「優秀」よりも「合う」を重視しよう!
グループディスカッション(GD)を実施する前に、選考目的を明確にする必要があります。企業ごとに異なる「自社に合う応募者」を探すことです。「一般的に優秀である応募者」を探すことよりも大事なことです。
近年、企業の採用や大学の入試などに、グループディスカッション(GD)を用いる場面が激増してきました。本記事は、なぜグループディスカッションを導入するかの目的やポイント、自社で活躍する「素質」をどう見極められるかを紹介いたします。
グループディスカッションによって明らかになるもの
個別面接での評価にあたり、面接官などの主観が混じってしまうと、応募者を正しく評価ができないことがあります。
その理由として、面接官の質問に対して返された応募者の「発言」を、面接官は主観的に評価していることが挙げられます。本当に能力があるかは明確に分からずに、その場で面接官の客観的でない価値観が判断を主導するからです。
上手に発言すれば合格できるのではないかと思う応募者が、優秀な人材を演じようとして、「なりすまし」と「印象操作」を目的とした嘘をつく場合もあります。「なりすまし」とは、自分の理想像をつくり上げ、面接の時間中はその理想像になりきろうとする行為をいいます。「印象操作」とは、自分の印象を少しでも良いものと思われるように、評価が下がりそうなことは敢えて話さずに隠す行為のことです。応募者の嘘を見抜けなければ、評価精度が低い面接になってしまう原因になります。
グループディスカッションやグループワークは目の前で応募者の行動を直接観察して評価できる方法です。つまり、口頭での嘘である「なりすまし」や「印象操作」に惑わされることが少なくなります。(もちろん、行動でも嘘をつくことはできます。)
しかし行動で嘘をつくのは、口頭での嘘よりも難しく、そもそも口頭と行動の二種類の方面から応募者の評価をできます。口頭でも行動でも嘘を付く場合は、「社会的望ましさ」を評価できます。応募者の言動が一致しているか、自社が求める人材の要件を満たしているかを中心に、確認すると良いでしょう。
議論を妨げる「クラッシャー」に要注意
グループディスカッションは、複数人での作業になります。グループでの議論の中で、それぞれの参加者を評価する必要があります。しかし、状況によっては、それぞれの参加者を評価できない議論になる場合があります。
要注意すべき応募者として「とにかく話して自己主張をする」、「議論を常にコントロールする」、「時間をむりやり仕切る」などの行動をする応募者です。彼らは「クラッシャー」とも呼ばれます。
「クラッシャー」は他の参加者の行動を妨げる可能性があるため、人事担当者としては応募者の行動を正しく見れず、評価が出来なくなる可能性があります。
「クラッシャー」の特徴として「集団議論の目的をはき違えている」ことが挙げられます。彼らの目的は「集団議論の中で解決策を導く」ではなく、「自分が目立つ」「他人を仕切る」ことが目的になっている事が多いです。そのため、彼らが参加するディスカッションの過程や結果は、生産性のない議論で終わってしまう可能性があります。
「クラッシャー」素質・特徴をまとめると:
- 強い自己主張
他人の話をよく聞くことができず、空気も読めず、とにかく喋る派。
自分の意見に固執し、結論ありきで議論を進めてしまう。 - 常に否定する
「それは違うと思うよ」「それじゃ上手くいかないとおもうな」などと
常に他人の意見を否定するが、代替案などの生産的な意見は発言しない。 - 仕切ることが目的
「じゃあ、残り○分なので○○しましょう」と、状況を無視して、仕切ってしまう。時間通り進行するという手段が目的になっていて、議論を台無しにする傾向。 - 何を持ってリアクションしているのかわからない
うなずきや返事がオーバーリアクションで、「やっぱり○○ですよね」などと、本音で話さない。自分の意見や立場がはっきりわからない。
「クラッシャー」は参加者の認識の違いから生まれる
何故「クラッシャー」と呼ばれる参加者が出てしまうのでしょうか?これはグループディスカッションに求める目的が、企業側と参加者側で認識が違うことが原因です。
企業側の目的は「自社に合うかを評価する」ことです。「リーダーシップを発揮したか」なども重要ですが、それ以上に「どのような発言をしたか」から、参加者が「どのような価値観を持っているのか」「行動原理は何か」を見極めることが重要です。
参加者側は「優秀な人材であることを演じる」ことが目的となっている場合があります。演じる場は、「グループディスカッション」であっても、「面接」であっても違いはありません。これは「グループディスカッションには模範解答がある」と思い込んでいることが理由です。
幾つかの勘違いをまとめてみると、一つ目の典型的な勘違いは「とにかく発言回数を増やせばいい」と思っていることが挙げられます。「グループディスカッション 対策」で検索をしてみれば、この方法を促すアドバイスがたくさん見つかります。ですが、発言はあくまでも考えを伝える手段であり、発言することが目的ではありません。
二つ目の勘違いは、とにかく「仕切ればリーダーになれる」と思っていることが挙げられます。企業側もリーダーを求める場合が多いですが、応募者が考える「リーダー」と企業が考える「リーダー」に認識のずれがあります。
前グーグル人事担当上級副社長ラズロ・ボックの「ワーク・ルールズ!」によれば、リーダーというのは、ある場面でその個人にしかできないこと(何らかのスキル)を活かした後に、他のメンバーと同じ立場に戻れる者だと述べています。自分の手柄を鼻にかける人や、区切りの悪いところで敢えて区切ろうとする人たちは、「リーダー」ではなく、「人の上に立ちたいだけ」の人である可能性があります。
三つ目の勘違いは、チームメンバーを敵だと思っていることが挙げられます。どのような会社でも、チームワークは必ず発生します。チームメンバーを仲間として認識し、助け合うことがプロジェクトの成功の鍵となります。しかし応募者は「グループ内で出し抜いて評価してもらおう」という思いがあるため、仲間ではなく敵であると認識します。実際に働いても「出世競争」の中で、同様のことが起こる可能性があります。
こういった勘違いを人事担当者は理解しながら、採用時にその反面を取る選び方もあります。ただ何よりも、自分の企業に合う人材を見つけることができたら、敢えて気を配る必要もないではないでしょうか。
クラッシャーは必ずしも悪気があるわけではない
面接では分からない主体性が見えるグループディスカッション。「リーダーシップを発揮したか」などの行動だけでなく、「発言内容を読み解く」ことで、参加者の価値観や行動原理を読み取ることが出来ます。
採用選考で使う際には「クラッシャー」の存在に注意しなければなりません。周りの場を乱し、他の参加者の評価すらできなくなる恐れがあります。
彼らも悪気があって「クラッシャー」になるわけではありません。企業側と参加者側で目的のすれ違いがあるせいで「クラッシャー」となってしまうのです。
どこまで本人に通達するかは採用戦略次第ですが、勘違いを是正することも一つの方法です。他の参加者を正しく評価するためだけでなく、本人の立ち振舞いの変化などを見ることができます。「失敗を反省し、改善する」という行動を評価できるかもしれません。