少子高齢化が招く人手不足が深刻化している
少子高齢化が進む日本では、1995年をピークに生産年齢人口、すなわち労働力となるような年齢の人口が減少し続けています。
日本には現在400万社以上の企業が存在しており、労働力不足による人材採用の難易度はますます高まっています。人手不足があらゆる業種・業態で大きな課題になっているのです。
日本の少子高齢化は、今後さらに進むと予想されています。企業の人手不足を解消するためには、女性やシニア、外国人労働者など、多様な人材の活用が必要になります。
日本で就労する外国人労働者は増えています。内閣府の「『外国人雇用状況』の届出状況表一覧((平成28年10月末)」の報告によれば、国内の外国人労働者は2012年以降、加速度的に増えており、2017年には約128万人(2016年比18%増)となっています。
企業の間では「優秀な外国人留学生を採用すること」が注目を集めています。ダイバーシティ推進の一環として、外国人留学生の採用を検討している企業も少なくありません。
今回は、近年注目されている留学生採用について説明します。
留学生採用とは?どのような現状なのか
株式会社ディスコの「外国人留学生/高度外国人材の採用に関する企業調査」によると、2018年度に外国人留学生を採用した企業は34.1%でした。2019年度では53.1%が外国人留学生の採用を見込んでおり、大幅に増加しているのが見て取れます。
出典元『株式会社ディスコ』外国人留学生/高度外国人材の採用に関する企業調査
従業員規模別のデータでみると、従業員規模が大きいほど外国人留学生を採用している企業比率が高くなります。また製造業よりも非製造業のほうが外国人留学生を採用している企業比率が高くなります。
外国人留学生を採用する目的について
株式会社ディスコの「外国人留学生/高度外国人材の採用に関する企業調査」によると、外国人留学生を採用する目的は、文系・理系ともに「優秀な人材を確保するため」が最も多く、文系で72.6%、理系で82.1%でした。
出典元『株式会社ディスコ』外国人留学生/高度外国人材の採用に関する企業調査
文系は「語学力が必要な業務を行うため」「海外の取引先に関する業務を行うため」など、外国人留学生ならではの項目が続く一方で、理系は「日本国内の新卒採用だけでは充足できない数的補完のため」が続いています。
優秀であるのはもちろんのこと、外国人である強みを活かしつつ、日本語でのコミュニケーション力を発揮できる人材を求めていることが読み取れます。
留学生採用のメリットについて
優秀な人材を確保できる
少子高齢化が進む日本で、企業が優秀な人材を確保することはますます困難になると考えられます。そのため、優秀で高度な知識を有する外国人留学生を採用することは、企業の人材不足解消につながるだけでなく、即戦力として期待できます。
留学生が入社した後「優秀な戦力として期待通りの成果を挙げている」と答える企業は少なくなく、ダイバーシティ推進の観点からも外国人留学生の採用は増えていくと考えられます。
社内の活性化を期待できる
外国から日本に留学生として来日して日本企業に就職する人は、仕事への取り組み方が積極的と言われています。意識が高く、モチベーションが高い人が多いということでしょう。
キャリアアップのための就職も珍しくなく、成長意欲が非常に高いのも特徴です。外国人留学生が、能力をレベルアップさせるために常に前向きに取り組む姿勢を見せてくれるため、既存の社員にも良い刺激となり、社内の活性化を期待できます。
様々なバックグラウンドを持った外国人と一緒に仕事をすることで、日本人社員の視野を広げる可能性があります。
海外進出時の戦力となる
海外展開を考えている企業にとって、外国人留学生はとても重要な人材です。
実際にその国で生まれて育った留学生であれば、リアルな情報を得ることができます。結果、日本企業と海外消費者の間に生じるズレの解消を期待することができます。
海外のトレンドに詳しい、国民性などに精通しているなど、それぞれの留学生の特徴を使い分けることで現地との橋渡し役として十分な戦力となることでしょう。
イノベーションの創出を期待できる
異文化の人材を採用することで、新しい視点でのアイデアを取り入れることができます。新サービスや新商品の開発などへの貢献が期待できます。
日本での当たり前は、留学生にとって当たり前でないことは、よくあることでしょう。両方の社員が働きやすい環境や組織のルールを考え直すことで、グローバル視点での組織運営となり、組織全体をさらに活性化させるかもしれません。
留学生採用のデメリットや注意点について
言語面の問題
外資や海外進出している企業でない場合、コミュニケーションの主流は日本語であることが多いのが現状です。
株式会社ディスコ「外国人留学生/高度外国人材の採用に関する企業調査」によると、外国人留学生に求める資質について、文系・理系とも「日本語力」が1位、「コミュニケーション能力」が2位でした。企業は外国人留学生に対してあらゆる状況に対応した日本語での高いコミュニケーション力を求めていることがわかります。
出典元『株式会社ディスコ』外国人留学生/高度外国人材の採用に関する企業調査
外国人留学生は、実際に日本で生活しているため、日本語のコミュニケーションは問題がない場合がほとんどでしょう。しかし会話ができても読み書きが苦手、ビジネス用語が理解できないことも起こり得ます。
筆記試験や日本語能力試験などを活用し、あらかじめ日本語能力を確認しておくことが必要となるでしょう。
価値観や考え方が異なる
育った国が違えば、価値観は違ってきます。価値観が違えば、コミュニケーションの取り方や、働き方なども違ってきます。
価値観の違いを理解しないまま日本的な働き方を押し付けることは、モチベーションの低下や離職につながりかねません。採用した留学生の母国の文化や価値観を尊重し、働き方に多様性をもたせることが重要です。そのためにも、どのような目的で外国人を採用するのか明確にし、日本人社員の理解を得ておくなど、社内の受け入れ体制を整えることが必要です。
留学生を採用する場合、日本語の研修だけではなく、マナー研修や上司部下の定期的な面談は必要不可欠です。同じように、社員同士しっかりとコミュニケーションを取ることで価値観の共有をはかり、お互いを理解することがトラブル回避につながります。
相互理解を怠らず、なにか問題があればその都度改善をしていくことが必要となるでしょう。
ビザの更新、在留資格
留学生が日本の企業に就職する場合、それまでの学生ビザから就労ビザに変更する手続きが必要になります。採用日までに留学ビザから就労ビザへ変更し、許可を得ていることを在留カードで確認できなければなりません。万一、許可を得ないまま働かせていた場合、不法就労助長罪として企業も処罰される恐れがあります。
就労ビザは認められている範囲のみでの就労が可能となるため、採用後に配属先や業務内容の変更などがあれば、就労可能かどうかを都度確認し、必要であればビザを変更しなければなりません。
就労ビザには有効期限があります。更新時期についてもしっかりと把握しておくことは、トラブル回避に役立ちます。
企業担当者は出入国管理及び難民認定法(入管法)をある程度理解しておくことをおすすめします。
留学生採用には、十分な受け入れ態勢を!
現代の日本では、少子高齢化による生産年齢人口の減少から、人手不足が深刻な問題となっています。人手不足解消のため、多様な人材の活用は急務といえるでしょう。
留学生の採用は、優秀な人材の確保やイノベーション創出などのメリットがある反面、文化や価値観の違いによるトラブルや職場の人間関係の悪化を生む危険もあります。
留学生を採用する際には、在留許可の確認や就労ビザへの変更といった法的な手続きだけでなく、言語の壁や価値観の違いによるミスマッチの防止にも気を配りましょう。