ジョブローテーションで組織作りを行う
多くの企業で導入されている「ジョブローテーション」。社員の能力開発を目的として行われるもので、人材育成計画に基づいて、定期的に職場の異動や職務の変更を行います。日本ではよくある人材研修の一つで、職場異動は短くて半年、長くて数年など、期間は企業によってさまざまです。
労働政策研究・研修機構の調査によると、定期的なジョブローテーションがある企業は53.1%と過半数の企業にジョブローテーション制度が存在し、従業員規模が大きくなればなるほど、ジョブローテーション制度を導入していることがわかります。
出典元『独立行政法人 労働政策研究・研修機構』企業の転勤の実態に関する調査
ジョブローテーションがある企業の人事異動は、約3年ごとが一番多く36.5%、次に5年ごとが18.1%と、中期的な異動が発生している現状です。
出典元『独立行政法人 労働政策研究・研修機構』企業の転勤の実態に関する調査
ジョブローテーションはスキルを身につけるだけでなく、社内ネットワーク形成など様々なメリットがあることを説明しながら、ジョブローテーションが成功する企業と失敗する企業が存在します。
今回はジョブローテーションを導入している企業事例について説明します。
ジョブローテーションを活用している企業事例
ヤマト運輸株式会社でのジョブローテーション活用事例
ヤマト運輸株式会社は、宅急便などの物流業を行う企業です。従業員規模は171,898名(2018年3月15日現在)と、非常に大規模な一方で、多くの地方拠点が存在するだけでなく、配送や営業などの様々な業務があります。
ジョブローテーションを導入した目的や課題について
会社全体の業務の流れを把握し理解してもらうことがメインの目的です。
配送事業の現場を実体験することで、自分自身の行っている業務が組織全体の業務の中でどういった位置付けにある業務なのかを一人ひとりが理解することができるとし考えています。
ジョブローテーションの運用内容
新入社員を対象としてジョブローテーションを実行しました。新入社員は入社してから2年間、配送物の集配や配送サポート、営業といったいわゆる現場での実務を経験します。
実務経験を積んだ後は、本配属となった部署で就労します。ジョブローテーションの進捗状況や今後のキャリアプランについて、本人と会社が一緒に考えるための機会も設けています。
入社前の内定者研修、1年次追指導研修、2年次追指導研修など、計3回の集合研修を実施し、人事部が直接一人ひとりと面談し、成長を継続的に見守る体制にしています。
ジョブローテーションによって得られた効果
ジョブローテーションによって、若手社員のモチベーションを自然に引き出し、キャリアの土台を固めさせることに意義があるとし、人材の育成に成功しました。新人時代に、同じチームの先輩社員からの励ましやカスタマーとのコミュニケーションを通して、「ヤマトは我なり」という社訓を、身をもって学ぶことができています。
ジョブローテーション制度を通じて、厳しいけれども楽しい「現場の感動」を体験できる意味で、ジョブローテーションの意義を感じています。
富士フイルムホールディングス株式会社でのジョブローテーション活用事例
富士フイルムホールディングス株式会社は、カメラや医薬品などの開発、製造を行うメーカーです。従業員規模は77,739名(2018年3月31日現在)となっています。
ジョブローテーションを導入した目的や課題について
若年層の育成、組織活性化を目的としてジョブローテーションを導入しました。
メーカーでは、研究開発や営業だけでなく、品質管理やマーケティングなどの様々な業務があります。
ジョブローテーションの運用内容
新入社員にはスペシャリストの養成を目的とした3年間の研修制度を準備しました。
期間中は「自発性」を磨くことを第一として、ビジネスマナーをはじめ各業務内容が求める知識やスキルの習得、特定分野の技術や知識を追求する姿勢など、従業員として必要なことを学んでいます。
ジョブローテーションによって得られた効果
研修を終えた社員は、どの部署に配属されても、自分のやるべき業務に真摯に取り組む姿勢が自然と身についています。業務の実践を通して「対応力」が強化されました。
