日本の「労働生産性」の現状について
働き方改革で解決しようとしている課題の一つに「労働生産性の向上と効率化」が挙げられています。少子高齢化などでの労働力不足への対応が急がれる昨今、労働人口の拡大はもちろんのこと、労働者一人あたりの労働生産性向上が注目されています。
しかし実際には、OECD加盟国中の日本の時間あたり労働生産性(就業 1 時間当たり付加価値)は46.0 ドル。35カ国中20位、米国の 3 分の 2 の水準で、データの取得が可能な 1970 年以降、先進主要国であるG7では最下位の状況が続いています。
出典元『公共財団法人 日本生産性本部』労働生産性の国際比較 2017 年版
就業者1人当たりでみた2016年の日本の労働生産性は、81,777ドル(834万円/購買力平価(PPP)換算)で、順位はOECD加盟35カ国中21位となっています。就業1時間当たりと同様、就業者1人当たりでみても、主要先進7カ国で最も低い水準となっています。英国(88,427ドル)やカナダ(88,359ドル)をやや下回るものの、ニュージーランド(74,327ドル)を上回るあたりに位置。米国と比較すると、2010年代に入ってからは3分の2程度で推移している状況です。
出典元『公共財団法人 日本生産性本部』労働生産性の国際比較 2017 年版
参考までに、 第1位はアイルランド(168,724ドル/1,722万円)、第2位はルクセンブルク(144,273ドル/1,472万円)となっており、時間当たりと同様、両国の生産性水準がOECD加盟国の中でも突出しており、その労働生産性の高さに非常な優位性があるのは明らかです。
労働時間1時間あたりや労働者1人あたりなど、労働生産性の計算式も複数の種類・方法が存在します。自社の労働生産性を向上させるためには、どのような要素が労働生産性に関連があるのかを知っておく必要があります。
「労働生産性」の概要と計算式について
「生産性」とはそもそも、投入資源と産出の比率を意味します。投入した資源に対して産出の割合が大きいほど、生産性が高いということになります。
生産性=産出(Output)/投入(Input)
労働生産性とは「産出(労働の成果)」を「労働量(投入量)」で割ったもの、言い換えれば「労働者1人あたりが生み出す成果」あるいは「労働者が1時間で生み出す成果」の指標です。
出典元『BOWGL』労働生産性とは?混同しがちな定義と計算式をわかりやすく解説
労働生産性は、労働者が成果を産み出すうえでの効率を数値化したものであるため、「労働者のスキルアップ・業務効率化」「経営効率の改善」によって上昇します。
労働生産性が向上すれば、「同じ労働人数(労働時間)でより多くの成果が得られる」「同じ成果を得るために労働人数(労働時間)が削減できる」ことを意味します。
成果の違い:物的労働生産性と付加価値労働生産性とは
労働生産性を厳密に分けると「物的労働生産性」と「付加価値労働性」の2種類に分かれます。物的労働生産性と付加価値労働性の違いは、産出(Output)として何を対象とするのかになります。
物的労働生産性では、産出(Output)として「生産量」や「販売価格」が用いられます。
「生産量」が用いられる場合として、農家における野菜などの市場の動向によって商品の価値が変動する場合が挙げられます。「1,000万円分の野菜を作った」よりも「何個のキャベツを作った」などの方が、一定の広さである畑から算出できる生産量を比較する際に便利であるからです。
「販売価格」が用いられる場合としては、市場の動向によって商品価格(販売価格)が変動歯肉い場合が挙げられます。工業製品などの販売希望価格が決まっていれば「この工場は年間何億円分の商品を製造した」と比較が容易であるからです。
付加価値労働性では、産出(Output)として「付加価値額」が用いられます。付加価値額の算出方法は様々ありますが、一般的に「粗利額」と考えていただいて大丈夫です。
例えば自動車を製造するためには、鉄やアルミなどの「原材料」は欠かせません。原材料を加工して組み立てることで、自動車としての製品の価値が生まれます。商品企画や研究開発、加工などに伴う人件費をすべてひっくるめて「生み出した付加価値」として評価されます。
製造業でないサービス業などでは「付加価値労働性」が用いられます。物そのものを売るわけではなく、知識などを活用した物ではないサービスを売るためです。営利組織であれば「粗利益」は算出可能であるため、様々な産業での労働生産性を比較する際にも「付加価値労働性」は有用です。
付加価値額の違い:名目労働生産性と実質労働生産性とは
付加価値労働生産性の付加価値額の算出方法によって「名目労働生産性」と「実質労働生産性」の2種類に分かれます。「名目労働生産性」では「付加価値額を時価で計算」し、「実質労働生産性」では「付加価値額を固定価格で計算」します。
サービス業などの場合は「サービスの提供=付加価値の提供=付加価値額」となるため、名目労働生産性と実質労働生産性が大きく乖離することはありませんが、製造業などにおいては大きく乖離することがあります。
例えば2018年10月1日に値上げが行われたタバコについて考えます。タバコが値上がりしたのは10月1日からであり、10月1日以降に製造したタバコから値上げが適用されたわけではありません。9月以前に製造した商品の価格が、売れた時期によって売上金額が異なります。
説明を簡略化するための例となりますが、1個あたりの原材料費が100円の商品を9月に100個を製造し、9月では1個あたり400円、10月では1個あたり500円で販売され、9月中に50個、10月中に50個売れたとします。名目労働生産性の付加価値額は(400-100)円×50個+(500-100)円×50個の35,000円が付加価値となります。実質労働生産性では、製造されたタイミングの9月である(400-100)円×100個の30,000円が付加価値となります。
増税や原材料費の高騰などによって値上げが行われることは多々あります。在庫などの影響が反映されにくく、過去の推移を比較する意味では「実質労働生産性」のほうが適していると考えられます。しかし実質労働生産性を把握するためには、在庫などの情報を全企業が正確に把握している必要があり、現実問題として厳しいことが挙げられます。「1年あたりの売上と商品原価」などが明確である「名目労働生産性」が広く普及している現状があります。
まずは「労働生産性」の現状の数値を知る
一言で労働生産性と言っても「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2種類があり、付加価値労働性の中でも「名目労働生産性」と「実質労働生産性」の2種類があります。現在広く使われているのは「名目労働生産性」ですが、複数の労働生産性を比較する場合には、どの労働生産性を指しているのか、注意が必要です。
労働生産性は自社の純利益や従業員数、労働時間などがわかっていれば比較的容易に計算できるものです。当然ですが、日本国内においても、業種や従業員規模などによって労働生産性には幅があるため、まず自社の生産性の向上を考える場合は、同業種の平均値を一つの目安にするとよいでしょう。
どの程度利益や労働時間を改善する必要があるのか、自社の問題点を細分化してみることをおすすめします。そこから、組織の労働生産性を向上させるヒントが得られるはずです。