キャリアアップ助成金が生まれた背景
働き方改革や同一労働同一賃金など、非正規雇用(有期契約)労働者の問題は解決しなくてはならない、優先順位の高い課題となっています。非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップや賃金アップなどを促進するものとして、キャリアアップ助成金制度が2013年に誕生しました。
賃金格差でいうと、基本給以外の賞与や手当などについても正規社員・非正規社員間で格差が生まれています。大手物流会社「ハマキョウレックス」における契約社員かからの待遇格差(労働契約法20条が焦点)において、最高裁が2018年6月1日に手当の格差は一部不合理であるという判断を示しました。今回の最高裁の判断は「有期・無期」に関わらず支給要件を満たしているかどうかを判断することが重要であると読み取れるでしょう。
参考URL『弁護士ドットコム』非正規の待遇格差、「正社員だから優遇」はもう終わり…正当性がなければ違法に
2018年6月29日に成立した働き方改革法では、同一労働同一賃金制度が大手企業では2020年4月から、中小企業は2021年4月からの運用が求められています。同一労働同一賃金のガイドラインには「基本給以外の賞与や手当」に関する項目もあり、諸手当の共通化はゆくゆく対応しなければならない問題です。
今回はキャリアアップ助成金制度の諸手当制度共通化コースについて紹介していきます。
キャリアアップ助成金の諸手当制度共通化コースとは?
諸手当制度共通化コースとは、非正規労働者の処遇改善を進める企業を支援するという目的で作られた制度で、現状、正規社員のみ住宅手当や皆勤手当、通勤手当などが支給され、非正規雇用社員には支給されないという実態が数多くあります。
そんな状況を打破すべく設けられた諸手当制度共通化コースは、有期契約労働者等に関して正規雇用労働者と共通の諸手当制度を新たに設け、適用した場合に助成するコースです。
受給金額について
<>内は生産性の向上が認められる場合、( )内は大企業の金額、それ以外は中小企業の金額となります。
- 1事業所当たり38万円<48万円>(28万5,000円<36万円>)
<1事業所当たり1回のみ>
※共通化した対象労働者(2人目以降)について、助成額を加算
(加算の対象となる手当は、対象労働者が最も多い手当1つとなります。) - 対象労働者1人当たり15,000円<18,000円>(12,000円<14,000円>)
<上限20人まで>
※同時に共通化した諸手当(2つ目以降)について、助成額を加算
(原則、同時に支給した諸手当について、加算の対象となります。) - 諸手当の数1つ当たり16万円<19.2万円>(12万円<14.4万円>)
<上限10手当まで>
受給要件について
受給要件は、キャリアアップ助成金で共通するものと正社員化コースのみに適用されるものとあります。それぞれ分けて説明致します。
キャリアアップ助成金で共通する事業所要件
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を置いている事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
(キャリアアップ計画書は、コース実施日までに管轄労働局長に提出すること) - 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備している事業主であること
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること
「キャリアアップ計画」とは、非正規雇用労働者のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるために、今後のおおまかな取り組み(目標・期間・目標を達成するために事業主が行う取り組み)などイメージでいいのであらかじめ記入するものです。このキャリアアップ計画は、あくまでも当初の計画を記入するため、変更届を提出すれば随時変更することも可能です。
「キャリアアップ管理者」とはこのキャリアアップ計画をすすめる人のことで、1事業所あたり1名配置します。キャリアアップに関して知識、経験のある人が望ましいですが、資格などは必要ありません。
諸手当制度共通化コースのみの受給要件
- 正規雇用労働者に係る諸手当制度を、新たに設ける有期契約労働者等の諸手当制度と同時又はそれ以前に導入している事業主であること。
- 有期契約労働者等の諸手当の支給について、正規雇用労働者と同額又は同一の算定方法としている 事業主であること。
- 当該諸手当制度を全ての有期契約労働者等と正規雇用労働者に適用させた事業主であること。
- 当該諸手当制度を6か月以上運用している事業主であること。
- 当該諸手当制度の適用を受ける全ての有期契約労働者等と正規雇用労働者について、適用前と比べて基本給等を減額していない事業主であること。
- 支給申請日において当該諸手当制度を継続して運用している事業主であること。
- 生産性要件を満たした場合の支給額の適用を受ける場合にあっては、当該生産性要件を満たした事業主であること。
諸手当制度共通化コースで支給対象となるものは下記11個です。このいずれかを新設し正規雇用社員と同じ条件で適用する必要があります。
- 賞与
一般的に労働者の勤務成績に応じて定期又は臨時に支給される手当(いわゆるボーナス) - 役職手当
管理職等、管理・監督ないしこれに準ずる職制上の責任のある労働者に対し、役割や責任の重さ等に応じて支給される手当 - 特殊作業手当・特殊勤務手当
著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他の著しく特殊な勤務に従事する労働者に対し、その勤務の特殊性に応じて支給される手当 - 精皆勤手当
労働者の出勤奨励を目的として、事業主が決めた出勤成績を満たしている場合に支給される手当 - 食事手当
勤務時間内における食費支出を補助することを目的として支給される手当 - 単身赴任手当
勤務する事業所の異動、住居の移転、父母の疾病その他やむを得ない事情により、同居していた扶養親族と別居することとなった労働者に対し、異動前の住居又は事業所と異動後の住居又は事業所との間の距離等に応じて支給される手当 - 地域手当
複数の地域に事業所を有する場合に、特定地域に所在する事業所に勤務する労働者に対し、勤務地の物価や生活様式の地域差等に応じて支給される手当 - 家族手当
扶養親族のある労働者に対して、扶養親族の続柄や人数等に応じて支給される手当 - 住宅手当
自ら居住するための住宅(貸間を含む。)又は単身赴任する者で扶養親族が居住するための住宅を借り受け又は所有している労働者に対し、支払っている家賃等に応じて支給される手当 - 時間外労働手当
労働基準法に基づき法定労働時間を超えた労働時間に対する割増賃金として支給される手当 - 深夜・休日労働手当
労働者に対して、労働基準法に基づき休日の労働に対する割増賃金として支給される手当又は午後10時から午前5時までの労働に対する割増賃金として支給される手当
申請期間について
申請期間は、初回の諸手当の支給後6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に申請する必要があります。
上記の図ですと、基本給増額が適用された最初の賃金支払い日である5/15のあと、6か月間給与が支給された日が10/15。その翌日の10/16から2か月以内が申請期間なので12/15までに申請する必要があるということです。
助成金申請における注意点
注意点としては、現在正規社員に支給している手当に非正規社員も対象にするというものではなく、新規で手当を設ける必要があるという点です。手当金額も手当の内容によって満たすべき金額があり、賞与の場合6か月相当分として50,000円以上支給する必要があります。
正社員と非正社員の手当格差をめぐる訴訟のハマキョウレックス事件の判例から「有期・無期」という雇用形態ではなく、手当の対象に「該当する・しない」で判断することが大切になります。
自社の手当制度を確認してみよう!
ハマキョウレックスの判決からも「正社員だから手当を出す」ということが違法にあたる可能性があり「正社員でなくても、該当すれば手当を支給する」ということが必要となっていくことが今後考えられます。
企業としては対応を早急に行っていくことが求められますが、仮に今まで正社員との手当に差があった場合には、諸手当制度共通化コースが適用される可能性があります。そのため、一度自社の手当制度の見直しを行ってみてはいかがでしょうか。