再現性のある人材マネジメントを目指して
リーマンショック以降、求人倍率が増加の一途をたどり、人材採用のハードルが上がり続けているなか、人材獲得だけでなく育成についても課題はたくさんあります。
リクルートマネジメントソリューションズの調査によれば、「人事・組織戦略上の課題」として「自分の後任を担える人材・次世代リーダーが育っていない」「採用した人材のパフォーマンスが上がらない」「パフォーマンスの上がらない人材を代謝できない」など、パフォーマンスやマネジメントに関して課題を感じている企業が多くあることがわかりました。
出典元『リクルートマネジメントソリューションズ』成長企業における人材・組織マネジメントに関する実態調査
組織内の生産性については、「パレートの法則」で論じられることが度々あります。パレートの法則によれば、組織内で優秀な人材が2割・そうでない人が8割になるといわれており、人材マネジメントを行なう上でも、ざっくりとこのような見立てを持つと、自社の組織構造が少しクリアに見えます。
組織の人材育成体制についてはどうでしょうか?内閣府は、管理職・一般職員の双方からアンケートをとり、マネジメント行動についての調査を行いました。その結果、双方で「部下のキャリア形成や人材育成に対する支援」がマネジメントが十分でないものの1位として挙げられており、人材育成制度の整備・運用に課題が多くあることがわかりました。
出典元『内閣府』管理職のマネジメント能力に関するアンケート調査 結果概要(最終報告)
今回は、アメリカでは十数年以上前から取り入れられている成果を挙げるためのマネジメント手法である「行動科学マネジメント」とは何かを解説します。
行動科学マネジメントのやり方・実践方法とは?
行動科学マネジメントとは、行動分析学を元にした人材マネジメントのことです。行動分析学はアメリカで発達した学問で、人の「感情」という曖昧なものではなく、行動に注目することで人の行動原理を科学的に分析することを目的としています。
この学問をベースとしたマネジメントは、ビジネスではもちろん、教育や人材育成でも有効であり、特に「行動を起こす動機付け」を的確に行えるという点でメリットがあります。
行動科学マネジメントの基礎となる「ABCモデル」とは?
行動科学マネジメントの実践には、特別な知識や技術は必要ありません。ポイントさえ押さえれば誰でも簡単に行なうことができます。
行動科学マネジメントにおいて基礎的な考え方になるのが「ABCモデル」です。ABCモデルは人が行動を起こし、その結果が生じるまでにどんなプロセスがあるかを分析したものとなり、以下の3要素で構成されます。
A:Antecedent(先行条件)
B:Behavior(行動)
C:Consequence(結果)
人はなにか目的があり(先行条件)、それを実現するために動き(行動)、なにかを得る(結果)という3ステップがあると考えればわかりやすいでしょう。
行動科学マネジメントと一般的なマネジメントの違いとは?
一般的なマネジメントでは、ABCモデルのうちのA(先行条件)にコミットする傾向があります。たとえば「業績をあげる」という目標を達成するための動機付けや目標設定が重視されます。
行動科学マネジメントが重視するのはC(結果)です。部下が起こした行動の結果生じたものに対する助言や承認を積極的に行うことにより、自発的に「望ましい行動」をとるように導くことが行動科学マネジメントの特徴です。
行動科学マネジメントを実践するには?
行動科学マネジメントは、従業員とともに目標設定を行なったり、KPIを設けたりするようなマネジメント手法ではなく、あくまでも個人が自発的に望ましい行動をとるように導くマネジメントです。
従業員や部下はそれぞれ性格もモチベーションも異なっているため、先行条件に注目した一般的なマネジメントを行なう場合、1人ひとりの特徴をしっかり把握することが大切です。行動科学マネジメントでは、「行動ありき」でマネジメントを行います。良い結果が出ていたならば、褒めるところをしっかり褒めるのがその第一歩です。
なかには良い結果が出せていないケースもあります。そういう場合は「行動(B)」に注目してみましょう。するべきことができている、場合によっては「行動を起こしたこと自体」を承認することで、うまく機能できていない社員も少しずつ前向きに行動を起こすようになります。
結果や行動を承認することで自発性を伸ばすことができる
行動科学マネジメントとは行動分析学が生まれたマネジメント手法です。科学的な裏付けがあるマネジメント手法なので、「誰が行っても再現できる」ことが大きなメリットであり、同じ行動を起こせば同じ結果が得られるマネジメントですので、人事制度・育成計画の設計で大きな効果が期待できます。
行動科学マネジメントの実践には、まずABCモデルの理解が必要です。そして一般的なマネジメントとの着眼の違いを意識しながら、部下や従業員が起こした行動や結果を積極的に承認することが第一歩です。
自社の活躍社員とも協力して、具体的にどのような行動を起こしているのかを客観的に分析し、他の従業員も継続して真似できるところまで落とし込むと、長期的に大きな効果が得られるでしょう。