シュロスバーグのトランジション理論とは?従業員のキャリアを考えるために

VUCAワールド下で考えるトランジション

トランジションとは「転機」「転換点」「移行期」などを意味する言葉です。発達心理学をベースにしたキャリアカウンセリング理論では、人々が人生で遭遇する出来事や直面する課題には、ある年齢段階に応じて共通するものであり、そういった課題を乗り越えていくことで、人は次の段階(ステージ)に移行していくと考えられています。

現在は「VUCAワールド」と呼ばれる、将来の予測が非常に困難な時代になっています。市場のグローバル化やテクノロジーの発達により、ブルーオーシャンだったはずがあっという間にレッドオーシャン化する。或いはRPA/ロボットの登場により、定型業務はオートメーション化されていく。そういった時代にある今、会社の動きが社員のキャリア形成にも大きな影響を与えるようになっています。

EconsultancyとSitecoreの共同調査によると、世界各国1,200人以上のマーケティング担当者を対象としたところ、60%の企業や団体が「市場環境の変化に適合するためのビジネス変革を余儀なくされるほどの大きなプレッシャーを受けている」と回答しています。さらに「そのプレッシャーが3年以内に事業存続を脅かすのではないか」と3分の1の回答者が危惧しているという結果も出ました。

参考URL『ITmedia マーケティング』「ビジネスモデルを変革しないと3年以内に廃業」 3分の1の企業が危惧――Sitecore調査

会社の事業廃止や新規事業の開発など、会社にとっての過渡期が、従業員のキャリアにおいても過渡期となり得るという考えの下、キャリアカウンセリングの理論家、今回はシュロスバーグのトランジションをご紹介します。

シュロスバーグのトランジション理論の内容とは?

シュロスバーグ(Nancy K.Schlossberg)は、1929年生まれのアメリカを代表するキャリアカウンセリングの理論家・実践家です。コロンビア大学で教育博士号を取得し、その後長年に渡り大学でカウンセラー教育に従事してきました。1999年には、アメリカのキャリアデベロップメント開発協会(National Career Development Association)の会長を務め、主要書籍である「Overwhelmed」は日本で『「選職社会」転機を活かせ』として出版しています。

シュロスバーグはトランジションを様々な人生上の出来事として捉え、トランジションへの対処方法として4Sシステムを構築しました。トランジション下にある人は、不安や葛藤といった悩みを抱えやすい時期であり、支援の枠組みとして提唱されたのが4Sシステムです。彼女の主要著書である、原書『Overwhelmed(1989年)』(日本版:「選職社会」転機を活かせー2000年)に詳述されています。

トランジションを提唱した代表的な理論家として、レビンソンやブリッジスなどが挙げられますが、シュロスバーグは他の理論家とは別に独自にトランジションを定義しました。他理論家は、トランジションは年齢や発達段階に応じてトランジションを捉えましたが、シュロスバーグは、トランジションは個別性の高いものと考えました。

「転機や変化は予測できるものでも、人生途上で誰もが共通して遭遇する出来事でもない。人それぞれがその人独自の転機を経験している」という、「人生上の出来事の視点から見たトランジション」が彼女の唱えたトランジションでした。

シュロスバーグの転機と点検の考え方について

このような人生におけるトランジション・転機をシュロスバーグは、3つの種類に分けて考えました。

  • 期待していたことが起きたとき(anticipated transitions)
  • 期待していたことが起こらなかったとき(non-event transitions)
  • 予期していなかった出来事が起きたとき(unanticipated transitions)

これら3つが人のトランジションとなりうる出来事であり、生活状況・人間関係などが別のものに変わるターニングポイントであるとも言えます。トランジションを乗り越えるためにシュロスバーグが唱えたのは、2段階プロセスです。

  1. 4Sについて検討する(4Sについては後述)
  2. 行動に移す

トランジションを支援する4つのSとは?

シュロスバーグは、トランジションに直面すると、自分の役割、人間関係、日常生活、自己概念(考え方)の1つもしくは2つ以上変化するとしています。

彼女はトランジションを乗り越えるために提唱したのが、4Sシステムです。4Sとは、ポイントとなる要素の「Situation (状況)」「Self (自己)」「Support (支援)」「Strategy(戦略)」それぞれの言葉の頭文字をとったものです。

これは人が人生の転機に直面したとき、どのように自らのキャリアを方向付けていくかという点において、非常に実践的な枠組みであると言えます。

このような切り口で直面している転機をチェックし、見定めていくことで、状況を受け止め、最終的に転機を乗り越えていくことができると彼女は考えました。冷静な分析と点検ができるようになると、転機(出来事)そのものに振り回されることなく、問題を巧みに処理して乗り越えていくことができるようになるでしょう。

企業内キャリアコンサルティングの重要性が高まる

シュロスバーグはトランジションに対応する「状況」「自己」「支援」「戦略」の4つのSを提唱し、それぞれに対して現状や今後のために実行すべきことについてを整理できる理論を提唱しました。一般的に就職や転職時に活用されることが多い理論ですが、企業内の組織変更時における従業員のキャリアを考える上でも応用可能な理論です。

既存プロジェクトの終了や新規プロジェクトの立ち上げ時など、自社従業員のトランジションをサポートすることでリテンションを高めることに繋がり、中長期的な定着率向上が期待できるのではないでしょうか。

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