新規事業創出には何が必要か?
インターネットが一般化して以降、情報の量や速度が飛躍的に向上し、その影響でビジネスモデル自体も変革を余儀なくされてきました。その結果、何をビジネスにするか、どのように働くかについて、現在の会社経営では重要な課題となっています。
日本能率協会はそうした時代を背景とし、現在日本企業が当面している経営課題のトレンド調査を行いました。アンケート調査では、現在においては「収益性向上」や「売り上げ・シェアの拡大」が1位と3位、2位に「人材の強化」が挙げられています。そして3年後の課題では「人材の強化」と「新製品・新サービス・新規事業の開発」、5年後では「事業基盤の強化・再編、事業ポートフォリオの再構築」「新製品・新サービス・新事業の開発」が課題として上位に挙げられています。
出典元『一般社団法人 日本能率協会』日本企業の経営課題2018
この結果からわかることは、常に早急に取り組まなければならない課題として収益やシェアがあり、中長期的な課題として人材マネジメントや新規事業の開発が位置付けられているということです。これからのビジネスを展開する上では、後者の中長期的な課題に対する取り組みをいかに前倒しできるかが鍵となります。
そこで、次は現在の課題の過去3年の推移を見てみましょう。
出典元『一般社団法人 日本能率協会』日本企業の経営課題2018
このグラフを見ると、「新製品・新サービス・新規事業の開発」と「働きがい・従業員満足度・エンゲージメントの向上」が上昇傾向にあることがわかります。中長期的な課題の中でも、特に新規事業と人材マネジメントの重要度は、ここ3年で日本企業の中で高くなっていることがうかがえます。
リクルートマネジメントソリューションズは新規事業創造の障害について調査を実施しています。注目すべきは、アイディアを生み出す従業員側には「社員の関心・力量の不足」が、新規事業を推進する組織側には「経営の力量不足」が課題として挙げられており、特に非製造業において顕著に現れています。
出典元『リクルートマネジメントソリューションズ』新規事業創造に関する人事の実態調査
この記事では、新規事業開発に向く人材が兼ね備えている特徴であるアントレプレナーシップについて説明します。
アントレプレナーシップの意味や定義とは
アントレプレナーシップとは一言でいうならば「企業家精神」です。精神の核となるのは独立心や目標達成のための高いモチベーション、そして独創的な発想となっています。
3つの精神を発揮し、新規事業や新サービスを創造する力のことを「アントレプレナーシップ」と呼び、会社を牽引する立場の人間に求められるスキルのひとつとされています。
「起業家精神」と「企業家精神」は何が違うのか?
アントレプレナーシップを理解するために重要なのは、「起業家精神」と「企業家精神」の違いを把握することです。
「起業家精神」とは、ベンチャー企業やスタートアップ企業など、組織を立ち上げる精神のことです。アメリカやヨーロッパのビジネススクールでは起業家精神でのアントレプレナーシップが広く共有されており、起業家精神にもとづいてハーバード・ビジネス・スクールのハワード・スティーブンソン教授は「コントロールできる経営資源を超越して、機会を追求する姿勢」としてアントレプレナーシップを定義しています。
「企業家精神」はより広義なアントレプレナーシップという理解が可能です。これは「起業家精神」を含みながら、さらに企業を運営する計画を立て、長期的に運営していくための戦略精神も射程としているのです。
なぜアントレプレナーシップが求められているのか?
日本でアントレプレナーシップの必要性が高まっているのは、既存のビジネスモデルに変革が求められているという背景が大きく関係しています。将来を見据えた会社経営を行うには「新規事業の創出」と「人材マネジメントの最適化」を各企業が重要な課題としているという形で現れています。
新規事業創出が必要な理由のひとつに、ビジネス課題の高度化・複雑化が挙げられます。情報量の増大、伝達速度の飛躍により、経済はたちまちグローバル化が前提となるような拡大をみせました。その結果、技術進化の速度も高まり、製品のライフサイクルも短期化したため、常に「新しい何か」が求められるようになったのです。
そうした市場で戦うとなると、適材適所を阻害する年功序列制による評価制度や終身雇用といった日本の従来的な雇用システムでは太刀打ちできません。時事刻々と進化を続ける市場において、スピーディーかつ柔軟な対応が必要となったいま、リスクをとってでも高い創造性とそれを実現するリーダーシップを発揮できる人材が不可欠となりました。
こうしたことがアントレプレナーシップが重要視される背景となっています。
アントレプレナーシップに求められるスキル
アントレプレナーシップには新たなものを創出する発想力と、それを実現する組織牽引力が求められます。その一例を挙げると以下になります。
新たなものを創出する能力
アントレプレナーシップでも最も重要になるのが「ゼロからイチを創るスキル」です。
発想力のほか、課題を抽象化し一般性の高い問題として把握するコンセプチュアルスキルが必要です。
人を動かす能力
アイディアをかたちにするには、組織を構築・牽引するスキルが不可欠です。
リーダーシップはもちろん、人材やプロジェクトを管理するためのマネジメントスキル、また組織外部からの協力を得るための人的ネットワークもアントレプレナーシップには欠かせません。
アントレプレナーシップは育成できる
アントレプレナーシップとは新事業に取り組む上での優秀な人材が持ち合わせる特徴です。VUCA時代と言われる将来の予測が不可能な現代において、どの企業においても重要が増しているスキルだといえます。
アントレプレナーシップには発想や組織牽引力が求められるといえば先天的なスキルに聞こえますが、十分に育成可能です。もちろん適性はありますが、入社後の教育研修や若手のうちから抜擢人事を行うなど、最大限にアントレプレナーシップを発揮する社内環境の整備など様々なサポートをすることで、将来的に会社の中核を担う人材への育成が期待できます。