抜擢人事が注目されている背景とは?
人事業務では「現在活躍している従業員が長く活躍できる環境を作る」というミッションがあります。職場の環境づくりとしては、採用マッチングや社内制度の整備などの他にも、社員のメンタルケアやモチベーション管理が重要です。
社員のメンタルケアやモチベーション管理を行う上で重要になるのが、人事采配です。
朝日生命の調査によると、7割以上の労働者が「年功序列」より「実力主義」の会社を求めていると報告されました。仕事の成果や実力を正しく評価してほしいという労働者の意思が強く見られ、従業員のモチベーションを向上させるためには、従業員一人ひとりが能力を発揮しやすい「適材適所」の人事采配をとる必要性があると考えられます。
出典元『朝日生命保険相互会社』「働き方意識調査アンケート」調査結果
リクルートによる「適材適所の実現状況」の調査では、会社・職場・仕事が合っていると考える人は7割超え、上司が合っていると考える人は6割超えと、適材適所はそれなりに実現できている傾向が見られます。
出典元『リクルート』一般社員、管理職492 人に聞く、従業員自身が認識する「適材適所」の実態
適材適所はまずまず実現できている一方で「自分に合った仕事で働く上で、障害になっていることはありますか」という質問に対しては「社内の人事異動は、会社側の要請で決まる」が最も多い回答となっています。
出典元『リクルート』一般社員、管理職492 人に聞く、従業員自身が認識する「適材適所」の実態
人事異動で苦労した経験としては「上司との人間関係」が23.6%と最も高く、次いで「自分の適性と合わない仕事」や「同僚との人間関係」などが多く挙げられています。
出典元『リクルート』一般社員、管理職492 人に聞く、従業員自身が認識する「適材適所」の実態
リクルートの調査結果からは、人事異動を行う際には本人のキャリア志向や職務適性だけでなく、異動先の上司や同僚との人間関係についてのフォローなど、多くの課題があることが読み取れます。
今回の記事では、抜擢人事の導入に成功した企業の事例についてご紹介します。
抜擢人事の導入に成功した企業の事例とは?導入理由や成功のコツについて
サイバーエージェントの抜擢人事成功事例
抜擢人事の導入に成功した企業の代表的な事例となるのが、インターネット事業のリーディングカンパニーであるサイバーエージェントです。サイバーエージェントは1998年3月に設立され、現在ではグループ全体で約5000人の従業員を抱える大企業となっています。
人材の観点からサイバーエージェントの特徴として挙げられるのが、若手社員の多さと離職率の低さです。
サイバーエージェントの社員は、約87%が20代〜30代で構成されています。若い人材が多い企業は人の入れ替わりが激しいケースが多いですが、離職率は9.3%とかなり低い数字が出ており、若くて野心を持った意欲的な人材が働きやすい環境が整備されていることが伺えます。
抜擢人事を導入した理由とは?
サイバーエージェントでは、従来の日本にありがちな「部署ごとに縦割りで人材を配置する」という配属を行わず、社員の成長のために積極的な配置換えが行われています。
サイバーエージェントの人材配置は「人材を全社資産と考える」という発想にもとづいており「既に活躍している社員ほど異動したらもっと伸びるのでは」という提案から抜擢人事が始まりました。
抜擢人事における具体的な施策とは?
サイバーエージェントの抜擢人事で特徴的な施策として「8人の取締役を2年に1度、2人入れ替える」という制度があります。
取締役の入れ替え制度は「人材を変えたいと思ったとき、まず経営トップを変える」という思想で行われており、実際に制度を始めてから営業利益が3年で3倍~4倍に増加するなど、新しいサービスが次々と現れるIT業界における対応の柔軟さにつながっています。
抜擢人事の対象を選ぶ基準とは?
サイバーエージェントの取締役・曽山氏によれば、管理職登用基準は「人間性」だけだといいます。抜擢人事では、抜擢される人材のスキルに目が行きがちですが、本当に大切なのは「周りにどのような影響を与え得るか」という視点です。
抜擢人事の失敗事例としてよくあるのが「抜擢された人材の孤立」です。どれだけスキルが高い人材であっても、経験や協力者がなければ、組織として行うプロジェクトの成功はありえません。逆にいえば、要領が多少悪くとも周囲のサポートを受けられれば、経験の差は埋められるのです。
抜擢人事を成功させるためには、周囲の人間に愛され、互いに良い刺激を与え合えるような人材を見つけることが大切です。
抜擢人事を成功させる秘訣は周囲のフォロー体制にある!
抜擢人事とは、年齢や社歴にかかわらず、若い社員を主要な要職に起用する人事制度を意味する言葉です。
抜擢人事は、社員のモチベーションアップや組織の抜本的な改革につながるなどのメリットがある反面、抜擢された人材が周囲の嫉妬を受けて孤立してしまい、プロジェクトの失敗や職場の人間関係が悪化してしまうリスクがあります。
抜擢人事の導入を成功させるためには、抜擢された人材だけでなく、抜擢されなかった人材へのフォローも大切です。また、評価制度の公平化や明確化などで納得感のある抜擢を行うだけでなく、抜擢された社員が不足している経験やスキルをカバーするために周囲の協力が得られる環境づくりを行いましょう。