社員のモチベーションは会社の業績に強く影響する!
社員のモチベーションをアップさせると会社の業績が伸びることが、様々な研究や事例から分かっています。モチベーションが高い社員は、従業員エンゲージメントも高く、会社と顧客双方に対して貢献度が高い傾向にあります。
社員のモチベーションが上がることによるメリットとは?
社員のモチベーションが上がると以下のようなメリットがあります。
- 離職率が低くなる
- 仕事の質と生産性が上がる
- 会社へのエンゲージメントが高まる
- 組織の士気が高まる
社員のモチベーションの上げ方が分からず、具体的にどのような施策を実施したら良いのか悩んでいる経営者や人事担当者の方も多いのではないでしょうか?
今回の記事では、社員のモチベーションアップにつながる具体的な施策を7つご紹介します。
社員のモチベーションアップにつながる7つの施策とは?
人が行動する理由には、モチベーションとなる「何かしらの欲求」が関係しています。
人間の欲求を体系的に分類した、アメリカの心理学者マズローの欲求5段階説というものがあります。マズローの欲求5段階説では、人間の欲求には5段階あると説明されています。
- 第1階層:生理的欲求
- 第2階層:安全欲求
- 第3階層:社会的欲求(帰属欲求)
- 第4階層:尊厳欲求(承認欲求)
- 第5階層:自己実現欲求
第1階層の生理的欲求が最も低次のものであり、第5階層の自己実現欲求が高次の欲求になります。生理的欲求が満たされると次は安全欲求を満たしたくなるといった具合に、人は低次の欲求が満たされると、より高次の欲求を求めるとされています。
欲求の段階は低次の欲求から満たしていくことが重要です。生理的欲求が満たされていないのに、社会的欲求(帰属欲求)を満たす施策を行ったとしても、良い結果は得られません。この場合は、まず生理的欲求を満たす施策を行う必要があります。
社員のモチベーションを上げる主な施策として、7つの施策が考えられます。各施策がマズローの欲求5段階説でのどの欲求を満たすのか、その理由も含めて確認しましょう。
- 人事評価制度の充実
- 人間関係を円滑にする取り組み
- 会社の現状や進む方向性を経営者が伝える
- 表彰制度など非金銭的インセンティブ
- 社員がチャレンジしやすい環境を整える
- マネジメント教育と人材育成
- ワークライフバランスの充実
1.人事評価制度の充実
リクルートが20~40代の正社員(管理職を除く)519名を対象に行った調査によると、人事評価制度への意見として、評価に満足している人も不満を感じている人も「評価基準や評価項目の明確さ」を挙げています。
「何に頑張って取り組むべきか」が分からなければ努力のしようがなく、「他の人より頑張っても同じ評価になる」のであれば、他の人よりも努力するモチベーションもなくなるものです。
出典元『リクルートマネジメントソリューションズ』RMS Message vol.45 (2017年2月)
納得のできる評価とフィードバックを行うためには、社員の責任範囲を明確化し、成果が正当に評価され昇給や昇進などに反映されるシステムを作る必要があります。公平感を出すためには、360度評価などの多面評価を導入することも一つの方法です。
社員一人ひとりのキャリアパス実現に向けた目標設定と、長期的な育成プランの策定を行うことも大切です。
人事評価制度は、第4階層の尊厳欲求(承認欲求)を満たす施策
尊厳欲求(承認欲求)は「所属する組織の中で特別な存在でありたい、一目置かれる存在でありたい」という欲求です。社員一人ひとりの行動を正しく評価し、より高い成果を上げた社員に対して高い評価を付けることは、社員にとって「会社や経営者に認めてもらっている」と感じるきっかけになります。
逆に正しい評価ができていない、成果を上げても不公平に評価される場合は「所属する組織(会社)の中で特別な存在になれない」と社員のモチベーションを下げる可能性があります。
2.人間関係を円滑にする取り組み
人間関係の悪さは、社員の仕事に対するモチベーションを急低下させる原因になります。
