ゆとり社員とのコミュニケーションに困る企業
健全な組織を維持する上で、さまざま要素が必要ですが、その一つに「社内コミュニケーション」があります。社内コミュニケーションの重要性はほとんどの企業で認識しているところですが、人材育成や弾力のある組織作りの上で、常に課題になっているのも事実です。
HR総研が2016年に実施した調査にも顕著に表れています。「社内コミュニケーションに関するアンケート」によると、小規模な会社から大手まで企業規模に関係なく、調査対象の実に80%が「社内のコミュニケーションに課題がある」と回答しています。
出典元『HR Pro』「社内コミュニケーションに関する調査」結果報告
コミュニケーション不足が業務の障害となっているという認識も、90%以上の企業が有しているという結果もあります。改善施策を講じていない・改善施策が上手くいっていない企業も8割以上存在するなど「社内コミュニケーション」は企業で根深い組織問題となっていることが見て取れます。
出典元『HR Pro』「社内コミュニケーションに関する調査」結果報告
シリコンバレーのIT企業をはじめ、さまざまなビジネス現場で「従業員感の連帯、つながり意識の醸成」が経営課題として認識されている米国ですが、McKinsey & Companyが実施したワークスタイルに関する調査で興味深いものがあります。「従業員同士が連携し合うことで、組織の生産性は20~25%向上し、その効果は年間1.3兆ドル(日本円にして140兆円超)に相当する可能性がある」という内容です。働きがいのある組織、社内コミュニケーションが活発な企業が、いかに企業の生産性を高めていくかをあらわしている調査と言えます。
参考URL『McKinsey & Company』The social economy: Unlocking value and productivity through social technologies
最近の学卒新入社員の印象として「職場でうまくコミュニケーションが図れない社員が増えてきている」という印象が多く挙げられています。うまくコミュニケーションを取るために先輩社員や上司が寄り添ってコミュニケーションをとっていく必要があります。
今回は、組織の中でのコミュニケーションにおいての課題の一つ、世代間ギャップについて考えるにあたって、今回は、近年の新入社員である「ゆとり社員」の特徴について説明します。
ゆとり社員の特徴とは?他の世代と何が異なるのか
2008年頃以降に大学新卒で企業に入社した社員は、義務教育過程において、いわゆる「ゆとり教育」を受けた世代であり、企業の中では総称して「ゆとり社員」と呼ばれています。
かつての日本では、義務教育期間に膨大なカリキュラムを詰め込む形で教える「詰め込み教育」が行われていました。しかし1980年度以降、数回のカリキュラム内容の見直し・精査を経て、学習時間を減らしてゆとりを持たせるような学習指導要領の改訂が行われました。この「ゆとりある教育を受けた世代」が、ゆとり世代と呼ばれています。
ゆとり世代は「ゆとり教育を受けた世代」とされていますが、実際のところ何年生まれから何年生まれまでがゆとり世代なのかは明確に定まっていません。一般にゆとり教育の始まりは、小・中学校の学習指導要領が内容、授業時間とも大幅に削減された2002年度からとされています。この年に中学3年生だった1987年度生まれは「ゆとり第一世代」と呼ばれます。
- ゆとり第一世代
1987年から1989年生まれの世代。中学生時にゆとり教育へと切り替わる - ゆとり第二世代
1989年から1995年生まれの世代。
小学校で完全週5日制になり、学力の低下が見られ始めたのはこの頃からと言われる - 脱ゆとり世代
1996年から2004年生まれの世代。
小学校から中学校のあいだで、ゆとり教育から脱ゆとりに切り替わる
ゆとり社員の特徴について
「ゆとりある教育を推進したことで学力が低下した」など、ネガティブなイメージを持たれることもあるゆとり世代ですが、この世代には以下のような特徴があるといわれることがあります。
- 仕事よりもプライベートを重視する
- ストレス耐性が低い
- 会社にかかってきた電話を取るのを嫌がる
- メールやLINEで報告
- 自分で考えるのが苦手
- 仕事に対する熱意が欠如している
仕事よりもプライベートを重視する
