スローキャリアとはどのような考え方なのか
スローキャリアとは、ゆっくりと仕事を進めたりゆっくりとキャリアを進めるのではなく、上昇志向や達成動機は強くないものの、それ以外の社会貢献や自分らしい生き方に価値を感じる考え方のことです。自分の納得のいく働き方を重視しながらキャリアを形成していく考えで、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授の高橋俊介氏により作られました。
自分なりの働き方や自分のやりたい意志を重視しながらキャリアを考えるので、会社での出世や報酬の目標に向かって計画的にキャリアアップしていく考え方とは異なり、あくまで軸が自分の生活や自分のポリシーなのです。スローキャリア人材を活用するためには、スローキャリアの理論について理解を深めることが必要です。
今回はスローキャリアの理論について説明します。
スローキャリアの基本ポリシー7ヶ条とはなにか
スローキャリアの大切なことは「自分らしく生きる」ことです。仕事も生活も充実していることが最もプライオリティーが高いのです。そのためにどんな行動やスタンスが必要なのか。それを表したのが「スローキャリアの基本ポリシー7か条」です。スローキャリアの生き方を目指すうえで大切な目指す指針となります。
1.自分の「動機」や「価値観」を活かす
スローキャリアが大切にする「自分らしさ」は動機や価値観が繋がっていることが多いです。自分は「どんなことでやる気がでるのか」(動機)、「何を大事にしたいと考えているのか」(価値観)といったことが自分らしさの原点なのです。
価値観や動機を意識して、仕事、キャリア、生活を送ることが「自分らしさ」を活かすことに繋がります。
2.変化への柔軟な対応と経験からの学習
スローキャリアは柔軟でしなやかな変化ができることも特徴です。
変化の激しい現代、特定の職種や専門性、自分の現時点での興味・関心にこだわっていると自分自身のポテンシャルに気がつかないこともあるでしょう。あまり専門性や枠にとらわれず、新しいことにチャレンジすること。失敗も積極的に学び、自分の価値観が学びを通じて変わってしまうことも楽しめるくらいの広い心が大切です。
新しいチャレンジの結果、思いもよらず、本当に興味がもてることや、自分の動機に繋がる能力が発揮できる仕事に出会うこともあるでしょう。スキルや専門性は必要に応じてつければよいというスタンスで、スキルや能力を身につけることが最初の動機ではないのが特徴です。
3.キャリアアップよりも「自分ならではのキャリア」
スローキャリア人材にとって大事なことは、仕事の質を重視し、自分だからこそできる仕事、自分だからこそつくれるキャリアを目指すことです。出世、収入、会社のブランドといった外的な物差しや役職でキャリアを考えることをしません。
自分が興味のあることへの経験や学びを深めたい、自分が理想としている人や働き方に向けてキャリアを築いていくスタンスです。
4.フェーズごとの切り替えを重視する
それぞれの世代で役割がある「キャリアレインボー」のような考えで、長い人生のキャリアの中のその時のフェーズを大切にします。例えば仕事に打ち込み、プライベートの時間がほとんど取れない時期もあれば、子育てによって仕事よりも生活に多くの時間を割かなければならない時期もあるでしょう。
長い目で見て充実したキャリア・人生となるように、フェーズごとにメリハリをつけ、人生トータルでの満足度を考えるスタンスです。子育て中で仕事ができない時期があっても「今はそういうときだ」と考え、メリハリをつけることが大切です。
5.損益分岐点の低い生活スタイル
スローキャリアは生活の固定費は低く抑え、損益分岐点の低い生活スタイルにすることで、キャリアの選択肢は広がり、キャリアの満足度は高まります。
お金儲けが目的ではないので、高い水準の生活をしてしまうと、そうでないキャリアを選択した際に高報酬が仕事やキャリア選択の必要条件となり、人生の選択肢を狭めてしまうことになってしまいます。
6.組織と対等で清々しい関係
自分の会社との関係において、過度に依存したり自分の信念や良心を捨ててまで、上司や組織などの体制に従うなどの歪んだ関係を構築してはいけません。会社や仕事は給料以上の貢献をし続ける働きを心がけましょう。
転職した後でも前の会社の人脈がそのまま財産となって残っていきます。スローキャリアはいかなるときも自分の誇りをもって働くので、仕事や組織においても同様です。
7.スローキャリア社会の実現
幸せなキャリアを追求するスローキャリアという働き方が認知され、スローキャリアの人々が住みやすい社会を自分たちでつくっていくのだという意識を持つことが大切です。
そのためにスローキャリアを認めて実際に実施している企業を応援したり、商品やサービスを利用するなどスローキャリア社会の実現を考えて行動することで、スローキャリアの推進や認知に繋がっていきます。
スローキャリア人材の活用はどんなキャリアを築きたいかを把握することから
スローキャリア人材を活用するためには、どんなことにモチベーションを感じるのか、や今後どのような生活や人材になっていきたいのか、などのキャリアアンカーを見極めて、各従業員の価値観にあったキャリアを自社内で用意していくことが大切となります。
自社でキャリア形成が難しいと考えた場合には、売り手市場ということもあり、離職してしまう可能性も有り得ます。従業員がどのようなキャリアを形成したいのかを把握することは、人事業務だけでなく、マネジメントにも有効であり重要なことでしょう。