社内コミュニケーションには多くの課題が残されている
組織運営を行う上で、社内コミュニケーションは非常に重要です。組織として業務を割り振り、複数人で業務を遂行しなければならない場面においては、社内コミュニケーションが不要だと感じる人はほとんどいないでしょう。
HR Proの調査によると、コミュニケーション不足が業務の障害になるとほぼ社員全員が考えていると回答しています。
出典元『HR Pro』「社内コミュニケーションに関する調査」結果報告
社内の情報共有ができていると回答した企業が6割いる一方で、社内のコミュニケーションに課題があると考えている企業が約8割も存在します。この結果は矛盾しており、一部を切り取って情報共有が出来ていると考える人もいれば、一部だけでも課題があると考えている人がいると想定できます。
出典元『HR Pro』「社内コミュニケーションに関する調査」結果報告
出典元『HR Pro』「社内コミュニケーションに関する調査」結果報告
通常の組織では、人事部や開発部、営業部などの業務内容によって組織内で果たす役割が異なります。担当する業務を細分化することで専門的な知識を身につけてもらい、自社業務の効率化を目的としているためです。業務のスペシャリスト(専門家)になるか、複数人を動かすための管理職になるかは組織や従業員個人の意向によって異なりますが、個人の成長が組織の成長にも繋がります。
現代はVUCA時代と呼ばれる、将来の予測が困難な時代となっています。市場もグローバル化し、ビジネスモデルの衰退や転換、持続的な新規事業の開発など多くの組織が経営課題を抱えています。マニュアルワーカーと呼ばれる単純作業を正確にこなす人材よりも、ナレッジワーカーと呼ばれる知恵や知識を使って企業に付加価値をもたらす人材の育成が解決策として提案されています。ナレッジワーカーは高度な専門知識を活用することが求められるため、業務のスペシャリスト育成は重要な経営課題とも言えます。
サーキュレーションの調査によると、人的課題について、プロフェッショナル人材が必要だと思うと回答した部長職以上の会社員は8割以上になっています。
出典元『株式会社サーキュレーション』ビジネスパーソン600人に聞いた「働き方」に関する意識調査
学び直しを行っている社会人学生の特徴として「専門的知識」を習得したいと回答する人が最も多くなっています。
今回は専門的な知識を持つ人材とのコミュニケーションが欠かせない「トランザクティブメモリー」について説明します。
トランザクティブメモリーとは?なぜ重要なのか
トランザクティブメモリーとは、1980年代半ばに、ハーバード大学の社会心理学者、ダニエル・ウェグナーによって確立された概念で、「誰が何を知っているかを認識すること」です。
組織内の共有において、組織の全員が同じことを知っていることではなく、「組織の誰が何を知っているか」いわゆる「Who knows What」を組織の全員が知っていることが重要であると唱えました。
会社の中には人事部や開発部、営業部など様々な部署や職種があり、それぞれの専門知識を兼ね備えた人材がいるはずです。上司などを含め「誰に聞いたら分かるのか」を知っている状態と知らない状態では、組織のパフォーマンスに大きな違いが生まれてしまいます。
トランザクティブメモリーの目的について
トランザクティブメモリーの目的は、組織の活性化や業務の効率化です。組織活性化のために組織内で情報を共有することは一般的に行われているかと思いますが、一人ひとり覚えられる記憶量には限界があり、また全員が同じことを覚えているのは効率が良いとはいえません。
トランザクティブメモリーのように、組織メンバーがそれぞれ何らかの専門分野のスペシャリストになれば「この分野はこの人が詳しい」ことを組織で共有することで、組織の役割は最大化され、組織活性化と効率化が進み、より業務スピードが上がっていくでしょう。
トランザクティブメモリーを活用する企業としてのメリットとは
トランザクティブメモリーの企業のメリットとして、組織学習の拡大による組織力最大化が挙げられます。組織が大きくなり仕事も増えていくと、必要となる組織学習の量は拡大していきます。そうなると覚える量や共有する量も増えていき、組織内一人ひとりにその内容を把握させることは非効率となっていきます。
トランザクティブメモリーでは、それぞれの分野に詳しい専門家を配置し「この問題の解決にはこの人に確認する」という情報を共有するのみになるため、膨大な量を覚える必要がなくなり効率的です。組織全体で共有したいことだけを共有することになるので、会社が伝えたいことや大切にしたいことがシンプルにわかりやすくなる利点もあります。
トランザクティブメモリーを活用する従業員としてのメリット
トランザクティブメモリーの従業員側のメリットとして社員同士のコミュニケーションが活発化し組織が活性化することが挙げられます。誰がどの分野に詳しいのか把握する必要があるため社員同士の交流が広がるでしょう。また自身もある分野を担当するため責任感が増し、より一層仕事に対して取り組むことができます。新しい情報や知識を、より深く知るために学習をすることも増えるでしょうし、自身のスキルアップにも繋がります。
ダイバーシティーも社内に広がることで、様々な意見に触れることができ刺激を受けることにも繋がります。
トランザクティブメモリーが高い企業ほどパフォーマンスが高くなる
トランザクティブメモリーとは組織学習に関する概念であり、全員がすべてのことを知っておくわけではなく、誰が何を知っているのかを共有して把握していることです。
専門家などのスペシャリストが多い組織では非常に重要な概念であり、トランザクティブメモリーが高い企業であるほどパフォーマンスが高い傾向にあります。各従業員がどのような知識に長けているか、その情報を知りたい場合にコミュニケーションは円滑に行えるかなどの視点でトランザクティブメモリーを高めていくことが重要でしょう。