日本の労働生産性は改善の余地を残している
少子高齢化や売り手市場という状況から、新しい人材を獲得することは、やはり厳しいのが現状です。こういった状況からも、組織を成長させるためには既存の人材を活躍させる方法も有効といえるでしょう。
日本の労働生産性は、他の国の労働生産性に比べ改善の余地があると言われています。公益財団法人・日本生産性本部によると、日本の時間当たり労働生産性は47.9ドルで、OECD加盟36カ国中21位でした。8位であるアメリカと比べても、2/3程度の水準となっています。
出典元『公益財団法人 日本生産性本部』労働生産性の国際比較 2020
多くの国で生産性が向上しているのに対し、日本は労働生産性が低下している結果となっています。少子高齢社会に伴う労働力人口の減少により、労働生産性の向上が叫ばれている中で、実際の労働生産性が低下している状態は危ない状態とも言えます。
出典元『公益財団法人 日本生産性本部』労働生産性の国際比較 2020
人事業界では、従業員が持つスキルや知識、経験値などを可視化することで、人材配置や人材育成などに活かすタレントマネジメントシステムが浸透し始めています。
独立系ITコンサルティング・調査会社であるITRは、日本国内における2016年度の人材管理市場の売上を、前年度比30.2%増と発表しており、その推移は年々増加傾向であることを示しています。
出典元『EnterpriseZine』2016年度の人材管理市場、働き方改革への取り組みや新興ベンダーの躍進により前年度比30.2%増――ITR発表
今回は、組織やシステムの理想像でもある「全体最適」について、そのやり方や課題を説明します。
全体最適を実現するための課題やポイントとは?
全体最適とは「組織全体として最適な状態」のことを指し、組織として最もパフォーマンスを発揮することのできる状態のことをいいます。会社経営や組織運営など、経営について説明する際によく使われる用語です。
会社経営において、一部の部門やシステムの生産性のみを向上させたとしても、必ずしも会社組織としての利益が最大化しない場合があります。一部分の生産性・効率性の向上ではなく、組織・システム全体として、生産性・効率性を向上させることを重視する思考プロセスのことを全体最適というのです。
従業員それぞれが自身の最大限のパフォーマンスを目指した場合に連携がとれなくなり、チームや組織が崩壊してしまうことは多々あります。組織全体の活動を意識しながら、個々の能力や役割を活かしていく必要があります。
全体最適を意識していかなければならない人材は経営層であり、経営全体を意識して行動しなければならないメンバーです。しかし、いずれ従業員一人ひとりが自分自身の働き方や日常業務を見直し、会社の利益につなげるための必要な仕事を見極めることができるように教育していくことも大切なことです。そうすることで既存の人材が活躍し、組織全体での効率化やコスト削減につながり、最大限の生産性を生み出すことができるのです。
全体最適を行う上での課題について
全体最適は、企業・組織にとってのメリットが優先されます。会社経営においては大切な概念ではありますが、いくつかの課題も存在します。経営層は全体最適を行う上での課題について知っておくことも大切です。
経営層は従業員に対し「組織全体の方向性や利益について十分な理解が無く、経営戦略に積極的に絡めていない」という不満を持つことが多いようです。しかし、従業員一人ひとりが「全体最適」という視点を持ち、業務を遂行できるのでしょうか。
そもそも「全体最適」といった考え方を、従業員が理解できているかも難しいところです。たとえ理解できていたとしても、取り入れて実行するための時間が少ないのが現状ではないでしょうか。
多くの従業員は目の前の業務を遂行するために多くの時間を割いています。そういった中で「組織全体の課題を捉えて原因や問題を整理し、自身の業務にまで落とし込んでいく」といった全体最適の思考を持つことは、なかなか難しいものです。
部署ごとの対立
全体最適を実施する場合、特定の部署にメリットがある反面、他の部署にはデメリットが発生して利害が対立することがあります。
全体的な生産性を上げることが目的ですが、そのための施策として一部の部署に対し予算削減が行われるなど、不公平感を持たれる施策を実施しなければなりません。一部の部署の効率化やコスト削減につながっても、別の部署において生産性の低下や非効率化につながることもあるのです。
経営層は全体最適の考え方や視点についての説明を行うなど、全体最適化のための指示を出す必要があります。
既存システムとの不整合
全体最適を目的とした施策のひとつにITシステムの導入が挙げられます。ITシステムの導入は自動化や効率化の効果が期待でき、全体最適を行う際には欠かせない施策と言えるでしょう。
