男女別に起こりやすい「ステレオタイプ」とは何か？
就職白書2018によると、企業が採用基準で重視する項目としては「人柄」や「自社／その企業への熱意」が挙げられています。学生がアピールする項目としては「アルバイト経験」や「所属クラブ・サークル」などが挙げられており、企業と学生が重視する項目にはギャップがあります。企業としては、学生がアピールする項目だけでなく、アピールしていない部分からも「人柄」や「自社／その企業への熱意」を読み取り、採用可否の判断を行う必要があります。
しかし、年々入社予定者への質的満足度は低下しています。「非常に満足」「どちらかというと満足」と答えた企業は53.1%と、半数近くの企業が満足のいく面接を行えていない、という結果になりました。
満足のいく面接が行えていない原因は、企業が重視している「人柄」や「自社／その企業への熱意」の評価が難しいことが考えられます。
人柄や熱意といった定性的な項目を評価する上では、ステレオタイプにはめ込まず、求職者一人ひとりの特性や性質を見極める必要があります。例えば「ハキハキと喋って声の大きい人」であれば「人柄」も「熱意」もあると判断してしまいがちです。ハキハキと喋ることも声の大きいこともあくまで態度であるだけで、「人柄が良い」ことや「自社に対して熱意のある」こととは無関係です。
「男性だから論理的に考える」「女性だから感情的だ」などは男女間での典型的なステレオタイプです。男性全員が論理的に考えるわけではありませんし、女性全員が感情的に動くわけではありません。しかしステレオタイプによって思考停止してしまうことで、誤った判断をしてしまう危険性があります。
今回は男女間における代表的なステレオタイプをご紹介します。
ステレオタイプの性別的な特徴とは？
ステレオタイプとは、社会に広く浸透している固定的な概念やイメージ、という意味です。元々は社会学や政治学で主に用いられていた言葉でしたが、今ではビジネスシーンやプライベートの場などでの会話で使用されています。「型通りのイメージ」や「紋切り型の考え」のことを、イコール「ステレオタイプ」と表現することもあります。
日本語で使われている「ステレオタイプ」は、もともとは英語の「stereotype」が定着したものと言われています。古くは、印刷術で使用されていた「ステロ版」が語源で、「ステロ版の印刷物同様に、型抜きして作られたように同じ」という意味から生まれた言葉です。
固定観念や型通りのイメージといった意味でつかわれる「ステレオタイプ」は、すでに完成したもので新鮮味がない、という意味合いでも使われることがあります。過去にどこかで既に使われた考え方で新鮮さが感じられない、といった少しネガティブなニュアンスで「ステレオタイプ」ということもあります。
この言葉を最初に生み出したのは、米国のジャーナリスト、政治評論家であるウォルター・リップマン氏と言われています。20世紀、現代社会の基本的な仕組みが成り立ち始めたとき、メディアはなくてはならない存在となりました。新聞が提供するのは客観的なニュースだけではありません。日々生じる無数の事件や事故の中から、限られた紙面・限られた人員で掲載できるのはごく一部で、否応なく内容の取捨選択をする必要が生まれます。特に新聞は読者に読まれ、広告主に媒体としての価値を認めて投資をしてもらわないと事業として成り立たないため、その記事は受け手のイメージに合致したものとなる傾向があります。
リップマン氏は、取捨選択と記事の生産と消費が物事についてパターン化されたイメージ、すなわちステレオタイプが存在することで成り立つことを見抜きました。もともと活字印刷のための鉛の枠組みを意味したステレオタイプという技術用語を、彼は新たなマスコミュニケーション時代のキーワードとして流用したと言われています。
男女間におけるステレオタイプの具体例について
「理数系は女性より男性の方が得意」、社会には全く根拠のない、しかし社会通念になっている考え方がたくさん残っています。
ある心理学の実験によると、数学や理科の試験の前に、受験者に「自分が女であること」を自己認識させるだけで、女性の成績は悪くなることがありました。これは解答用紙の冒頭に性別の記入欄があるだけでそういったことが起こります。
