題でしょう。
メリット・デメリットの整理から自社の採用戦略の方針等について、一度外国人採用導入の検討しておく価値はあるでしょう。