コミュニケーションスキルの「アサーション」
採用面接では「コミュニケーション能力の高さ」をアピールするのが定番となっています。新卒や20代をターゲットとした中途採用では、専門性以上にコミュニケーション能力を求めている企業が多く、業界・業種関係なく就職に有利なスキルであると考えられます。
経団連が行なった新卒採用についての調査を見てみると、「選考にあたって特に重視した点」を企業に対してアンケートを行なった結果、16年連続で「コミュニケーション能力」が1位となりました。
出典元『一般社団法人 日本経済団体連合会』2018 年度 新卒採用に関するアンケート調査結果
コミュニケーション能力を重視しているのは、なにも新卒採用だけではありません。
マイナビの調査では、正社員の中途採用でも約半数の企業が「対業務スキル」よりも「対人スキル」を重視しているという結果が公開されており、コミュニケーションスキルは中途採用でもかなり重視されていることがわかります。
企業に重宝される「コミュニケーションスキル」ですが、面接の場では「誰とでも仲良くできる能力」というエピソードとして語られがちです。しかし、それはプライベートな人間関係での話でありビジネスの現場で求められるコミュニケーションスキルではないのです。
抽象概念である「コミュニケーションスキル」を理解するためには、詳細かつ具体的な理解が不可欠です。細分化すると膨大な量になり、コミュニケーションスキルと一言でいっても内容は煩雑で、そのなかにも細かな得意・不得意がでてくるでしょう。
今回は、様々あるコミュニケーションスキルのうち、自己主張するスキルと言われる「アサーション」について、概要とトレーニングの心構えを紹介します。
アサーションは具体的にどんなスキル?
コミュニケーションは「相手の意見を聞く」「相手に意見を伝える」「双方の意見を検討したのち具体的なアクションを起こす」という3つのステップが基本です。
3つのステップにおける「相手に意見を伝える」というフェーズで重要になるのが「アサーション」だと考えられます。「傾聴」を前提としながら適切な自己主張ができるスキルのことを指します。
自己主張は大切です。しかし、注意しなければならないのが、独りよがりにならないことです。ビジネスにおける議論を進展させるために大切なのは「相手の考えを尊重しながら、新たな発想を見つけ出すこと」です。他者とのコラボレーションを大切にした立ち居振る舞いをすることで、コミュニケーションがあるからこそのアイデアの発見に繋がります。
採用選考では、とにかく「自分の意見」の発言を促すことでチェックできます。他者の意見を考慮した回答ができているか、自分の意見にどれほど自信を持てているか、そうしたところが見極めのポイントになります。
ドラえもんで覚える!アサーションの3つのタイプ
自己主張の技術とも言えるアサーションには以下の3つのタイプがあります。
ドラえもんのキャラクターで例えられることが多いですので、それぞれのキャラクターを想像しながら、どんな特徴がありどんな改善点があるかを考えてみましょう。
アグレッシブ(攻撃型/ジャイアンタイプ)
思ったことを率直に伝えるスタイルです。わかりやすい言葉で、かつ大きな声などの強い要求として表現する伝え方です。
ドラえもんの「ジャイアン」に例えられることが多く、自分の思ったことをはっきり主張し、他者を力強く牽引するリーダーシップが強みです。一方で、押し付けがましく、他者に抑圧的な態度をとる傾向があります。
気をつけたいのは他者への配慮がおざなりになりやすいことです。最悪の場合、組織の人間関係をギスギスさせる危険性があります。
ノン・アサーティブ(非主張型/のび太タイプ)
アグレッシブとは真逆に「主張しない」というスタイルです。自分の意見の優先順位を下げ、他者の意見を受け入れることで物事を前に進めます。しかし、相手任せになりすぎる傾向があります。
ドラえもんでいうとこのろ「のび太」に当たるのがこのタイプです。言い訳が多く、他責思考であり、人の前に立てるような人材ではありません。しかし、弱い立場の人のことを理解したり、共感することができる穏やかさを持ち合わせています。
