少子化とコロナ禍における若者の採用方法の変化
少子化だけでなく、コロナ禍において若者の採用方法は変化し続けています。
ラーニングエージェンシーの調査によると、新型コロナにおいて「従来のやり方から変更」または「新たに対応」することになった業務として、採用業務が最も挙げられています。従来の採用スケジュールを変更せざるを得なくなっただけでなく、(合同)説明会の中止や変更、ウェブ面接を活用する等の選考方法の変更など、コロナ禍における変化は様々挙げられます。
出典元『株式会社ラーニングエージェンシー』コロナ禍の新卒採用に関する調査
内定者を対象にした調査においても、内定者は多くの不安を抱えていることが明らかになりました。ラーニングエージェンシーの調査によると、約8割の内定者が不安や心配な気持ちを抱えていることが明らかになっています。
内定期間中に会社から求めるサポートとして「先輩社員との人間関係を築く機会がほしい」「他の内定者との人間関係を築く機会がほしい」など、入社後の人間関係に関するサポートが求められています。内定式なども中止する企業が多く、先輩や内定者と直接交流することが難しくなったコロナ禍において、内定者が人間関係を築きにくくなっている現状が明らかとなっています。
入社後の人間関係は、早期離職にも大きな影響を与えている要因です。@人事の入社直後の新入社員を対象にした調査では、「3年以上在籍したい」と思う企業の条件として、給与や休暇などの待遇や労働条件よりも「良好な人間関係」が挙げられています。
出典元『@人事』「あなたはいつ頃会社を辞める予定ですか?」2019年春入社の新入社員へ緊急アンケート
社員の確保には人材の採用だけではなく、人材の離職防止も重要です。社員の離職によって採用や教育などのコストが無駄になってしまうだけでなく、内外の会社に対する良くないイメージの定着にもつながりかねません。しかし、離職率の改善に取り組んでいる会社は多いものの、若者の、特に新入社員の離職率はどの業界においても比較的高く対策が難しいと言われています。
今回は、若者の離職率の現状や推移について説明していきます。
厚生労働省の調査結果から見る、若者の離職率
若者の離職率の現状や推移を確認できるデータは、民間の調査会社や人材会社のデータなど様々挙げられます。就労状況等を把握する上で、厚生労働省も様々なデータを公開しています。
今回は厚生労働省の調査結果から、若者の離職率などの現状や推移について確認してみましょう。
学歴別離職率の推移
厚生労働省の「新規学卒者の離職状況の調査データ」によると、新卒3年以内の離職率は、景気によって多少影響されているものの、ここ20年以上大きく変化してはいません。一番よく話題に挙げられる大卒人材で約30%ほどで、1年目、2年目、3年目と、毎年約10%ずつが離職する傾向が続いています。短大卒や高卒人材では3年以内離職率は大卒人材より10%ほど高い値でとどまっており、中卒人材にあたっては60%から70%という非常に高い水準で推移しています。
少子化による母集団形成の難化やコロナ禍における採用活動の変化など、以前と比べて採用活動自体が変化しています。1人を採用するのが難しくなっているのに対し、採用した1人が早期離職する割合は変わっていません。すなわち今まで通り早期離職が発生したとしても、採用業務に係る負担は増加し続けていると考えられます。
年代、性別、雇用形態ごとの離職率について
厚労省の「平成30年雇用動向調査結果」によると、基本的な傾向として、男女ともに年齢が上がるごとに離職率は低下すると言えます。20~24歳では男女ともに30%ほどある離職率が、年齢が上がるととともに、男性で6%ほど、女性で10%ほどに低下する傾向があります。
男性に比べて女性の方が平均して5%ほど離職率が高い傾向にあるのは、女性は男性に比べてパートなどの非正規雇用が多いことが挙げられます。20~24歳では、パートタイム労働者の割合と離職率は男女間であまり差がありませんが、25歳以上では女性におけるパートタイム労働者の割合は右肩上がりとなっています。男性も40歳以上からパートタイム労働者の割合が右肩上がりとなっています。
男女における離職率の差は、労働者に占めるパートタイム労働者の割合と関係があると考えられますが、基本的には年齢とともに離職率は低下していくため、離職率を改善するためには若者を対象とした施策が有効であると考えられます。
事業所規模別の傾向について
厚生労働省の「新規学卒者の離職状況の調査データ」によると、事業所の規模が大きくなるほど離職率は下がる傾向があり、従業員が5人未満の事業所においての3年以内離職率が60%程度であるのに対して、5~29人では50%程度、30~99人では40%、100人~1000人では30%、1000人以上では20%~30%となっています。
出典元『厚生労働省』新規大卒就職者の事業所規模別就職後3年以内の離職率の推移
従業員規模が小さい会社ほど、採用や教育などへ使える予算が少ない傾向にあります。しかしながら、1000人以上の大企業でも20%~30%程度の人材が早期離職しており、1年間で考える早期離職による損失は従業員規模が小さい会社とは比にならないくらい大きな金額になると考えられます。
産業別の離職率について
厚生労働省の「新規学卒者の離職状況の調査データ」によると、新規大卒就業者の3年以内離職率はインフラにおいて一番低く10%を切っています。次に鉱業や製造業が20%以下で続き、情報通信や運輸では25%程度、次いで、建設業や卸売業で30%程度、医療・不動産・小売などで40%、教育や娯楽の分野では45%、宿泊や飲食サービス業で最も高く、50%程度で推移しています。
離職率の高い宿泊や飲食などのサービス業は、人材がいなければ成り立たない産業です。一人ひとりの従業員が価値を生み出す一方で、身につけたスキルが同業他社でも使えるとなれば、離職してしまう可能性が高くなります。待遇や労働条件だけでなく「この会社で働き続けたい」と思えるような魅力づくりや独自性、良好な人間関係を構築することが早期離職を防止する施策として考えられます。
まずは採用要件の明確な定義から
若者の離職率は、他の世代に比べて高い傾向にあるものの、様々な取り組みに反して20年間長らく改善されていません。一般に「若者の離職率は高い」と言われますが、実際は学歴や年齢、性別、業種あるいは事業規模、雇用形態などによっても大きく異なるため、一般化しすぎてしまわずに自社の人材状況に即したデータを活用することが重要です。
若者の離職理由としては特に「仕事が自分に合わなかった」「人間関係がよくなかった」などが挙げられており、人材の適性を見極めることはもちろんのこと、多様化する業務内容に適した人材はどんな人材なのか、採用要件を明確に定義することが、若者の離職率の改善のために各企業に求められているのではないでしょうか。