企業は社内の人間関係を円滑にするためにも、社内のコミュニケーションを活性化し、風通しの良い職場環境を作る必要があります。社員の満足度調査を実施する、コンプライアンスの相談窓口を設けるなど、社員の不満を受け止める体制作りも大切です。
人間関係の円滑化は、第3階層の社会的欲求(帰属欲求)を満たす施策
社会的欲求(帰属欲求)は「組織(会社・家族・仲間など)に属したい」という欲求です。職場に一緒にいるだけでなく、仲間意識や共通の目的意識など、社員同士が存在を認め合っていることが大切です。
人間関係が悪い組織であれば「そもそもこの組織に属したくない」となります。会社全体はもちろん部署やチームごとなど、社員にとってより身近な組織である方が深刻な問題となります
人間関係が「悪くはないが良くもない」場合も問題です。社員同士が全く無関心で「ただ同じ電車に乗り合わせただけの人たち」のように感じる組織の場合も、社会的欲求(帰属欲求)を満たすことができません。
3.会社の現状や進む方向性を経営者が伝える
社員同士のコミュニケーションを活性化するだけではなく、経営トップから社員へ向けて情報発信を的確に行うことも重要です。
会社のミッションや今後の事業計画など進むべき方向性が分からなければ、社員が経営者と同じ方向に向かってモチベーション高く力を発揮することはできません。
会社の現状や方向性は、第2階層の安全欲求を満たす施策
安全欲求は「危険を回避したい、安心安全な場に身を置きたい」という欲求です。物理的な危険はもちろんですが、社会的な危険(会社がいつ倒産するかわからない、いつ解雇されるか分からない)も含まれます。
会社の現状や方向性が分からなければ「この会社で働き続けて大丈夫なのか?」「今すぐ転職して安定した生活にした方が良いのではないか」といった、経済的な安全に対する不安が生まれます。会社の現状が良くても、方向性があやふやでは「今後はどうなるか分からない」という不安を生みます。
4.表彰制度などの非金銭的インセンティブ
高い給与や賞与はモチベーションの要因になりますが、高い業績に対して表彰することで、社員の頑張りを認めていると示すことができます。
給与や賞与の金額を他の従業員に公表することは難しいですが、表彰制度であれば、成果を他の従業員に向けて称える機会を作ることができます。
表彰制度は、第4階層の尊厳欲求(承認欲求)を満たす施策
評価制度と同様に、表彰制度は尊厳欲求を満たす施策となります。
評価制度は、役職や立場などであれば他の社員からも見えますが、給与や賞与などの増額は、他の社員から確認することができません。しかし表彰制度であれば、他の社員からも「具体的な行動が、会社だけでなく他の従業員からも評価される」ことが見えるため、モチベーションアップにつながります。
5.社員がチャレンジしやすい環境を整える
新規事業のアイディアを出し合う社内コンテストや社内ベンチャー制度、社内の空いたポストを公開して部門間の人員の流動を促進する社内公募制度などは、社員の意見を会社が汲み取って採用する制度です。
社員が挑戦しやすい環境を作り、自ら主体的に行動することを推奨する制度として、モチベーションアップの施策としても機能します。
チャレンジ環境は、第5階層の自己実現欲求を満たす施策
自己実現欲求は「理想とする自分になりたい」という欲求で、無償性(報酬などの見返りを求めない)という特徴があります。
新しいチャレンジができる環境は、社員が通常の業務範疇を超え「こんなことをしてみたい」と思える状態です。社員が様々な部署での経験を積んで成長するため、長期的な教育としても有用です。
チャレンジできる環境がなければ「やる必要がない(報酬などもない)のに、考えるだけ無駄」や「自分の業務外のことは関係ない、給料だけもらえたら良い」という考えに陥り、モチベーションが下がる原因になります。
6.マネジメント教育と人材育成
社内のモチベーションを上げるために人事部門ができる主な対策は、部下をきちんとマネジメントできる上司を育成することと、人材を適材適所に配置することです。
