人材の確保が困難に
優秀な人材の確保は多くの企業にとって重要な問題となっています。売り手市場化が進む中、新卒・中途人材問わず優秀な人材の採用は難しくなっており、現在政府の推進する働き方改革では、これまで労働力としての価値を見出されていなかった、外国人や女性、シニア世代を活用することでろ労働力不足を補っていくという指針が示されています。
厚生労働省の調査では、2013年以降は労働力人口は減少する見込みであり、人材の採用はこの先更に困難になっていくと予想されます。
離職防止のために解決するべき課題とは
現在働いている社員(特に優秀な社員)の離職を防ぐことは、新規人材の獲得と合わせて考えられるべき戦略です。一般に優秀な人材ほど転職などの離職が高い上、厚生労働省の調査によると大卒の3年以内の離職率は長らく3割程度と、改善されていません。
中小企業庁の調査によると、中途採用は新卒採用よりも離職率は低いながらも、3割以上であるとされています。
出典元『中小企業庁』第2部 中小企業・小規模事業者のさらなる飛躍
離職防止は効果を出すのが難しい問題と言われており、取り組みは行っているものの成果に繋がらず高い離職率が続いている会社は多くあります。主な原因はやり方の悪さにあります。正しく離職者の不満やニーズを把握しそれを解消することができれば、離職率は下げることができます。
離職防止の対策を効果的に行うためには何をすればいいのでしょうか。今回は従業員の離職を防止するために解決しなければならない課題について説明します。
離職理由から離職を防止する施策について考える
離職を改善する方法としては「自社で発生した離職理由」と「一般的に多い離職理由」の2種類を改善するアプローチがあります。
1つ目として、自社で発生した離職の理由や原因を明確にして改善する方法です。実際に自社で離職が発生している場合に効果的です。離職が発生したと認識するだけでなく、離職原因を改善していくことが必要です。
離職者が本音の退職理由を会社に伝えていると限らない点に注意が必要です。d’s JOURNALの調査では、退職した本当の理由を会社や上司に伝えた割合は過半数以下でした。退職者からの退職理由を鵜呑みにするのではなく、働きぶりや考え方、自社環境を客観視することで、本当の退職理由を探ることが必要です。
出典元『d’s JOURNAL』退職を決意した人は、本当の理由を言わない?【退職理由・交渉のホンネ調査2019】
2つ目として、一般的な離職理由から原因を改善していく方法です。離職者の本音をつかめない、離職が多くは発生していないが今後発生することを懸念している場合に効果的です。
労働政策研究・研修機構の調査によると、離職理由として「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」「人間関係がよくなかった」「仕事が自分に合わない」が主に挙げられています。特に入社3年以内の早期離職では、これらの理由の割合が増加している傾向にあります。早期離職を防ぐためには、割合の多い問題を優先的に解決していくことが求められます。
出典元『労働政策研究・研修機構』第6章 早期離職とその後の就業状況
今回は2つ目の「一般的な早期離職理由から原因を改善していく方法」について説明します。
「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」を改善する
労働時間や休日・休暇は全て定量情報(数値データ)として伝えることができます。労働時間であれば始業・就業の時刻(朝9時~18時、休憩1時間含む)、就業曜日(月曜日~金曜日、土日祝休み)のように記載すれば、誰もが客観的な情報として捉えることができます。残業に関しても月平均20時間程度や、繁忙期(2月~4月)は残業月40時間程度などとすれば、予め労働時間がわかった上で求職者も応募や入社の判断を行うことができます。休暇についても年次有給休暇がいつ付与されるのか(入社直後・入社6ヶ月後)、何日付与されるのかなどは数字として記載できます。GWやお盆、年末年始休暇についても何日から付与されるのか、何日分付与されるのかと記載できます。これらの情報を組み合わせると、年間の労働日数や労働時間、年間休日数などを具体的な数値として記載できます。
労働時間・休日・休暇の条件は、入社前にも客観的に判断できる数値であるのになぜ「条件が良くなかった」となってしまうのでしょうか?理由としては「正しい数値を算出していない、正しい数値を入社前に伝えていない」「入社後に労働条件が変更になった」「正しい数値を伝えていたが、新入社員の認識が甘かった」の3つが考えられます。
会社が「正しい数値を算出していない」場合は、当然のことながら求職者にも労働条件を伝えることができません。就業規則に記載している「労働条件」だけでなく、労働条件の実態を把握するためにも、社内の各部署やチームにおける過去の「勤怠情報」などから自社の労働条件を明確にしましょう。
