社員の「やる気」を生み出す目標管理法「OKR」
求人市場の競争激化に伴い、かつて以上に人材活用が大きな人事課題となりました。これは有能な人材の確保だけではありません。ある能力については未熟なところがある一方、特定の分野に関しては非常に長けているといった人材を起用するなど、適材適所の人事制度を実現することが現代の人事戦略では欠かせません。
人事制度のブラッシュアップは、適材適所による生産性の向上だけではありません。評価項目を細分化・具体化し、人材起用の多様性を創出することは、従業員のモチベーションアップにもつながります。モチベーションと生産性の関わりは深く、いわば生産性の向上は従業員のモチベーション管理にかかっているといっても過言ではありません。
ここで「モチベーションと生産性」についての調査に目を向けてみましょう。ベイン・アンド・カンパニーとプレジデント社による合同調査では、「やる気溢れる社員の生産性は、やる気のない社員の2倍」という結果が報告されました。また「いま働いている会社への満足度」を調査したところ、グローバル企業に比べ日本企業は圧倒的に「不満」が多いという結果になり、特に優良企業以外を除けば「3人に1人が不満」を持っていることが明らかになりました。
出典元『PRESIDENT Online』”3人に1人”の不満社員を奮起させるには
ダイヤモンドオンラインによる調査では「今働いている会社はやる気が出ない」と答えた人が6割超と、前述の調査よりもさらに多い結果となりました。やる気が出ない理由としては「評価が不公平」「人間関係が悪い」「ビジョンが見えない」が挙げられています。
参考URL『DIAMOND online』なぜ「やる気」が出ないのか?会社が知る由もない社員のホンネ大調査
こうした背景を踏まえると、会社のビジョンを明確化・共有するための手法が人事制度の整備には不可欠だとわかります。
今回は、Facebookが採用しているOKRという方法について、どのように目標を設定し運用するかの具体例を紹介します。
OKRとはどんな目標管理方法?
OKRとは「Objectives and Key Results」の略である目標管理方法のことです。
OKRではObjectives(達成目標)とKey Results(主要な成果)を設定することから始めます。まず最初に上がるのが抽象度の高い「Objectives」です。「Key Results」とは、達成目標のために必要な具体的な成果であり、いわば概念を具体的な物事に噛み砕いたものです。このように「達成目標→主要な成果→そのために組織がすべきこと→そのために個人がすべきこと→……」というように、大きくて抽象的な目標を段階ごとに小さくて具体的なものに噛み砕いていくことで、組織の構成員がそれぞれにすべきことが明らかになります。
組織の目標に沿いながらシステマティックに個人の行動目標を決定できるのがOKRの利点であり、GoogleやFacebookでも導入されている注目の手法です。
OKRをどう運用していくか?
OKRは組織の目標からトップダウンで下部組織や構成員の目標を設定・管理するシステムです。
目標管理システムを運用する際に重要なのは「目標設定」と「フィードバック」です。従業員は組織の目標に合わせた目標を複数持ちますが、中には達成が簡単そうなものから難しいものもあります。「目標設定」の際はそれぞれの目標に対して「自信度」を設定してみましょう。
「自信度」は目標に対して達成できそうな度合いを5段階や10段階で数値化する主観評価です。自信度の平均値を見ると目標設定の適切さを後で見直すこともできます。「フィードバック」で重要になるのはスコアリングです。このとき、主要な成果(KR)を目標達成率などの数値化を行って評価します。
自信度と目標達成率の相関を見ることで、従業員自身が自分のスキルを客観的に正しく把握できるようになります。大事なのは、自信度と目標達成率のフィードバック、そして欠点を次回以降に改善していくことです。OKRは長期的な視野で運用することにより、組織の人材力を底上げすることができる目標管理方法です。
OKRの目標設定で注意すべき2つのこと
OKRの目標設定とは、達成すべき「Key Results」を決めることです。抽象目標であるObjectivesの1つを細分化・具体化することで「Key Results」が自ずと決まってくるでしょう。その際に注意すべきことは以下の3つです。
- 目標は3~5個程度にとどめ、増やしすぎないようにする
- 達成可能なものを設定する
- 現状維持ではなく、現在より一段でも高い目標を設定する
目標は設定する以上、達成できなくてはなりません。Objectivesの細分化の際に出てきた目標のうち、特に達成できなければならないものを選別しましょう。優先順位をつけると、目標もより明確化します。
達成後に成長できている、また達成に向けた取り組みが成長につながることも大切です。現状よりちょっと背伸びをすればギリギリ達成できそうなことを目標にすると一番効果が期待できます。
OKRの目標・評価の運用例について
OKRは「目標設定→評価→フィードバック→目標設定→……」というサイクルで人材・組織の成長を中長期的に促進する目的を持っています。目標設定を具体的にどう運用していくかの例を営業職社員を例に見てみましょう。
例えば四半期の売り上げ目標を、前年の同期間の110%を目標と設定したとします。社員A個人の目標としたとき、その達成に向けた小さな目標も見つかります。「1日に電話接触を○件」「月に×件の商談アポイントをとる」など、定量化可能な目標設定だと望ましいです。「前年より売り上げ10%アップ」という目標に伴い、具体的にどんな数字をどれだけアップさせるか、行動レベルですべきことを明確化することが大切です。
評価期間が終わったあと、その目標の達成率を数値で評価するようにするのが運用のコツです。目標はもちろん達成しているのがベストですが「ちょっと無理して達成できるかギリギリ」あたりの目標設定が社員の成長を狙うとちょうど良いですので、達成できていなくても肯定的に承認できるポイントを見つけるようにしましょう。実際に、GoogleでもOKRの目標達成率は60~70%程度です。
OKRは実績を評価するツールではなく、あくまでも個人と組織の成長を促し、生産性を向上させるための目標管理方法なのです。
OKRを利用した目標管理で組織を活性化させよう
OKRとは「Objectives and Key Results」の略で、組織と構成員の目標を一致させながらマネジメントする目標管理方法です。システマティックで汎用性が高いため、GoogleやFacebookをはじめとした大企業が導入している目標設定・管理ツールとしても近年注目を集めています。
注意しなければならないのは目標設定方法です。OKRを導入する際は、不適切な目標を設定してしまうと組織の混乱を招くため、目標や成果指標を明確に定める必要があります。OKRの目標や成果指標を設定する際は、自社のビジョンだけでなく現場の実状も大切です。組織全体のモチベーションアップにつながるような適度な難易度の目標を設定しましょう。