部下のやる気を引き出し、リーダーシップを持って適切なコーチングができる上司のもとでは人が育ち、アウトプットを出すことができます。
人事部門には、マネジメント研修や管理職の採用・育成を通して、優秀なマネージャーを輩出することも求められます。社員への教育の機会は、モチベーションアップにも効果的です。
社員への教育とは、費用のかかる外部研修への参加を指示する、英会話習得やMBA取得の費用を会社がサポートするなどを指します。会社が社員に投資することは、社員にとって承認欲求と自己実現欲求が満たされるため、モチベーションアップに効果があります。
マネジメント教育と人材育成は、自己実現欲求と安全欲求を満たす施策
教育制度とは、自己実現欲求と安全欲求を満たす施策です。実際にマネジメントを行っている社員や、マネジメントを行う役職者などになりたいと考えている社員に対しては、自己実現欲求を満たします。
教育制度の導入は、社員が考える「マネジメントを行うならこうあるべき」といった理想や「部下に対してもっと良いマネジメントをしたい」といった意識の実現を助ける施策です。新入社員や一般社員などのマネジメントを受ける側の社員に対しては、間接的に安全欲求を満たす施策となります。
上司による「パワハラ」や「セクハラ」などは、被害者となる部下にとって「安全に仕事をすることを脅かされる存在」となります。上司に悪気がなくとも、部下から見ると第2階層である安全欲求が満たされていないことになるため、対策の緊急度は非常に高くなります。
7.ワークライフバランスの充実
長時間労働や休日出勤が常態化している組織では、社員がモチベーション高く業務に取り組み続けることは困難です。
人事部門としては、現場の管理職と協力して社員の適正な労働時間の管理や、有給休暇の取得促進を行う必要があります。
ワークライフバランスは、生理的欲求と安全欲求を満たす施策
生理的欲求は、最も低次の欲求である「生きるために必要なこと」です。食事や睡眠などが挙げられます。
過度な長時間労働や休日出勤により「生きるために必要な食事や睡眠」が充分にとれない状態であれば、生理的欲求が満たされなくなります。
余談になりますが、日本の労働基準法でも言われる「1日8時間労働」が言われる以前、1800年後半の産業革命期には、労働者階級は「1日14時間~18時間」の労働を行っていました。その結果、有産階級の寿命が35歳程度であったのに対し、労働者階級の平均寿命は15歳程度でした。医療の発展や環境問題など、現代との単純な比較は難しいですが、長時間労働は寿命が半分程度になるほど「生きるために必要なこと」が脅かされている常態と言えます。
「食事や睡眠などの休息」を取れていたとしても「今後の健康を脅かす可能性」や「この先同じ時間で働き続けられそうにない」などの不安が従業員にあれば、安全欲求を満たしていないことになります。
ワークライフバランスを考慮することで「生きるために必要なこと」や「健康的な安全が保障されること」によって、より高次の欲求である「家族との時間を増やす」社会的欲求や「やりたい勉強をする」自己実現欲求などが満たせるようになります。
社員の行動と欲求を理解して、段階ごとの施策が大切!
今回の記事では、社員のモチベーションアップのための具体的な施策を7つ紹介しました。
社員のモチベーションを上げ、低下を防ぐために最も重要なのは「社員がどんな欲求を持っているのか」を理解して、欲求に応じた施策を行うことです。
長時間労働が慢性化し「生理的欲求」すら満たされていない従業員に対しては、評価制度を整えるより先に、業務量や作業内容の見直し・増員などを行うべきです。「明瞭かつ公平に評価します」と言われても、生命の危機と比較すれば評価の正当性などは微々たる問題です。
社員全員が高いモチベーションを保って「なりたい自分になるため」に働く会社を作る方法に、裏道はありません。まずは自社で低次の欲求が満たせているかを見直し、段階ごとに徐々に改善しながら、高次の自己実現欲求が持てるように施策を行うことが大切です。