「正しい数値を入社前に伝えていない」理由として「伝え忘れた」「意図的に伝えなかった」の2つが考えられます。
面接などの限られた時間の中で労働条件を詳細に伝える時間が確保できないことはあり得ます。しかし内定を出したタイミングで、再度書面で通知する(就業規則ごと送付する)など、求人票や面接以外のタイミングでも労働条件を詳細に伝えることが可能です。「雇用にかかるコスト」を考えると「労働条件があわない」という理由での雇用コストは少なくない金額になるため、内定者フォローや採用通知などのタイミングで、改めて労働条件を詳細に伝えるプロセスを組み込んでおくことが大切です。労働基準法第15条第1項には「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と規定されていますが、明示するだけでなく、入社前に丁寧に説明しておくことが早期離職の防止につながります。
「意図的に伝えなかった」場合はより深刻な問題です。労働基準法の明示義務違反となるだけでなく、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」問題をより増加させて早期離職しやすい環境を作っていることを認識しなければなりません。
「(労働条件が悪いため)正確な情報を伝えると入社してくれなくなるのではないか」「高待遇にみせかけることで応募数を増やそう」という考えから「意図的に労働条件を伝えなかった」が起こります。しかし正しい情報を伝えないことで、入社後に理想と現実のギャップに悩む「リアリティーショック」を引き起こします。悩みながら働き続けたとしても、モチベーションが低い状態になり、新人教育によるスキルの定着や労働生産性も低い状態で留まってしまいます。従業員が働き続けることに納得がいかない場合に早期離職につながり、企業としても高い雇用コストが無駄になるだけでなく、残された従業員の業務負担が増加して連鎖的な離職につながる、離職率が高くなることで欠員補充のための採用がより厳しくなる負の循環に陥ってしまいます。
かつてのアメリカでも「良い情報だけを伝えて多くの求職者を集めて、優秀な人材を選ぶ」人材採用手法が中心でした。当然のことながら離職率が高くなり、離職コストも無視できない状態となり、「RJP(Realistic Job Preview)理論」、「現実的な仕事情報の事前開示」が40年以上前に提唱されました。
RJP理論は、良いところだけでなく悪い情報も含めて求職者に伝えることで、あらゆる情報を求職者に歪めることなく伝えていく採用のあり方です。アメリカではRJP理論による「入社後の定着率の高さ」が実証されており、日本企業で導入している企業でも離職率を半減させている、リアリティーショックを防ぐ手段として有効な手段として考えられています。
労働条件が他社と比べて悪かったとしても、製品の社会貢献性や将来成し遂げたいビジョンなど、他社にない魅力が必ずあるはずです。全て包み隠さずい誠実に伝えることが、定着する社員の採用につながります。
「入社後に労働条件が変更になった」場合、基本的には労働者の合意を得なければ労働条件を変更することができません。会社の業績が急に悪化したなどの合理的な理由で労働者に不利益となる労働条件変更が行われる場合もありますが、ベテラン社員などの早期でない離職も発生させるため、人事部門の目的である「会社の業績に貢献する優秀な人材」を中長期的に採用・育成していくことが解決方法となります。
「正しい数値を伝えていたが、新入社員の認識が甘かった」場合、新入社員に問題があると考えられますが、人事部門にも改善方法があります。特に社会人経験のない新卒社員や、裁量労働制など今までに結んだことのない労働形態で入社する中途社員などは、入社前に「どんなことがわからない・未経験なのか」が明確にできるはずです。今までとは違う生活サイクルに対して、先輩社員が不安に思っていたことや抱えていた問題をどのように解決したのかを人事部門から丁寧にフォローすることで、採用段階でも認識を深めることができます。
「人間関係が良くなかった」を改善する
「人間関係が良くなかった」は、「労働条件が良くなかった」よりも解決しづらい問題です。労働条件は数値化できる定量情報だったのに対し、人間関係は数値化しづらい定性情報であるためです。
そもそもどのような状態が「人間関係が良くない」と考えられるのかを明確にする必要があります。衝突がなく楽しい関係が「人間関係が良い」と考えられるかもしれませんが、本来目指すべきはビジネスシーンにおいて「人間関係が良い」状態を目指すことです。衝突や議論を恐れず「お互いを理解し、尊重し合える」関係こそが目指すべき状態ではないでしょうか?