しかし古いシステムから新しいシステムに入れ替える場合、既存システムとの不整合が生じることがあります。既存システムが使用できない事態に陥る場合もあり、部署間の対立のきっかけになってしまうこともあります。
既存システムを利用する人の中には新たなシステムに対応できない人も存在するでしょう。効率化やコスト削減を目指してシステムを導入したとしても結局は時間がかかってしまう、部署によっては新たな業務が生じてしまう可能性もあるのです。
新たなシステムを導入する際は既存システムの不整合が起きないかを確認し、調整することが必要不可欠でしょう。
導入に時間がかかる
変化に対応しづらい人というのは一定数いるものです。経営層が全体最適を意識した施策を行っても、現場が実行できなければ意味がありません。新たな業務プロセスを共有するための社内研修の実施などの必要な手順を踏まなければ従業員の不満が高まり、部署間への対立や人材流出へつながる可能性もあります。
大きな会社組織ほど経営資源が多く、社内システムを再構築するには多くの時間が必要になります。全体最適の実現には多くの時間やコストが必要です。
短期間で全体最適を実現することは決して簡単なことではありません。
全体最適を実現するためのポイントについて
従業員の意識改革
現場はそれぞれの業務を遂行することに多くの時間を割いているため、全体最適がどのような状態なのか、組織が全体最適になるための自身の行動はどのようなものなのかを考えるように意識を統一していくことは難しいでしょう。
まずは管理職や責任者が全体最適に関する意識改革を促すことが求められます。自社が何を目指そうとしているのか、自社を取り巻く環境を踏まえつつどのような経営を行っていくのか、全体最適の思考を持ちながら考えることが必要です。会社や組織全体の利益を第一に考え、経営層や部下と適切なコミュニケーションを行なっていくことも、管理職や責任者に求められるスキルです。
全体最適の思考を持った上司がいればこそ、会社の全体像や向かうべき方向性を理解しながら、全体最適の考えから自身の役割や行動を考えていく従業員が生まれます。
全体最適とはどのような状態なのか、まずは管理職や責任者が自身の担当する部署のパフォーマンスにこだわらず、全体最適の思考を身につけることが必要です。
社内コミュニケーションの活性化
社内コミュニケーションの活性化も必要です。
従業員が全体最適の思考を持ち「本当にやるべき自らの役割や課題」を見つけ出したとしても、周囲が行動を理解できなければ、組織として最大限のパフォーマンスを発揮することは難しくなるでしょう。
全体最適を実行していくうえで社内で対立が発生する可能性があります。全体最適の考えのもと、部署内やチーム内、または部署間における「お互いにとっての共通の方向性」を仲間や上司、他部門などを巻込みながら議論し考えることが必要なのです。全体最適の考えから、重要性や緊急性などの優先順位を付け行動するためにも、社内コミュニケーションの活性化は必要不可欠なのです。
部署を越えてコミュニケーションが活発になれば、重複している事務や作業が発覚することがあります。ITシステムの導入などにより、重複している作業を統一することでコスト削減につながる可能性もあります。
業務プロセスの再更新と調整
全体最適は一朝一夕では成り立ちません。業務プロセスを何度も更新し調整していくことで、組織全体の最適化を継続的に維持することができるのです。そのためには組織を全体的に見ることができ、会社の方向性に沿った業務プロセスを提案できることが必要です。
チームや部署などのそれぞれの業務プロセスを可視化し、お互いの理解を促すことで、社内の対立を防ぎます。それぞれの要望を明らかにし、全体最適に即した戦略や方針などの整合性を考えながら話し合いを進めていきます。部署を越えた連携を促進することで、組織全体を対象とした全体最適の戦略や施策の導入が実現しやすくなるのです。
組織として最大限のパフォーマンスを発揮し続けるためには、業務プロセスの再更新と調整により全体最適を管理していくことが必要です。
経営層が主体となって、全体最適の実行を!
全体最適とは「組織全体として最適な状態」のことを指し、組織として最もパフォーマンスを発揮する状態のことをいいます。
全体最適を意識しながら行動するようになると、企業全体が活性化するために必要不可欠な業務を最短で行うようになるため、業務の効率化を図ることができ、労働生産性が向上します。業務の効率化から正常な業務量になることが見込まれ、従業員のエンゲージメント向上にもつながっていきます。
全体最適を実行するうえで解決しなければならない課題も多く、実施も簡単ではありません。しかし従業員自身にもメリットがあるため、経営層が主導しながら全従業員で取り組む必要があります。