働き方改革を推進する時間外労働等改善助成金とは
「時間外労働等改善助成金」は、時間外労働に対する施策を取った中小企業に向けて助成金を出す制度で平成30年4月に新設されました。現在関連法案の改正などが進められている「働き方改革」ですが、残業規制による「長時間労働」の是正も改革の目的の大きな一つとして含まれています。
VORKERSの調査によると、月の残業時間として30時間と回答した社員が最も多く存在します。全体の平均残業時間は約47時間との調査もあります。1ヶ月の勤務日数を20日程度とすると、1日約1~2時間の残業を行っている社員が約半数を占めることが分かります。
出典元『働きがい研究所 by VORKERS』約6万8000件の社員クチコミから分析した’残業時間’に関するレポート
年収別の残業時間で見ると、300万未満のみ月40時間以下となっていますが、300万以上の年収においては平均残業時間が月45時間を超えていることが分かります。36協定において、一般の労働者が一ヶ月で労働時間を延長できる時間が45時間と定められているのに対して、平均基準で考えると、年収300万以上の多くの労働者が上限以上の労働を行っている現状が明らかになります。
出典元『働きがい研究所 by VORKERS』約6万8000件の社員クチコミから分析した’残業時間’に関するレポート
残業時間を減らすためには「人材確保」や「生産労働制向上のための環境整備」なども重要になってきますが、その際に使える助成金が「時間外労働等改善助成金」です。今回は時間外労働等改善助成金のコースの一つである、時間外労働上限設定コースについてお伝えしていきます。
時間外労働上限設定コースとは?
従業員の残業時間が減らない、残業代の人件費の負担が経営財源を圧迫している、過重労働が慢性的に発生し労働環境が悪化しているなどの課題を抱えている企業は数多くあるでしょう。時間外労働の問題をサポートするのが時間外労働等改善助成金です。
時間外労働上限設定コースとは、時間外労働の上限時間の設定や長時間労働見直しのため、働く時間の縮減に取組んだ際、実施に要した費用の一部を助成してくれます。
助成金受給のための成果目標とは
時間外労働等改善助成金は各コースごとに成果目標が決まっており、目標を達成するための取組みを実施して成果目標を達成することで受給できます。時間外労働上限設定コースの成果目標は以下の通りです。
事業主が事業実施計画において指定した全ての事業場において、平成 30 年度又は平成 31 年度に有効な 36 協定の延長する労働時間数を短縮して、以下のいずれかの上限設定を行い、労働基準監督署へ届出を行うこと。
- 時間外労働時間数で月 45 時間以下かつ、年間 360 時間以下に設定
- 時間外労働時間数で月 45 時間を超え月 60 時間以下かつ、年間 720 時間以下に設定
- 時間外労働時間数で月 60 時間を超え、時間外労働時間数及び法定休日における労働時間数の合計で月 80 時間以下かつ、時間外労働時間数で年間 720 時間以下に設定
1の目標が最も厳しいものですが、目標を達成した場合に受給できる金額が増加します。
どんな取り組みが認められるのか
時間外労働上限設定コースの助成金の対象になる取り組みについて、以下の中からどれでも構いませんので、1つ以上を実施する必要があります。
- 労務管理担当者に対する研修
- 労働者に対する研修、周知・啓発
- 外部専門家によるコンサルティング
- 就業規則・労使協定等の作成・変更
- 人材確保に向けた取組
- 労務管理用ソフトウェア、労務管理用機器、デジタル式運行記録計の導入・更新
- テレワーク用通信機器の導入・更新
- 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
時間外労働を削減するために生産性向上の仕組みを考えたいとして、外部コンサルにお願いする費用や、日々の作業の効率化アップのためにITやシステムの設備投資をするといった費用も対象となります。
受給できる金額について
受給金額は以下のいずれか低い額が助成されます。
- 1企業当たりの上限200万円
- 上限設定の上限額及び休日加算額の合計額
- 対象経費の合計額×補助率3/4
出典元『厚生労働省』「時間外労働等改善助成金」(時間外労働上限設定コース)のご案内
実施する前の設定時間数と成果目標達成によって設定された時間外労働時間数によって金額が変わってきます。
受給要件
時間外労働等改善助成金に共通となる受給要件は、下記のすべてを満たす必要があります。
- 労働者災害補償保険の適用事業主であること
- 中小企業事業主であること
出典元『厚生労働省』「時間外労働等改善助成金」(時間外労働上限設定コース)のご案内
時間外労働上限設定コース特有の受給要件としては、以下になります。
- 36協定で定める「労働時間の延長の限度に関する基準」に規定する限度時間を超える内容の時間外・休日労働に関する協定を締結している事業所で、時間外労働や休日労働を複数月行った労働者がいる事業所
申請期間について
申請の受付は平成30年12月3日(月)まで(必着)となります。そして事業実施期間中(交付決定の日から平成31年2月1日(金)まで)に取組を実施する必要があります。
平成31年度の締切は、記事を公開しました平成30年12月7日時点では、まだ公表されておりません。
長時間労働問題を解決できる大きなきっかけになる
時間外労働上限設定コースは「残業時間の削減」だけでなく「休日の増加」などでも助成金を受給できるコースです。残業時間の削減や休日日数の増加は、既存の従業員の労働環境整備だけでなく、新規人材へのアピール(時間外労働月○時間や年間休日日数など)にも活用できます。
労働基準法の改正で、平成31年4月から「1ヶ月あたり60時間を超える時間外労働に対しては50%の割増賃金を支払う」ということへの中小企業の猶予期間が終了するため、長時間の時間外労働への対応は急務でもあります。
参考URL『freee』残業時間の上限は何時間まで?36協定とは
長時間労働を発生させる根本の問題の見直し・解決をする上でも、時間外労働上限設定コースは非常に有用な助成金とも言えるでしょう。