従業員を取り巻く環境はまだまだ良くない
現代の日本の労働者の健康・やる気については、国際社会と比較しても厳しい状況にあります。
厚生労働省が行った労働者の精神障害に関する調査によると、精神障害による労災の請求件数は年々増加しています。つまり、働く中で精神的な問題を抱える人が増加している現状があるのです。
出典元『厚生労働省』令和元年度「過労死等の労災補償状況」を公表します
独立行政法人労働政策研究・研修機構によると、日本は長時間労働をしている労働者の割合は欧米諸国に比べ非常に高いという結果が報告されています。日本国内の統計を見ると、長時間労働者の割合はわずかに減少傾向があります。つまり日本では懸命に長時間労働をなくす動きに取り組んでいるものの、国際比較をすると依然として日本の長時間労働者は多いのです。
出典元『独立行政法人 労働政策研究・研修機構』国際労働比較 2018
政府としても「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(関係法案)」の整備を進め、日本の労働環境の改善に国を上げて取り組む姿勢を見せています。
残念ながら、労働環境の改善はそう簡単には進みません。アメリカのギャラップ社は、世界各国の労働者を調査したState of Global Workplace 2017においてあらゆる事柄について国際比較し報告しています。その中には労働者の「熱意」に関するものがあります。この調査によると、日本は「熱意ある労働者の割合は6%」という結果でした。国際比較をすると最下位の水準であり、最も割合の多いアメリカ、カナダの「熱意ある労働者31%」という結果と比べると、大変寂しい結果であったことが、ひしひしと感じられます。
参考URL『Gallup Report (2017)』State of Global Workplace 2017
このように過酷な日本の労働環境を放置するわけにはいきません。今回は、労働環境改善の糸口として、労働者の幸福度の指標である「ウェルビーイング」について説明し、企業においていかに導入するかを紹介します。
ウェルビーイングを実現するために必要なこととは?
ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する言葉です。ウェルビーイングは、疾病を持つ社会的弱者に最低限の生活保障をするに留まらず、人として尊厳ある生き方ができるよう、生活の質が保たれるよう、とても重要なものです。
ウェルビーイングを簡単に言い換えると、幸せ・満足している、という状態のことです。「病気ではない」というネガティブな何かがないことを意味するのではなく、「健康だ」「毎日が楽しい」「充実している」という満たされた状態が維持されていることを指します。
ウェルビーイングを構成する5つの要素について
ウェルビーイングは、5つの要素で構成されています。これら5つのカテゴリーで幸福度が高く維持されてこそ、総合的なウェルビーイングが高いと考えられています。
- Career(仕事、家事、育児、趣味)
多くの時間を費やす事柄に充実感・満足感がある - Social(人間関係)
量ではなく質を重視。心の結びつきも欠かせない - Financial(経済面)
報酬が得られる、自分で管理できる資産がある - Physical(心身の健康度)
身体だけでなく精神的にも健康的である。前向きに日常生活を送っている - Community(親しい結びつき)
居住地域、社内の集いなど、より身近な他者と気持ちを通わせている
ウェルビーイングの実現方法とは?簡単な質問から始めよう
ウェルビーイングは、ただ単に「〜があるだけで幸せ」という意味ではなく、人との繋がりの中であらゆる事柄に満足できている状態を「幸福」と捉える概念です。従業員の幸福度が上がると生産性も向上して企業にとってもプラスになる、ひいては社会全体が活性化されると考えられます。
どのように企業で導入すると良いのか「労働者のエンゲージメントを測る12の質問」をヒントに考えていきましょう。
- 職場において、自分が何を期待されているか、知っていますか
- 仕事をうまく進めるために必要なもの(道具、材料、環境)は与えられていますか
- 仕事の中で自分が一番得意なことをする機会が、毎日ありますか
- この一週間のうちに、良い仕事をしたと認められましたか。褒められましたか
- 上司や職場の誰かが、自分を一人の人間として気にかけてくれていますか
- 職場の誰かが、自分の成長を促してくれていますか
- 職場において、自分の意見は尊重されていますか
- 会社が持つ使命や目的から、自分の仕事は重要であると感じられますか
- 職場の同僚は真剣に質の高い仕事をしようと努めていますか
- 職場には親しい間柄の人がいますか
- この半年間のうちに、職場の誰かが自分の進歩・成長について話をしてくれましたか
- この1年のうちに、仕事の中で学び、成長する機会がありましたか
上記の12の質問を「〜する」に置き換えると、企業において取り組むべき具体策が見えてきます。例えば、「職場において何を期待しているか、曖昧になっていたことを言語化し、評価する基準を明確化し、従業員一人一人の自覚を促すこと」「成長を応援し、できたことを積極的に褒めること」「現場の意見をしっかり聞き、何らかの改善策に取り入れていくこと」などが挙げられます。
まずは一言褒める、一番得意だと感じている業務は何なのか尋ねてみる、などから始めてみてはいかがでしょうか。
まずは気軽なところからウェルビーイングを始めよう
ウェルビーイングとは、個人やチームが、身体も心も社会的にも健康な状態であることを意味する概念です。「病気ではないから幸せ」という考えではなく、「人間関係も、経済的な面も、それなりに満足できている」という多岐に渡る幸福を目指すものです。
企業においてウェルビーイングを取り入れる際には、各部署・チーム・従業員一人一人の今の状態を知る必要があります。金銭以外の何を報酬と捉えており、満足感があるのか、不足感の背景は何なのかなどを分析していくと、具体的解決策が細やかに明らかになります。
いざ導入しようとするとはじめは骨の折れることかもしれませんが、従業員がイキイキ働くことは、離職ストップ・生産性アップ、あなたの幸福度倍増、となることでしょう。