コンピテンシー評価とは?人事評価制度に導入する意味やメリット

コンピテンシーを人事評価制度に活かす意味とは?

どの企業も力を入れている「会社の人事評価制度」。長い年月をかけて、多くの手法が取り入れられていますが、すべてのケースに対応し、社員誰もが満足できる評価制度を運用できている、という企業は多くはないのが現状です。

『あしたのチーム総研』の調査によると、自社の人事評価制度に「満足していない」「あまり満足していない」従業員は、全体の71.6%と、全体の7割以上。今ある自社の評価制度を十分と感じていない層は一定数以上存在することがこの調査から見て取れます。これはつまり、社員の納得度の高い評価制度があれば、社員のモチベーションアップの一つの要因になるということの裏返しでもあります。

人事評価に満足していますか
出典元『あしたのチーム』人事評価に満足している

上記調査で報告されている内容として、全従業員の給与を一律で5,000円上昇させても、実績をあげている優秀な社員から、不満が出たと報告もあります。単純に給与を上げればよいのではなく、正しく評価されていることが重要だと言えるでしょう。

さまざまな問題を有する評価制度ですが、その中で近年注目されているものの一つに、「コンピテンシー評価」があります。これは「コンピテンシー」を評価項目・基準として設定し、人事制度の中に組み込んで利用するシステムのことです。理想の状態をコンピテンシーモデルとして定め、それに向かって社員一人ひとりが目標設定をし、上司や同僚などの周囲からの評価を受けつつ、自己も評価し、その結果を期末の査定や行動改善に活用していくというものです。

日本企業でも導入するところは少なくなく、大学などの教育現場や研究機関でも人材開発のために採用されています。

コンピテンシー評価の概要やメリット・デメリットとは

コンピテンシー評価の定義(概念)について

日本での「評価制度」でいうと、多くの企業で活用されてきた「職務能力評価」が挙げられます。職務能力評価は、職務能力で求められる範囲が役職や権限、職種などで詳細に設定されたもので「プロセスを遂行できているか」で評価されます。

職務能力評価に対して「コンピテンシー評価」は、「結果の状況や内容」が評価の定義としており、評価の基準を「プロセスを実施することで特定の状況を生み出せたかどうか」としています。

「コンピテンシー評価制度」は、業務で高い成果を出している人の行動傾向を、行動観察やインタビュー、各種テストなどを用いて調査・分析して作成されています。個人のスキルを「業務を効率的に構築できる」「人の話を傾聴できる」「人と親密なコミュニケーションがとれる」「計数処理能力に長けている」など具体的な行動傾向で表現しています。

コンピテンシー評価は「能力評価」よりも基準が明確で、かつ比較的測定もしやすい点で評価者の力量や感情に影響されない評価を実現しやすいと言われています。「能力のある人を適宜評価できる」という意味で、従来の年功序列や職務能力評価で判断されにくかった「評価」のグレーゾーンを明らかにし、社員の不満を権限することをある意味、実現しているといえます。

コンピテンシー評価は、実行後に、全員分の評価を分析することで業績向上を図ることもできます。たとえば、成果が上がっていない社員の多い部門などは、そのプロセスに問題があると推定し、業務改善を実施できます。反対に、成果がある部門があれば、そのノウハウやコツを共有することでナレッジマネジメントの実践を実現させる、といった方法で企業全体の業績の向上に寄与することができます。

コンピテンシー評価のメリットとは

業績や成果につながりやすく、企業の中長期的発展に貢献する

コンピテンシー評価は、具体的な行動の内容をモデルとして設定されます。コンピテンシー評価方法は、組織の中に眠っている経営資源に活かせるノウハウ・知恵(暗黙知ともいう)を抽出し発展させ、コンピテンシーとしてまとめて、組織全体で参考にできるようにベンチマークすることで、組織のマンパワーの底上げを図り、組織全体の実力を向上させます。

この中でも、評価項目として明文化しておくことは、成功法則が社内で共有しやすくなるという点で大きなメリットになります。コンピテンシー評価の効果が企業組織全体の財産となり、従業員の教育や能力開発、目標管理がしやすくなるのです。

プラス考課されにくい「短期的指標」が中心となる業績考課と比べて、中長期的に重要な行動をコンピテンシーとしてプラスに考課することで、長期的視野を持って行動している社員の行動を奨励することも可能です。

業績や成果考課に「行動=プロセス考課」で補完し、公平性を高める

よくある評価としては、「業績」「成果」などのアウトプットした結果を考課項目とすることが、これに「コンピテンシー行動」というプロセスの部分も考課することで、公平で合理的な考課制度として補完していくことができます。プロセス考課を導入することで「結果偏重の考課で社員のモチベーションが低下する」といったマイナスの要素も払しょくすることにもつながります。

プロセス考課によって、評価する側とされる側の認識の差違も生まれにくくなり、さらに、多面的に社員を評価できる点で、当事者である社員の納得感も得やすくなるという利点もあります。

人事、経営ビジョンの明確化

コンピテンシーを定義するにあたって、経営層のビジョンも反映させることで、その企業で期待される人材像を明確にすると同時に、それを社員が理解できる形で提示する事を可能にします。

経営理念や経営ビジョンは、具体的な行動レベルに落とし込み、発信してこそ意味をなしていくものです。社員一人ひとりに、会社が目指すものを日々問いかける体制を、コンピテンシー評価を使って実現していくことができます。

戦略的な人材の配置・育成、能力開発を実現する

コンピテンシー評価の基準は、具体的な行動特性や行動の内容です。実際の行動目標として設定しやすく、その目標を活用した能力開発を実現しやすいというメリットもあります。

個人にはそれぞれ適性や特性があり、それぞれの業務には必要なスキルや知識などが存在します。社員のコンピテンシーを把握することによって、一人ひとりの適性に合った業務分担や職務配置、キャリアや能力開発を進め、人的資源の投資効率を高める一助になります。

社員個人にとっては、自分の努力やがんばりが評価されるポイントが明確なため、モチベーションを維持・向上しやすい評価システムといえます。

コンピテンシー評価のデメリットとは

事業や企業方針の“変化”に適応しにくい

企業はその都度、社会情勢や企業が目指すもので、力を入れていく領域は変化していきます。現在は市場の流行やグローバル化などの変化が激しいため、業績を伸ばすためには会社も変化を求められます。

ある時期には新規開拓が最重要項目になり、別のある時期は既存の顧客との関係の再構築が必要になります。企業の事業フェーズが変わるたびに、“勝ちパターン”も変化し、仕事で必要とされる行動も変わっていきます。そのたびにコンピテンシーの内容を改定していくことは非常に手間のかかる作業です。多くの社員に影響を与える評価制度が適宜変わってしまうのも、社員の理解を得にくい場合もあるでしょう。

必要な時に適正な評価をすることが、企業には求められます。企業として何を求めていくのか、制度を変更する際にはなぜそれが必要なのか、目的とその周知を徹底していくなどで、デメリットは軽減していくことが可能です。

定期的なアップデートと見直しが、組織に役立つ「コンピテンシー評価」となる

コンピテンシー評価は行動という目に見えるものを評価するため、評価の客観性があり、評価基準・項目も明確である非常に有用な評価制度です。ただし、設定した評価モデルが適した時期に見直しが行われていないと、間違った方向で人材を評価してしまうことにつながります。企業の方向性や目標が変化するたびに、人材に対する評価基準・項目もあわせて見直し、それを組織全体に浸透させることが重要なのです。

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