採用すべきは「就業力を持つ学生」?
少子高齢化に伴う学生人口の減少により、優秀な学生を獲得する競争はしばらく続くと考えるのが妥当でしょう。文部科学省の報告によれば、2040年には今よりも10万人以上減少すると見込まれており「良い時期が来るのを待つ」のは得策といえません。積極的に人材戦略を立て、実施していかなくては企業の人材力が低下してしまう状況が現在だといえます。
リクルートによる就職白書2019では、「入社予定者への量的・質的満足度」の「量・質ともに非満足」の割合が増加してきており、学生の獲得がより厳しくなってきている現状が報告されています。
人材獲得の難易度が高まる一方、マイナビの調査によれば、採用予定数を増やす企業が多く、17年卒と比べて約20%も増加していることが分かります。人材獲得競争がさらに激化することが予見され、採用活動ではターゲットの裾野を広げる戦略が不可欠となります。業界・業種にとらわれず、経験や専門性でなく、汎用性の高い実務スキルを持った人材を上手に見極めることが大切になります。
今回は、文部科学省が推進し、現在は廃止されているとはいえ、いまでも多くの大学で取り組まれている「就業力」について説明します。
就業力とは?学生はどんなスキルを身につけているのか
駿河台大学メディア情報学部では、学生の「就業力」の育成に取り組んでいます。同大学による就業力の定義は「社会的・職業的自立を図る力」とされています。就業力は「能動的な職業意識」と「一定水準以上の実務能力」の2つを基盤としていると述べられています。学生の就職支援をする大学はいわば求職者目線の立場をとりますが、これは採用する側にとっても重要な視点となります。
人材採用では企業と採用者が理念・社風・キャリア志向などのミスマッチによる早期離職が大きな課題としてあります。このミスマッチを防ぐポイントとなるのが採用選考での評価基準の明確化であり、なにをどのように評価するかを設定する根拠としてここで挙げられる「就業力」は参照する価値のある概念です。
なぜ就業力が必要なのか
就業力とは、求職者が採用内定を取るための「就職力」とは異なる概念です。多くの大学・専門学校では「就職力」を身につけるための指導が、エントリーシートの添削・模擬面接などを通して行われていますが、採用する側としてそれは本質的な問題ではありません。
多くの求職者が大学や専門学校で専攻していた分野とは違う領域の仕事についているという実際的な問題もあります。企業目線でもこれは重要です。特に若手採用では専門が異なる「業界・業種未経験」の人材を確保し、中長期的な育成を通して戦力にしていくことは、採用競争が激しい昨今では重大な人事課題です。
就業力は、業界・業種にとらわれず活躍できる汎用性の高い人材を獲得するためにも重要な採用基準となりえるのです。
就業力に含まれる3つのスキルについて
就業力を構成するスキルは大きく分けて以下の3つがあります。
- マネジメントスキル
自身の特徴を客観的に捉え、長所を活かした働き方を能動的かつ計画的に実行できるスキルです。 - 実務能力
与えられた仕事を的確にこなすスキルで、要領の良さともいえます。 - 経験と知識を結びつける能力
「経験を応用する」スキルです。会社での業務は単発的な経験を蓄積するだけでは創造は生まれず、また知識だけではトラブルに対応できません。知識と経験を結びつけることで、創造性の高い仕事ができるようになります。
学生が就業力を身につけることで得られるメリットとは
就業力を身につけた学生は、いわゆる「就職力」に固執する学生に比べて柔軟性があります。就職力とは就職試験をパスするためのテクニックであり、実務とは異なるスキルです。
就業力はあくまでも現代社会を生き抜くためのスキルです。就業力を身につけた学生は、未経験の分野でも環境に適合し、そのなかで自身がどう活躍できるかを手と頭を使って試行錯誤できるという長所を持っています。
就業力の高い学生を採用することで企業が得られるメリットとは
就業力を身につけた学生を採用する企業のメリットは、汎用性の高い若手人材を確保できることにあります。
中長期的な会社経営で重要なのは、次世代のキーマンを育成することです。経営層になればなるほど、自社が手がける事業について広く対応できなければなりません。そうした人材に成長するためには、新しい環境に放り込まれても即座に対応し、新たな知識や経験を能動的に吸収していく必要があります。
就業力を身につけた学生を採用することは、長期的に健全な会社経営を行うために不可欠な要素といえます。
「就業力」を持つ学生は次世代の会社経営を占う
就業力とは「学生が卒業後自らの素質を向上させ、社会的・職業的自立を図るために必要な能力」のことです。多くの大学では就職試験をパスするために必要な「就職力」の育成に力を入れていますが、いくつかの大学ではそれよりもより本質的な「就業力」の育成を主眼においたカリキュラムを組んでいます。
就業力の高い学生は「どこでどんな職についても、どうすれば活躍できるか」を能動的に考え、行動に移すことができますので、汎用性の高い実務能力を持っています。だからこそ就業力の高い学生に適切なアプローチを行うためには、入社後のキャリアなどの自社が提供できる情報を適切に提供し「自社ではどのように活躍できるか」を個別にアピールすることが大切です。
就業力を身につけた学生は、将来的に会社のキーマンに育つ可能性を引いめています。定着して長く活躍してくれる人材を獲得するために、就業力に目を向けた採用基準を設定してみてはいかがでしょうか?