ゆとり世代は、指示された仕事を怠った理由として、プライベートな事情を挙げる人もいます。ある企業の役員は「頼んでおいた資料が仕上がってなかった理由を聞いたら『恋人と喧嘩をしたことで落ち込んでしまい作ることができませんでした』と言われました。その後でその愚痴を延々と聞かされました…。こちらは彼女のサポートで休日出勤するハメになって散々です…」と話しています。休日出勤など時間外の勤務を良しとしない傾向もあり、土日に出勤するなんて生きている意味がない、というゆとり世代もいます。
ある新入社員は、始業時間より20分ほど遅刻してきたらしいのですが、駆け込んできた彼女の手には通勤途中で買ったらしいコーヒーを持っていた、というつわものも。マイペースさも「ゆとり社員」の特徴の一つなのかもしれません。
ストレス耐性が低い
ゆとり世代は、学生でいた時間に大人から叱られた経験があまりなく、ストレス耐性が低いのも大きな特徴です。少し注意しただけで「仕事を辞めたい」と言い出したり、叱責の翌日に会社を休んだりと、「怒られた内容に反省する」よりは、自分が叱責されたという事実に落ち込むような傾向があります。
ゆとり世代は自分の将来像を持てていない人も多いため、怒られて嫌になったらすぐに辞職する、という人もいます。この傾向が顕著な場合、遅刻したからもう辞めたい、というケースもあります。
会社にかかってきた電話を取るのを嫌がる
新入社員が電話応対をするのはどの会社でもよくある光景ですが、ゆとり世代の新入社員は会社にかかってきた電話には積極的に出ない人もいます。とはいえ、電話に出ることを嫌がるのは新入社員にゆとり世代に限ったことではありませんが、ゆとり世代はそうした理由だけでなく、何か仕事を行っていたとしたら「今は仕事をしているので、電話に出ることは自分の仕事ではない」という発想をする傾向があるといいます。そういう社員にも、「電話応対もあなたの仕事だ」と伝え、理由付けもしっかり行うことが大切です。
メールやLINEで報告
会社を体調不良や私事都合で休みを取るときは直属の上司に電話などをして、業務の引き継ぎなども含めて電話で伝えるのが一般的ですが、ゆとり世代はメールやLINEで終わらせる傾向もあるといいます。「今日は休暇をいただきます」という一文がLINEで届いて、その後電話をしても一切出ないこともあるという声もあります。
ゆとり世代としては、有給休暇を取得するのは当たり前の権利だという意見ですが、事前に話をしていないまま会社を休むと、周りの社員に負荷がかかります。仕事を休む時にも必要なマナーがあることを、彼らが理解するまで伝えることが必要です。
自分で考えるのが苦手
ゆとり世代は学生の頃からパソコンなどIT機器を利用してきた世代ということもあり、新入社員でもそういったスキルが長けている人が多くいます。幼少時からインターネットで膨大な知識を瞬時に得る経験を積み重ねてきた世代なので、わからないことはGoogle検索すれば、すぐに答えがわかると思っている世代でもあります。答えがあるモノを調べるのは得意でも、答えのないことを自分で考えるのは苦手な人が多い傾向があります。
彼らには、すべてに答えがあるものばかりではないことや、地道に物事に取り組む姿勢の大切さも教えることも必要でしょう。
仕事に対する熱意が欠如している
ゆとり世代は、反復して覚えこむような仕事の習得を得意としていない人も多くいます。努力し苦労して仕事に取り組むスタンスでないと難しい業務が苦手とも言われます。
ゆとり社員にとってのスキル習得とは、手取り足取り丁寧に教えてくれ、参考となるようなテキストがあることで自然と身につくもの、という感覚を持っている人も多くいます。自分がうまくいかなければ上司や会社などの環境を要因にしがちで、結果の見えない業務に対しても取り組む前から諦めてしまう傾向があります。
ゆとり社員の特徴を押さえて、しっかり向き合う
ゆとり社員とはゆとり教育を受けた社員のことであり、ゆとり世代は1987年4月2日~2004年4月1日生まれであるため、2004年生まれが22歳で大卒になる2026年卒までの新入社員はゆとり社員に該当します。
ゆとり世代とそうでない世代では、成長してきた環境などの違いにより、価値観などが異なるため、お互いが違った価値観を持っていることを共通認識してコミュニケーションを行う必要があります。