長時間労働が引き起こす問題とは
長時間労働は、短期的であれば休日等を使って集中的に休養を取れば回復が可能なものの、長期にあたって満足な休みが取れない状況が慢性化することでうつ病や過労死につながるだけでなく、家族や友人と過ごす時間を奪い、人間関係がうまくいかなくなる要因になるなど、労働者一人ひとりに深刻な悪影響を及ぼします。
長時間労働は日本人の生産性を低下させているとの指摘があるように、政府も対策に乗り出しています。働き改革法案には、これまで青天井と言われていた時間外労働に制限を設けるなど、実効性のある政策によって長時間労働問題を解決に導き、女性の社会進出を加速させるとともに出生率の上昇につなげようとしています。
長時間労働は企業にも問題を引き起こす
長時間労働が問題になるのは個人の健康や社会だけではありません。長時間労働は企業にも深刻な影響を及ぼしています。
個人の生産性や労働意欲を下げ業績を落とすだけではなく、働き方の多様性を落とすことで採用できる人材を制限したり、会社の評判を下げ求職者の減少や商品の信用にも影響する可能性があります。
企業にとってマイナスの多い長時間労働の抑制に乗り出している企業は少なくありません。しかし、厚生労働省の調査によると何らかの対策を行った、あるいは行っていると答えている企業のうちたった5割しか効果を上げていないなど、効果的な対策につなげることのできた企業は少数です。
今回は、実際に効果を上げている企業の対策法を事例で見ていきます。
長時間労働を改善した企業の取組内容や効果
NTT東日本の事例
NTT東日本では、生産性の高いワークスタイルの確立およびワークライスバランスの実現を掲げています。在宅勤務の積極的な活用・移動時間や費用削減のためのWeb会議の導入、夜型シフトから朝方シフトへの切り替え(20時以降の残業の原則的禁止、朝6時からの朝方時間外労働の奨励)などを行いました。
時間外労働が13%、月時間外労働が45時間以上の社員が34%減少するなど大きな成果を上げました。朝方労働の奨励は伊藤忠商事などでも行われており、仕事と家庭の両立や健康的な生活につながったなど肯定的な評価が多く上がっています。
在宅勤務などのフレキシブルな労働環境は、会社に居残ることがいいことであるという雰囲気を変え、成果を出していれば働き方は自由であるといった環境づくりへの意識転換の役割をも果たしています。
SCSK株式会社の事例
SCSK株式会社はシステム開発を中心とする、社員12,000人ほどの会社です。
SCSK株式会社では、残業時間2割削減、有給休暇完全取得に成功した社員には、残業代として支給するはずだったお金をインセンティブとして支給する制度を取り入れました。
月平均残業時間数は半減し、平均有給取得日数は13日から20日に大幅に改善されました。
株式会社クラシコムの事例
北欧インテリア・雑貨を扱う株式会社クラシコムでは、18時退社の徹底を企業当時から掲げています。制作請負やイベント出店など、相手の都合に合わせる必要のある仕事を断ることで時間外労働を月20時間に保っています。
時間外労働をする理由に仕事量の多さを挙げている労働者が多い中で、このように、必要以上の仕事や社員に無理を強いるような仕事を断ることは非常に効果的な対策の一つになります。
株式会社ピコナの事例
過酷な労働環境で知られるアニメ業界である株式会社ピコナでは、残業チケットを導入し、使用可能回数を月7枚までと残業可能回数を制限しました。時間外労働をそれまでの80%も削減した実績を持っています。
残業を許可制・申請制とし、管理職が厳しく管理することで、残業自体のハードルを上げ、必要のある残業以外のものは従業員個人の工夫によって時間内に終わらせる環境を作ることができます。
自社で長時間労働が発生している原因を究明しよう
多くの企業が長時間労働の対策を行っており、実際に効果を挙げた企業も多く存在しています。
自社で取り組みを行う場合には、何故取り組みを行うのかの目的を明確にし、長時間労働が発生するどの原因を解消したいのか、施策効果を振り返り改善するために、どのような目標を設けるのかなどを明確にすることが大切になるでしょう。