サクセッションプランで将来を任せられる人材を育成
多くの企業で「採用が難しい」と叫ばれる昨今では、自社の成長プランに合わせた人事戦略の設計がいっそう重要となっています。人材マネジメントは、理想の人材を採用するだけでなく、戦力として長期的に機能するように計らう必要があります。しかし早期離職なども頻発し、なかなか長期的に在籍して将来的に経営層として活躍してくれる人材を確保・育成できない人事課題が普遍性を帯びています。
リクルートマネジメントソリューションズは「人事・組織戦略上の課題」についてのアンケート調査を行いました。ここでは「自分の後任を担える人材・次世代リーダーが育っていない」と回答した企業が最も多く、特に経営層が抱える課題であることが報告されています。
出典元『リクルートマネジメントソリューションズ』成長企業における人材・組織マネジメントに関する実態調査
内閣府の調査でも、管理職がマネジメント行動を執れていないと思う割合は、管理職・一般職員ともに「部下のキャリア形成や人材育成に対する支援」が1位として挙げられています。
出典元『内閣府』管理職のマネジメント能力に関するアンケート調査 結果概要(最終報告)
調査事例を見ると、人材マネジメントでは採用だけではなく、中長期的な人材育成計画にも多くの課題が残っていることが伺えます。
今回は、後継者育成計画とも訳される「サクセッションプラン」について、その実施のプロセスを紹介します。
サクセッションプランとは?どのように実現すべきか
サクセッションプランとは、後継者確保や後継者となる人材の育成計画のことです。もともとは組織幹部として将来的な活躍が見込める人材の見極めや育成計画のみを指す言葉として登場しましたが、時代とともにその意味も広がりを持つようになりました。
企業を安定的に運営していくためには、10年や20年先を見た経営ビジョンを持たなければなりません。しかし年月とともに従業員の構成も変化するため、長期的な経営のなかでマネジメント層はいつか世代交代を余儀なくされます。世代交代がうまくいかず、経営難や廃業に追い込まれているケースも少なくありません。特に中小企業では後継者不足が深刻化しています。
後継者確保について、早期に解決できる問題ではないのが現実です。単に能力が高い人材に経営を引き継げるかといえばそうでもなく、組織を牽引するためには理念やビジョンなど思想・概念のマッチングも重要となります。そのため、後継者の確保は長期的な視座に立ち早くから進めていかなくてはなりません。
サクセッションプランは、未来の企業発展を見据えた人事施策という目的を持っています。
サクセッションプランの作成方法とは
サクセッションプランは、事業やプロジェクトを牽引する次世代の人材の育成・確保を目的としています。そうした人材にはトップに立てるだけの能力が必要ですが、会社の長期的な展望と照らし合わせるならば理念や意思を共有できることが何よりも重要になります。
それを踏まえ、以下ではサクセッションプランの作成方法を紹介します。
1.企業のスタンス・方向性の確認
最初に、長期的な視点に立ち自社のありかたやビジョンを明確化することからはじめましょう。
どんな事業を展開するにしても、企業として実現したい世界像を軸にすることで目的意識が強まり、また従業員へのメッセージも伝わりやすくなります。会社としての「軸」がすべての基本になります。
2.組織体制の明確化
企業として目指すべき軸が決まれば、具体的にどのような体制で事業化していくかを決めていきます。
現在も行なっている事業だけではなく、新たに起こしたい事業も想定するのも良いです。何年後にどんな規模でどのようなことをやっているかという組織目標を掲げるのも1つの方法といえます。
3.後継者像の明確化
サクセッションプランでは、上記のように設計された経営戦略から逆算して、何年後にどんな人材が必要になるかを具体的に設定することが肝となります。現在の事業は数年後にどうなっているか、人事配置はどう変化するか、新規事業を立ち上げるならばどんな人材が必要かなど、会社成長を見込んで早期から人材育成に投資しなければ間に合いません。
どんな人材を何年でマネージャークラスに育成するか、そのためにはどんな経験をさせなければならないかを細かく洗い出してみましょう。
4.サクセッションプラン対象社員の選出方法の設定
サクセッションプランは将来的には企業のコアメンバーとなる人材の発掘・育成を意図しています。従業員側からすると社内での「出世コース」とも考えられるので、サクセッションプランのキャリアに乗れるかどうかは人生がかかっていると解釈することさえできます。
選出方法は公平・公正であることが絶対となります。選出基準をクリアにし、正当な審査を経なければ従業員の不信感にもつながり、最悪の場合は離職や生産性の低下につながります。
人事評価だけでなく、社外の人材アセスメントツールを使用するなども客観性の担保や人的コストを下げるには効果的です。
サクセッションプラン運用時の注意点とは
サクセッションプランの導入で注意すべきことは「経営者を育成する」意識が徹底されなければならないことです。つまり「1つの領域に関しては誰よりも詳しい」というスペシャリストの育成ではないということです。経営者として組織を牽引するためには、幅広い事柄に対して精通しているジェネラリストである必要があります。
重要なのは、育成期間中に対象人材がどんな経験をするかということです。特に若手のうちからプロジェクトを任せる機会を設けるのであれば、バックアップ体制は十全に整えるようにしましょう。その際は年上ないし社歴が長い先輩社員がプロジェクトのメンバーとして下につくこともありえます。そうした環境のなかで人間関係の不具合が生じることもめずらしくありません。
若手にもたくさんのチャンスが巡ってくる職場には、経験が浅い人が窮屈することなく思いっきり挑戦できる環境が必要不可欠です。
サクセッションプランの準備は経営戦略の見直しの良い機会
サクセッションプランとは後継者育成計画とも訳される次世代のマネージャーとなる人材を獲得・育成する計画です。導入には、まずは全体のプランを立てることが必要です。会社としての「軸」の設定、経営戦略などと照らし合わせ、詳細なプロセスに分解して実施することで全体のプラン立てが可能になります。
サクセッションプランの実施は中長期的になりますが、変化する市場や自社の状況に応じて、微調整が必要となるため、定期的な見直しや改善も必要となります。10年、20年後にどんな会社でありたいかがサクセッションプランの中心にありますので、導入に向けて自社の経営戦略を見直してみても良いかもしれません。