IT系大手のFacebookの元最高執行責任者（COO）シェリル・サンドバーグ氏の著書『リーン・イン』に、そういったエピソードが紹介されています。思い込みによる固定観念によって、現実すらが左右されるという心理現象を表したものです。
他にもステレオタイプな性別イメージの例は枚挙にいとまがありません。「男性は強く頼りがいがあり、決断力があるのが望ましい」「女性は優しく柔軟で、感情が豊かだ」、こういったステレオタイプが間違っていることは、現代になって少しずつ誰もが認識し始めました。
現実に、強い女性は世の中に大勢いるし、感情的な男性も無数に存在します。
男女間におけるステレオタイプのデメリットについて
政府が力を入れている「女性が活躍する社会」の一つには、企業や官庁などの組織で、管理職や役員に「女性枠」を設けようという考え方があります。
ソニーは2020年までに女性管理職の数を全体の15%にするという自主目標を立てています。これがいわゆる「クオータ制」です。とはいえ日本企業の現実をみれば、現時点では男性の社
員の方が相対的に多く、同じ能力の男女がポストを競い合えば、女性が優先的に登用されることになります。あるいは能力的に多少劣っていても、女性の絶対数が足りないために男性より早く昇進するケースも考えられるでしょう。組織内の男性から見れば「逆差別ではないか」という見方をする人も現れるでしょう。
霞が関の官庁でも同じで、女性を意識的に重要ポストに起用する動きがあり、それを民間の
企業にも浸透させようとしています。目標ありきの動きをしていると、外見を取り繕おうとする企業も出てくるでしょう。実際には、組織の意思決定に関与しない「名ばかり管理職」に女性を登用し、管理職の人数だけそろえようとする例も散見されます。
社外取締役に女性を登用することも同様です。結果的に、知名度が高い特定の女性が、数多くの企業の社外取締役を兼務しているというのが、今の日本の実態です。
あるリサーチですが、効果的な求人の出し方を企業にアドバイスするTextio社のCEOでありかつ言語学者のKieran Snyder氏は、約250件の人事考課を分析した結果、男性より女性の方が性格に関連するマイナスのフィードバックを受けがちなことを発見しました。
男性の場合は、批判的なフィードバックが83件あったうち、性格に関するものは2件しかなかったのに対し、女性の場合は94件中71件もありました。弁護士で行動主義経済学者のPaola Cecchi-Dimeglio氏も、同じような発見をしたとあるレビューに書いています。
ひとりひとりの年次人事考課の中身を分析した結果、女性の方が1.4倍も主観的なフィードバックを受ける確率が高いことがわかりました（この場合の｢主観的｣とは、ポジティブなフィードバックや客観性のある批判的なフィードバックと反対の性質を意味します）。性差だけによるステレオタイプが働くことで、優秀な人材を適材適所に配置できなかったり、教育する機会を失ってしまうことは、結果として組織に大きな打撃を与えます。
「ステレオタイプ」は社会に浸透している考え方であり、無意識に操作されてしまいがちですが、何事も固定観念や思い込みで判断してしまう「ステレオタイプ思考」は意識して避けていくことが重要です。
考え方は時代とともに変わっていくことも無数にあります。既存の考えを鵜呑みするのではな
く、正しい価値観と考え方を持って周りとコミュニケーションすることが重要なのです。
性差による「ステレオタイプ」にとらわれない姿勢を持つ
採用面接を効果的に行えない原因のひとつとして、求職者を間違ったステレオタイプにはめ込んで評価してしまっている可能性があります。ステレオタイプにはまった評価は、不公平な評価や差別につながる危険があるため、客観的な事実に基づいた公平な評価を行うように心がける必要があります。
近年では、女性の活躍推進など男女格差の是正が社会的な課題となっているため、ステレオタイプにとらわれた考え方を解消し、ハラスメント対策や企業イメージの向上に取り組むようにしましょう。