新入社員に3年以上働いてもらうために注意すべきこと
日本では終身雇用の概念が根強く残ってはいますが、数年後の転職を想定した就活生も決して少なくありません。人材の流動化やキャリアの多様化に伴い、おそらく今後はさらに終身雇用を前提として職を探す人は減ってくるだろうと予想されます。
@人事は、就活生を対象に「内定先企業を辞めることを想定しているか」の調査を行いました。内定段階で具体的な退職時期を想定しているのは24.4%であり、その多くが3年〜5年ないし1年〜3年と考えていることが報告されました。
出典元『@人事』「あなたはいつ頃会社を辞める予定ですか?」2019年春入社の新入社員へ緊急アンケート
退職を前提としている理由についての主な回答は「キャリアアップしたいから」が一番多く23.6%、そのほかは「理想とのギャップ」や「残業、休日出勤が多い」など職場環境についての理由が続いています。
出典元『@人事』「あなたはいつ頃会社を辞める予定ですか?」2019年春入社の新入社員へ緊急アンケート
新入社員が一人前に働けるようになるのは入社してから3〜5年だとよく言われます。ですので、企業の人事担当者にとって重要なのは「どうしたら3年以上勤めてくれるか」という視点になるでしょう。
@人事は「3年以上在籍したい」と思う企業の条件についてアンケート調査を行いました。結果は「良好な人間関係」を挙げたのが回答者の約半分にのぼり、2位以下に大きく差をつけています。
出典元『@人事』「あなたはいつ頃会社を辞める予定ですか?」2019年春入社の新入社員へ緊急アンケート
代表的な離職理由にも挙げられる「入社後に感じるギャップ」について重要なのが、入社初期に与えられる役割です。例えば新入社員に「電話応対」をさせる企業は少なくありませんが、接客を望んでいない社員がここで「自分には合わない」と感じて離脱してしまうことにも注意が必要です。「電話応対」などの業務に問題があるわけではなく、「なぜそれをしなければならないか」の理由を明確に共有・納得できていなかったことに由来します。
リアリティ・ミスマッチと言われる現実と理想のギャップについては労働政策研究・研修機構の調査によると「入社前に聞いた仕事内容と現実が異なる場合」の離職率は男性では54.5%、女性では75.3%になると報告しています。
出典元『労働政策研究・研修機構』若年者の離職状況と離職後のキャリア形成
今回は、入社初期段階で発生しうる離職原因である「リアリティ・ショック」を防ぐために知っておきたい「タスク・イニシエーション」を紹介します。
グループ・イニシエーションとは?
グループ・イニシエーションとは、新入社員が組織に適応するための「通過儀礼」にあたる課題を示す言葉です。実際の働きぶりやスキルについてではなく「組織の一員として認めてもらう」ことに大きな意味があります。
若手社員の離職理由には「人間関係」が良く挙げられますが、グループ・イニシエーションは入社初期段階でのこのポイントにコミットする概念です。
グループ・イニシエーションの目的について
グループ・イニシエーションの目的は、新たに組織に加わったメンバーのスキルを伸ばすことではなく、新入社員が活躍できる土壌を育てることです。
冒頭でも述べたように、早期離職の主な原因としてリアリティ・ショックが挙げられます。これは、入社初期の段階で意にそぐわない雑務ばかりを割り当てられ「思っていたのとは違う」と感じてしまうことが原因となっています。
社員が活躍できるかどうかは、人材が持っているスキル以上に、活かせる条件が整っているかに強く依存します。グループ・イニシエーションにはそこで生じる不具合を取り除く役割があります。
タスク・イニシエーションとの違いについて
アメリカの産業組織心理学者のD. フェルドマンは、会社組織について「グループ・イニシエーション」「タスク・イニシエーション」の2つのイニシエーションがあると述べました。
タスク・イニシエーションは「仕事面での組織への貢献」にフォーカスしたものです。つまりグループ・イニシエーションは「人間関係」、タスク・イニシエーションは「組織内での役割」という具合に対象とするものが異なっています。
グループ・イニシエーションによる企業のメリットについて
グループ・イニシエーションは、組織のメンバーとしての承認を行います。早期離職の主たる原因の1つである「組織に馴染めない」を取り除けるメリットがあります。
グループ・イニシエーションは組織内のコミュニケーションを活発にする効果も期待できますので、業務効率の向上にも効果が期待できます。新人のタスク・イニシエーションの導入としてグループ・イニシエーションを行うと、良好な関係性を構築できた上で初歩的な業務を任せられるので、初期研修のプロセスで会社と従業員の信頼関係を強めることができます。
グループ・イニシエーションによる従業員のメリットについて
特に初期研修でグループ・イニシエーションをきちんと行うことの従業員へのメリットとして、「理想と現実のギャップ」を小さくできるという効果が挙げられます。
近年では人材の流動化が顕著となっているため、働き方や組織風土も多様になっています。いろんな背景を持った方と幅広くビジネスを行っていくためには柔軟な対応力が求められます。グループ・イニシエーションによる組織内での信頼性の構築は、そうした力を養うものにもなります。
人材マネジメントの鍵を握るグループ・イニシエーション
グループ・イニシエーションとは組織の一員として認められるために行われる課題のことです。早期退職の主たる原因の1つである「職場に馴染めるか」といった新入社員にとって大きな悩みを解決するために行われます。
人間関係を構築できなければ、離職につながってしまう可能性が非常に高くなります。日本では大卒新入社員の3割が3年以内に離職する傾向があり、人材マネジメントにとって大きな問題です。会社の戦力になるのは入社後3〜5年と言われています。それを超えて長期的に活躍してもらうために、組織内の信頼関係を強める仕組みづくりが人事業務には求められます。
どのようにグループ・イニシエーションを行うのかは人材獲得競争が激化する現在の日本において、非常に重要であると言えるでしょう。