コミュニケーション能力を支える「質問力」は育成できるか?
リーマンショック以降、求人倍率は年々上昇を続け、求人市場は売り手市場となっています。それゆえに即戦力となる優秀な人材の獲得難易度は高く、業界・職種未経験の若手人材を入社後に教育するのを想定することも大切です。その際には採用面接での見極めが大切です。では一般的にどのようなことが採用基準として設定されている傾向にあるのでしょうか?
経団連の新卒採用に関するある調査の結果を見てみましょう。「選考時に重視する要素」の上位5項目の推移ですが、16年連続で「コミュニケーション能力」が2位以下に大差をつけて1位となっています。
出典元『一般社団法人 日本経済団体連合会』2018 年度 新卒採用に関するアンケート調査結果
コミュニケーション能力は業務上の専門的能力(テクニカルスキル)とは違い、日常生活でも活用されている普遍性・汎用性の高いスキルです。それゆえに入社後に育成しやすい「専門性」と比較したとき、先天性が比較的強い「コミュニケーション能力」が採用時に重宝される傾向があります。
コミュニケーション能力の恩恵は、多岐に渡ります。顧客や取引先とのやりとり、交渉において、「相手を楽しませる」まではしなくても「不快さを与えない」という折衝スキルはとても大切です。社内でのコミュニケーションでも、些細な意思疎通の不具合でチームの雰囲気が悪化することも珍しくありません。人間関係の潤滑油としてストレスなくやりとりし、人間関係を健全に保つことができれば、働きやすい職場づくりへの貢献が期待できます。職場全体がストレスフリーで働きやすくなれば離職率が低下し、生産性も向上します。
では「コミュニケーション能力」とは、いったいどのようなスキルなのでしょうか?「コミュニケーション能力」という言葉は漠然とした雰囲気で使われがちな抽象的な概念であることに注意しましょう。特に採用面接の評価項目・評価基準とする場合、評価者全員でこの概念を共有しておく必要があります。
「コミュニケーション能力」という抽象概念を構成する具体的要素を取り出し、細分化してみましょう。コミュニケーション能力を構成するのは「話す」「聞く」「表情」「身振り手振り」などのスキルです。
今回は、コミュニケーション能力を構成する要素のひとつである「質問力」に着目し、どうすればそれを育成できるかを解説します。
質問力がもたらすメリットを理解しよう
質問力とは、そのまま字のごとく「質問する力(能力・スキル)」のことです。この技術があれば、自分の疑問や違和感を上手に他の人に聞くことができ、自己成長のスピードを速めることができます。
質問力の高さは、問題解決能力の高さにもつながります。
得意不得意はあれど、究極的な意味で「なんでも知っている人間」は存在しません。質問とは、わからないものと出会ったときの対処方法のひとつです。わからないことを受け入れ、それを他者の協力を得て乗り越える力のひとつとして「質問力」があるとも考えられます。問題解決において「積極的に質問ができる」「的確な質問ができる」というのは大きな武器です。
質問力の高さが問題解決能力の高さにつながるならば、質問力が高いと「目標達成しやすくなる」というメリットももれなくついてきます。目標達成は、目の前にある大なり小なりの課題をこなした先にあるものです。ひとつの大きな目標に対して付随する課題を自分で発見し、それらに対する解決策をひとつずつ見つけていかなくてはなりません。
他者の協力を得るため欠かせないのが「良い質問」です。物事を客観的かつ冷静に捉え、分析的に思考することによって問題を具体的に、そして端的に捉えられます。その視点から生まれるのが「良い質問」です。
「良い質問」ができる人、つまり質問力が高い人は、物事や状況の分析能力に優れ、そこで発見した問題点を他者と共有するのが上手です。他者からの協力を得られやすく、目標達成しやすくなるのです。
質問力を高める研修とは?