より難度の高い仕事を進めるためには「対応力・応用力」が求められますが、ジョブローテーション制度により、さまざまな仕事を経験することで、課題形成力・業務遂行力・関係構築力を身につけることも可能になりました。
『富士フイルム』というステージでどういった課題/仕事に取り組みたいか、どういった自己成長を目指して、知識や技術、スキルを身に付けていくかを考える「キャリアデザイン」を年1回実施しています。
職場でのOJTと、教育研修プログラムやローテーションとの連動を強化することで、自己成長への取り組み/自立型人材の育成強化なども実現しています。
双日株式会社でのジョブローテーション活用事例
双日株式会社は、自動車やプラント、航空、医療インフラ、エネルギー、金属資源、化学品、食料、農林資源、消費財、工業団地などの各分野の総合商社です。従業員規模は、単体で2,441名、連結で18,813名(2018年12月31日現在)となっていあmす。
ジョブローテーションを導入した目的や課題について
新卒入社から10年間という期間を設定した従業員の育成プログラムを導入しました。この期間にジョブローテーションを組み込み、従業員にさまざまな部署で業務を経験してもらうことを目的としています。
ジョブローテーションの運用内容
2008年から「社内公募制度」も採用し、従業員が自らキャリアを選択できる環境整備にも取りくんでいます。「10年という期間設定は長い」という意見もある中、組織の活性化や人材育成を長期的な視点を重視し、じっくりと腰を据えて人材育成に取り組んでいるともいえます。
2011年3月期は、ジョブローテーションの一環として社員の職務経験などをデータベース化を実現しました。上司との対話やレビューに活用する『キャリア・ナビゲーションシステム』を導入し、より具体的かつ客観的な指標での人材配置を実現しています。
ジョブローテーションによって得られた効果
部署の業務内容の特性により、異動のチャンスや海外拠点、事業会社への展開が少ない、特定人材に依存しているなどの事情でジョブローテーション制度の恩恵にあずかれなかった社員にも、異なる職務経験を経験してもらう機会の創出を実現できました。
優秀な人材ほど所属部署のマネージャーが該当の人材は手放さないなどの負の連鎖・リスクを、ジョブ・ローテーション制度で解消できたことも有効だったと考えています。
三井ホーム株式会社でのジョブローテーション活用事例
三井ホーム株式会社は、建設資材・住宅設備機器などの輸出入・製造加工ならびに販売、 建設工事の設計・施工監理・請負などを行うハウスメーカーです。従業員規模は
2,120名(2018年4月1日現在)となっています。
ジョブローテーションを導入した目的や課題について
グループ会社を持つこのような大企業では、業務の幅が非常に広く、本来なら経験できない職種にも携われるメリットがあります。メリットを最大限に活用するため、将来のキャリアのために、あらゆる職種・現場で学びを得ることができる環境を整えることを目的としてジョブローテーションを実施しました。
ジョブローテーションの運用内容
総合職は基本的に「ジョブローテーション制度」を採用しています。
複数の職種経験によって、社員個々の適性や能力開発を促進し、得意分野を明らかにするなどして、チーム作りにも活用しています。
ジョブローテーションによって得られた効果
ジョブローテーション経験後の社員の多くは「工事担当から営業、その後設計担当になる」という、異なる職種を経験するようなキャリアでしたが「設計士を目指すからこそ、営業の経験が業務に活きる」という前向きな声が現場の多くから上がっています。
さまざまな業務を横断的に経験したからこそ見えてくる仕事の領域がある、というのがジョブローテーションの大きなメリットだと考えています。
ジョブローテーションが、組織でどういう形で必要なのかを考える
ジョブローテーションで成果を上げている企業は、人材育成などの目的を明確化しているだけでなく、何故この配属先なのか、どのようなスキルや知識を身に付けてほしいのかの根拠や目標を明確にした上で運用しています。
自社の従業員がどのようなスキルを持っているのか、どのようなキャリアプランを描いているのかについての理解を深めることで、効果的なジョブローテーションを運用するために必要不可欠なのです。