アサーティブ(中立型/しずかちゃんタイプ)
アグレッシブとノン・アサーティブのバランス型のスタイルです。いつ主張し、いつ自分を抑えて他者を優先するかという判断を状況に応じて行います。
嫌われる要素が実質存在しないため、ドラえもんの「しずかちゃん」に該当するようなタイプです。主張するところと引くところを理解し、かつ場を俯瞰的にみながら振る舞いを調整でき、アサーションにおける理想型だと言えるでしょう。
アサーションの「4つの柱」をトレーニングでは大切に
アサーションの理想は、前述の3つのタイプでは「しずかちゃん」に該当するものです。自分と相手、そして場全体の動きを読みながら、全員がwin-winとなる結論に達することを目的としています。
「ジャイアンタイプ」に陥ってしまうと、自分の主張も通らないばかりか、組織の雰囲気を悪くすることもあります。アサーションとはどのような考え方を柱に成り立つものかを理解する必要があります。
アサーションのトレーニングは意外にもそこまで複雑なことを考える必要はありません。というのも、理想とする状態が明確だからです。
この点さえ理解しておけば、アサーションのトレーニングは誰でも気軽に行えます。まずすべきことは「知ること」です。今の自分がどういう状態で、それが理想である「しずかちゃんタイプ」とどれだけの差異があるのかを、日頃の生活の中でかえりみることで着実にアサーションスキルを伸ばして行くことが可能です。
自分と理想の差異をどのように小さくするかの方位磁針になるのが、以下の「4つの柱」です。
1:率直に意見や気持ちを伝える
自己主張の第一歩は、自分の頭にあるものを言語化することです。まずは言葉にしなければ、アサーションは始まりません。
2:誠実さと感謝の気持ちを忘れない
アサーションは自分ひとりで成立するものではなく、常に「他者」がいて成り立つスキルです。
自分の意見や気持ちを言語化し、聞いてくれる人がいるからこそ、議論を前に進めることができるます。
3:場にいる全員が対等であると考える
自己主張とはいえ「自分の考えを押し通す」ことが最善の結果をもたらすとは限りません。様々な人の率直な意見や気持ちをフラットに検討することで、新たな可能性が開けることもあります。
場にいる全員が平等に意見できるように配慮することが大切です。
4:相手への要求だけでなく、自分も責任を負う
アサーションで注意したいのは「言いっ放し」にならないことです。率直な意見や気持ちは尊重されるべきですが、同時にそれに責任を負わなければ、他者との信頼関係を築くことはできません。
まとめると、自分だけでなく相手も尊重しながらゴールを目指すスタイルが、アサーションには不可欠だといえます。
採用選考でコミュニケーション能力をアピールするエピソードを話す時は、「自分がどうで相手がどうだったか」「自分だけでなく、相手もどうなったか」もまとめ、広くゆとりのある視野を持って臨みましょう。
アサーションは日々の生活の中で身につけられる
新卒や若手人材をターゲットとした採用選考では、コミュニケーションスキルが評価項目として設定されているケースがほとんどです。コミュニケーションスキルをアピールしたい場合には、まずビジネスで求められるコミュニケーションスキルをきちんと理解しましょう。単に「人と仲良くする」ことが、ビジネスのコミュニケーションではありません。
コミュニケーションにおいて具体的にどのようなスキルに長けているのか・欠けているのかの自己分析を深めることが大切です。
コミュニケーションスキルの中でも「アサーション」は、自分も他人も大切にする自己表現と解釈できます。理想的なタイプが明確ですので、自分がどの程度それに合致するかを客観的に振り返ってみましょう。理想的なタイプである根拠にエピソードがあるかどうかが人事評価や転職活動などで有効となります。
アサーションをはじめとするコミュニケーションスキルは短期的に身につけることは難しいです。しかしながら、普段の行動から意識することで着実に伸ばすことが可能です。
理想的な状態であるアサーティブになりたいと考えるのであれば、早い段階で自らの発言や行動を「4つの柱」を参照しながら、自分自身でチェックしてみましょう。