質問力をはじめとするコミュニケーション能力は研修により高めることができます。重要なのは会話は「技術である」という認識を持つことです。基礎をおさえた上で、日常的な意識のもと練習を繰り返すことで習得することができます。
従業員の質問力を向上させるために、コミュニケーション研修を導入するのは効果的です。質問力が低い人材の特徴として挙げられるのが「質問をできない」「相手との信頼関係を構築できない」「質問すること自体が目的になってしまっている」などです。まずは、こうしたところを改善していくことから始めてみましょう。
まず改善すべきは「質問するのは恥ずかしい」という感情を捨てることです。質問すると「そんなことも知らないのか」と他人に思われたり、自分が無能に思われてしまうのではないかという恐怖を感じる人も少なくありません。
しかし業務を進める上で一番恐ろしいのは、知らないことを知らないままにしてしまうことです。いわゆる「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」にあたります。
質問をされた人は「自分が信頼されている」という承認も得られるため、わからないことを思い切って聞いてみると、良いコミュニケーションが生まれることも少なくありません。質問することによって、閉ざされていたコミュニケーションが開かれることもあります。
コミュニケーション能力や質問力に対する研修の導入として、まずは二人一組になって日常のどんな些細なことでもいいのでたくさん質問し「質問する=恥」という概念の払拭を目指しましょう。
マネジメントにおける質問力の重要性について
質問力が重要なのは部下だけではありません。組織を統率し、部下をフォロー・教育する立場にある管理職や経営層にも重要なスキルです。
上司と部下の関係性で一番注意したいのは「会話を始める前から上下関係が存在している」ことです。友人同士や同僚同士などフラットな関係性ではないために、ちょっとした質問の聞き方1つで威圧的な印象を与えてしまう恐れがあります。
部下の育成で「抑圧」は禁物です。「詰問」や「追求」と解釈できる質問をしてしまうと、自由な発想の芽が摘まれるだけでなく、業務上の大きなストレスにもなってしまいます。そうなると職場の人間関係が悪化し、生産性の低下が危惧されます。
管理職や経営層など組織のトップに立つ人材の質問力を向上させるために有効なのがコーチング研修です。コーチングは、部下に対して「期待する回答に誘導する」のではなく、部下が自発的な決断を行うように導く技術です。実現するためには、部下の声をしっかりと受け止め、悩みに対して的確な質問を行うスキルが必要です。
このときに役に立つ質問の方法があります。
1つは「未来質問」です。結果の振り返り面談などの場では、上司は部下が評価期間内に残してきた実績、つまり「過去」についての分析や原因の追求を求めてしまうことが少なくありません。良い結果を残せなかった部下は暗い気分になってしまいます。
そうした部下に対しての効果的なフォローとして「これからどうしたいか?」というように未来に視線を向けた質問をすると、ポジティブな方向に話を進めることができます。ポジティブな質問・会話は、結果が芳しくなかった部下のモチベーションの刺激にもなります。
もう1つ役に立つ質問スキルが「肯定質問」です。未来質問と同様に、ネガティブな話題を掘り下げるのではなく、ネガティブな結果を踏まえてポジティブな会話を行うことができる技術です。
「なぜうまくいかないのか?」ではなく「どうしたらうまくいくのか?」を部下に自分で考えてもらうことで、自分がどうなりたいか、どうすべきかを前向きに考えてもらう機会を与えることができます。その際、沈黙を恐れないことがポイントです。じっくりと考える時間を与え、部下の悩みに寄り添う姿勢を作り、じっくりと部下の言葉に耳を傾けましょう。
質問力は適切な研修や意識改革で飛躍的に向上する!
質問力とは不明点や疑問点、興味に思う事柄について相手に尋ねるコミュニケーション能力のひとつです。質問力は営業職のような社外の人と関わる業務や部下が上司に業務上のアドバイスを求める時に必要になるだけでなく、部下のマネジメントを行う上でストレスを与えたりモチベーションを低下させたりしないためにも重要です。
質問力をはじめとするコミュニケーション能力は、あくまでも「技術」ですので、適切なトレーニングを積むことで育成が可能です。質問力が低い人材にはまず「質問すること」のポジティブな効果を知ってもらうことが大切です。意識改革として、コミュニケーション研修を行うのが効果的です。
管理職や経営層など組織のトップに立つ人材にも質問力は重要です。その際、部下の自発性を損なわないように、質問の方法には注意が必要です。未来質問や肯定質問を使うことで、結果が芳しくなかった部下にも前向きに物事を考えてもらう機会を与えることができます。採用選考や管理職への抜擢を行う際には対象者の質問力を見極めて、必要に応じて研修を行いましょう。