人事が気を付けるべき「リアリティーショック」とは
多くの人が入社する4月、人事担当者が気を付けたいキーワードとして、リアリティーショックという言葉があります。リアリティーショックとは、入社前の理想と入社後の現実とのギャップに悩むこと、すなわち理想と現実とのミスマッチのことを指す言葉です。
2008年のデータではありますが、マイコミの調査によると入社して1か月後の新入社員の6割超がリアリティーショックを感じていると報告されています。会社に満足はしているものの、理想と現実のギャップを感じているという結果がでています。
出展元『マイコミ社会人レポート』 リアリティ・ショックに関するアンケート調査結果を発表
リアリティーショックは、新入社員だけでなくベテラン社員も環境の変化により引き起こる可能性があります。例えばリーダーや管理職など昇進のタイミング、女性だと出産を経て育休復帰をするタイミングなど役割や職務の変化に伴ってリアリティーショックを感じることがあります。
今回は、リアリティーショックの定義や引き起こす要因などをもとに、リアリティーショックについて考えていきます。
リアリティーショックの意味や定義とは
リアリティー・ショックという概念は、アメリカの組織心理学者のE.C.ヒューズによって提唱されました。
リアリティーショックは最近のゆとり世代が多く感じていると思いがちですが、実はヒューズは半世紀以上も前からリアリティーショックについて提唱しており、マサチューセッツ工科大学のエドガー・シャイン教授によって広められました。
リアリティー・ショックは、「現実と理想に衝撃を受けること」と定義しており、自分が頭に描いていたイメージが実際の仕事内容や人間関係など、経験していることとのギャップに、不安感や喪失感、あきらめの気持ちを感じ、ときに早期退職や離職を招く大きな要因となっています。
リアリティーショックによって引き起こされること
甲南大学の尾形真実哉准教授によりますと、リアリティーショックが影響を及ぼすものとして主に3つが挙げられています。
組織コミットメントの低下
組織コミットメントとは、「特定の組織に対して、個々人が感じる一体感の強さ、あるいは組織への関与の強さ」と定義しています。
要は愛社精神というような会社に対しての愛着や心地よさ、組織やそこで働く人々への情のようなもので、組織に対しての感情的、情緒的な志向性や好感度のことです。
リアリティーショックを感じると当然ですが、この組織コミットメントの低下を招きます。
組織社会化の阻害
組織社会化とは「組織の価値観や規範、行動様式といった(いわゆる社風や会社の価値観)に対して新入社員が学び、考え方等を受け入れていくことで組織や会社に適応していくこと」を指します。
組織に馴染むといっても、技術などの職業的社会化と、会社の理念や組織における考え方等の文化的社会化と分けられます。尾形氏はこの2つも含めてリアリティーショックが組織社会化を阻害すると説いています。
離職意思の高まり
最後に離職意思です。若年就業者の早期退職の原因に、リアリティーショックなどのミスマッチが上位の理由として挙げられます。
職務満足や組織コミットメント(会社への愛着)や、尊敬できる先輩の存在、給与評価制度などのリアリティーショックから離職意思を引き起こし、実際の退職へと導いてしまうことが多く起きているのです。
看護業界でのリアリティーショックとは
看護業界は、人材の入れ替わりも激しく、リアリティーショックも含めた多くの研究が行われている業界です。自社の事業が看護業界である割合は少ないと思いますが、多くの研究から他の業界でも使える学びを得られます。
ホワイトカラーのリアリティーショックが「今後成長できるのか」「きちんと評価される企業なのか」と「キャリア」に関する要素が多いのに対し、看護師は、倫理感や正義感の強いプロフェッショナルな職業であるために「仕事」のリアリティーショックが要素として高く、仕事のリアリティーショックが高まると組織への愛着や社会化も阻害してしまうということが分かっています。
例えば、病院の方針や考え方が患者のためになっているのか、自分が学校で学んできた内容がきちんと現場で活かされているのか、自分の能力を発揮することができているのか、といった「仕事」の部分が要素としてあげられます。
このような感情からリアリティーショックを引き起こし、退職を促してしまうというケースが多く、リアリティーショックを防ぐことが早期離職を防ぐ一つの要因になることも分かっています。
リアリティーショックを起こさないためには
リアリティーショックすなわちミスマッチは、生産性・早期離職の観点でも無視できない大きな問題です。現在多くの企業がリアリティーショックに対し課題を感じ、対策を講じようと取り組んでいる最中です。実際リアリティーショックを起こさない方法などあるのでしょうか。
なかなか難しい問題ですが、実は職場の理想と現実のギャップを埋めることは「可能」だといわれています。