人間関係の問題は、90年以上前から注目されています。ホーソン実験が行われるまで「人間の感情は労働生産性に影響を与えない」と考えられていましたが、ホーソン実験によって「職場の人間関係やリーダーシップが生産性に大きく影響を与えている」ことが明らかになり、従業員のモチベーション管理やリーダーシップなどの近代研究につながっています。
高度経済成長期の日本の採用は終身雇用が前提かつ一定のスキルのみが求められた時代でした。工場のラインなどで同じ作業を繰り返して製品を作れば、業績が上がる時代です。そのため人間関係は現在ほど重視されずに採用活動が行われていました。しかし現代では繰り返し同じ作業を行うのはロボットに代替され、単に物を作っても業績が上がらず、どんな付加価値を創造するかによって業績が上がる時代に変化していきました。
Googleが行った「成功するチームの要因」を研究したプロジェクト・アリストテレスでは、心理的安全性が最も重要であると突き止めました。心理的安全性とは、メンバー全員が思ったことを発言したり行動したりしても対人関係を損なうことはないと信じている状態のことで、良好な人間関係が必要不可欠であることを意味しています。
人間関係は労働生産性に大きな影響を与えていることが様々な実験や報告で明らかになっており、本来であれば採用段階で「入社後に良好な人間関係を築ける」と判断するべきです。以前の採用では、人事担当者や役員が「この人は自社に入って活躍する」と経験や勘などを基に判断していました。しかし、人間関係が良くないことを理由とした離職が発生し続けているのが現状です。これは「人間関係」という概念が目に見えないものであることや、人それぞれによって相性が異なることが原因として挙げられます。
仮に経験や勘を基にした判断基準を行い、良好な人間関係を築ける採用を実現できていたとしても、組織拡大を効率的に行うためには、後輩や部下であっても採用判断を再現できるように、客観的に伝えなければなりません。採用判断を再現できなければ、業務が属人化することで特定の人事担当者の業務負担が大きくなり、休暇や退職などで面接官に携われない場合には適切な人材採用ができなくなる恐れがあります。
「人間関係を良くなかった」を防ぐためには、自社(や配属部署)にはどのような人材が集まっているのか、応募者はどのような人柄であるのか、自社と応募者の相性は良いのかの3点を見極める必要があります。
自社(や配属部署)にはどのような人材が集まっているのかについては、人事部門が正確に把握する必要があります。応募者はリクルーター面談などで一部の社員について知る機会は設けられますが、全従業員や配属予定の部署の社員全員について詳しく知ることは現実的ではありません。「人間関係が良くなかった」を応募者だけで防ぐには限界があるため、人事部門が自社組織についてきちんと把握しておくことが大切です。
組織の特徴を可視化するには、適性検査などのツール活用が有効です。小規模な会社であれば1人1人と深い面談をすることで明らかにできますが、数十人以上の組織の状態を客観的かつ具体的に把握することは有限の時間の中では非常に難しいです。「この従業員は明るい性格である」と判断したとしても、人によって「明るい」の定義は様々です。どのような状態が「明るいのか」を面接官同士で共通の認識を持っておくためにも、客観的かつ具体的な情報である定量データとして可視化することが大切です。採用試験で従業員の適性検査の結果を蓄積していたとしても、従業員の入退社や人事異動などによって組織が変化する場合も考慮しなければならないため、なるべくリアルタイムに変動する組織適性検査などの分析結果を用いることが望ましいでしょう。
入社時に用いた適性検査で検出できる項目が変化しやすいものの場合、結果をアップデートするために再度受検してもらう必要もあります。自社で活用している適性検査は年数を経ることで変化しやすい項目を検出していないか、検出している場合は再受検のコストは適切かも考慮して活用することが求められます。
応募者はどのような人柄であるのかについては、多くの採用活動で用いられている「適性検査」や「面接」を組み合わせる方法が有効です。適性検査の中でも「性格検査」は、人間の性格や価値観を可視化するために有効なツールです。性格検査で特徴を可視化し、採用面接で適性検査で明らかになった特徴が正しいのか確認していくことが、応募者の人物像を明らかにする基本的な方法です。
人間関係の相性を見極めるためには「(応募者と従業員が)お互いのことを理解し、尊重し合える関係になれるか」を見極めることが大切です。この問題については、心理学研究の知見を活用できます。心理学研究では「性格や価値観(ものに対する考え方)が類似している、共有できる」状態こそが集団をよりよくすると考えられています。性格や価値観は絶対的な良し悪しはなく、優先順位も個人や組織によって異なります。性格や価値観が類似していることで、相手の考え方を理解・共有しやすくなるため、まずは自社組織と考え方が類似している応募者かを見極めることが重要になります。
人間関係のミスマッチをなくすことで早期離職の原因を防げるだけでなく、勤続意欲にもつながります。ラーニングエージェンシー(旧トーマツ イノベーション)が20年卒入社の新入社員を対象にした調査によると、今の会社で働き続けたくなる理由として「職場の人間関係が良い」が挙げられています。「高い給与・賞与」などの待遇や「仕事を通じた成長」などの自己実現よりも多い結果となっており、待遇を改善するよりも良好な人間関係の方が離職防止に効果的であることを示唆しています。
出典元『ラーニングエージェンシー』新入社員3,128名の働き方とキャリアの意識調査結果を発表|新着情報|人材育成・教育研修
ミツカリは「個人と組織の相性」を可視化するサービスとして開発・提供しております。ビジネスシーンで深刻な問題を引き起こす可能性のあるミスマッチを防止するために、生涯を通じて変化しにくい性格や価値観を、10分程度で回答できる適性検査で検出します。全社員(会社全体)との相性だけでなく、部署や上司ごとの相性も即座に可視化できるため、採用選考時に用いることで「人間関係が合わなかった」離職を未然に防止できます。
「仕事が自分に合わない」を改善する
「仕事が自分に合わない」も「労働条件が良くなかった」より解決しづらい問題です。しかし「人間関係が良くなかった」よりは改善しやすい問題です。
「仕事が自分に合わない」問題が発生する理由として大きく2つの原因が考えられます。1つは「業務に適したスキルが不足している」、もうひとつは「そもそも担当業務に興味を持てない」ことが挙げられます。
「業務に適したスキルが不足している」場合、業務に対して苦手意識を持ちやすくなるため「仕事が自分に合わない」と感じやすくなります。十分な教育研修期間を設けられない中途採用の場合などは、お願いする業務に求められるスキル項目やスキルレベルはどの程度かを現場社員のヒアリングなどから明確にし、採用選考でスキルの見極めを組み込むことも大切です。その場合は、スキルマップなどを活用すると体系的かつ客観的に人材を見極めることができます。
スキルは入社後でも十分に育成できます。採用選考の段階ではスキルレベルの有無にこだわり過ぎず、どれぐらいの期間で業務を担当できるぐらいまで育成するのか、現在のスキルレベルから育成期間中に間に合うのかといった視点で採用判断を行うことが大切です。
「そもそも担当業務に興味を持てない」ことは、スキル不足よりも深刻な問題です。スキルの有無に関わらず「仕事が自分に合わない」と考える要因になるだけでなく、何に興味を持てるかは「人それぞれの価値観」によって異なるためです。価値観はスキルレベルよりも変化しにくい要因であるため、可能な限り入社前の採用選考段階で見極めることが大切です。
仕事内容に関わる価値観には様々あります。例えば「スペシャリストとして特定分野の業務を極めたい」のか「ジェネラリストとして広い視点で業務を行いたいのか」によって、担当すべき業務は変わるでしょう。また「給料が高くなるなら嫌な業務でもやる」のか「給料が低くても自分の興味のある業務をやりたい」のかによっても、担当すべき業務は変わります。どのような価値観を持ち合わせているのか、「人間関係が良くなかった」の改善施策でもある性格・価値観を可視化する適性検査などを活用する方法が有効です。
それでも実際に業務を遂行してみなければ分からないこともあるかもしれません。人的・時間的リソースがあるのであれば、インターンシップを通じた業務体験を行うことも有効です。また性格や価値観が類似した先輩社員がいるのであれば、事前にどのようなことが問題と感じたのか、その問題をどのように乗り越えたのかを伝える面談を実施することで、「仕事が自分に合わない」問題を改善できます。
離職が発生する原因を分析しよう
離職につながる理由は人それぞれです。一つの改善施策を行ったところで全ての離職を防げるわけではありませんが、一つ一つの問題をしっかりと解決していくことで離職は確実に減らすことができます。
ネガティブな理由での離職理由としては「入社前に思い描いていた理想と入社後に感じた現実とのギャップ・ミスマッチ」に関する問題が多く挙げられています。これらの問題を解決するためには、現実を正しく伝えること、応募者個人によって異なる入社前に思い描いていた理想を実現するために立ちはだかる課題についての解決策などを提示してあげることなどが離職防止施策として有効です。
まずは自社における離職理由や離職につながる原因を客観的に分析し、離職が多く挙げられている問題から優先順位をつけて解決していくことが大切です。