職場環境の改善には人間関係も含まれ、業績も大きく関わる
厚生労働省の調査によると、脳・心臓疾患の労災請求件数や精神障害の労災請求件数は年々増加傾向にあり、仕事が原因で労働者の健康に様々な害を及ぼしていることが分かります。
2015年12月から義務化が始まったストレスチェック制度などでも、企業が労働者の健康を考慮することが求められているだけでなく、厚生労働省による時間外労働等改善助成金や産業保健関係助成金など、様々な助成金を設けることで企業の職場環境改善への取り組みを支援しています。
職場環境には、音や明るさなどの物理的な要素だけでなく、人間関係などの目に見えない抽象的な要素も含まれ、特に人間関係は労働生産性や離職率など、企業の業績にも大きな影響を与える要素です。
今回は職場環境を改善するためのコミュニケーションについて説明します。
そもそも人間関係はどんな要素から影響を与えているのか。
人間関係はチームそれぞれの性格や価値観のバランスで相性が決まります。性格の定義は「モノについて感じたり、考えたり、行動する時のある一定の傾向や特徴」です。性格は、価値観や意見などの他の心理的要素と比べて、長期的に見ると変わりにくく、また生物学的な基盤もある可能性が示唆されています。価値観などのやや複雑なものの考え方などは、ある程度成長してから徐々に形成される、より高度な次元の要素であることがわかります。性格と価値観の間には相関関係があり、ある一定の性格を持つ子供は、のちにある一定の価値観を形成しやすい可能性は十分にあります。
性格についてはの有名な研究として、アメリカの心理学を中心に発展したビッグファイブ理論があります。もともと性格研究のゴールは「個人間の違い」を上手く説明することにありました。人はそれぞれ、異なった行動パターンを持っているはずです。ビッグファイブ理論とは、その多くの人の行動パターンをある程度ざっくりと予測できるような、一番まとめやすい性格の種類はどのようなものがあるのかを、最も普遍的に、効率よく説明することを突き詰めた理論です。
ビッグファイブの研究結果によると、人の性格は次の5種類に分けることができます。
- 開放性 ー 知的好奇心などの程度。アーティストや芸術系の人物はこの要素が高い。
- 勤勉性 ー 自己統制力やまじめさの程度。成功者にはこの要素が高い人が多い。
- 外向性 ー 社交性や活動性の程度。人とのコミュニケーションが多い仕事をしている人はこの要素が高い。
- 調和性 ー 利他性や協調性の程度。チームプレーがうまい人は、この要素が高い。
- 神経症傾向 ー ストレスに対する程度。ネガティブな意味合いよりも、感情の起伏(アップとダウン)の激しさを表し、外向性と負の相関関係にある。
価値観とは、個人個人の行動や意思決定を促す、抽象的な概念です。価値観は個人のもつ抽象的な概念ですが、他人と共有することができます。価値観を他人と共有している状態が、カルチャー(文化)と定義されます。
「カルチャーは価値観の集合体である」とする考え方は、進化心理学や文化心理学で非常によく使われている理論的枠組みです。これらの分野によると「人間は価値観を集団で共有することで、集団としての生活をより効率よくさせる」と言われています。会社などの組織にも当てはまります。
日常で例をあげると、「エレベーターの右側は歩く人専用である」とか「コンビニのレジで並んでいる時は割り込んではいけない」などという考え方は、その都度、いちいち宣言したり文字化しなくても、暗黙の了解として多くの人が共有しています。
職場の人間関係を改善するためにやらないといけないこと
職場でそれぞれ適性検査を使って性格を測り、まずはお互いの違いを共有してみることが大切です。人は不確実な状態にストレスを感じるものです。 「なんだかよく分からない人」と一緒に過ごすよりも、たとえ違いが生まれたとしてもより具体的な性格を把握した上でのコミュニケーションの方が、心理的なストレスは低くなるかもしれません。
自分に合ってそうなチーム・職業の組み合わせを選びましょう。チーム編成と性格のミスマッチや、職業と性格のミスマッチが早期離職や年収の現象に影響があることを示唆する研究は多くあります。
コミュニケーションスキルは入社後に教育研修などで伸ばせられる
コミュニケーションスキルを上げるためには以下のような研修方法があります。
チームビルディングを学ぶ
チームとして取り組むための心構え「他者受容や自己開示」により、フラットな状態でゴールや目標の設定、そこに向けてのビジョンなどを共有しながら取り組むことが大切です。
アドラー心理学を学ぶ
アドラー心理学は児童教育、子育ての心理学として広く活用されています。行動の目的に着目し、具体的な行動にアプローチするアドラー心理学は、職場での対人関係にも活用できます。
アドラー心理学のエッセンスをつかむことで、多くの働く人にとって共通の悩みとも言える対人関係における課題の明確化と解決を目指します。
社員のEQ能力開発を促す
EQは「感情をうまく管理し、利用できる能力」を指し、ビジネスシーンにおいて必要となる対人コミュニケーションの基礎能力といわれています。
メンタル不調の多くが対人コミュニケーションの問題に起因することから、個々人のEQを向上させることがメンタルヘルスに関する問題の根本解決に繋がるものとして、その重要性が唱えられています。
コミュニケーションスキルである傾聴力を伸ばす
コミュニケーションスキルを細分化したスキルである傾聴は、人から意見を引き出す能力です。職場で傾聴を積極的に取り入れることによって、次のような効果が期待できます。
- 安心・安全な場が生まれる
- 言いたいこと(本音)が自由に言えるようになる
- 部下が積極的になり、さまざまなアイデアが出るようになる
- 部下一人ひとりの考え方が分かるようになる
- 部下の悩みが分かる。問題が大きくなる前に対応することができる
会社が行えるコミュニケーション改善施策について
性格は変わりにくい要素であるため、採用段階で適性検査などを使って相性が良いかを見極めることが重要です。人間関係の相性が良いことで、新入社員はもちろんのこと、既存従業員もストレスなくコミュニケーションが行える環境作りを行えます。
既存従業員については配属や異動などで人間関係が良好になりやすい組織構築を心がけましょう。悩みを相談できる上司やメンターを選定する方法が有効ですが、人員で厳しい場合には、気軽に相談を受けられる窓口を設置する方法も有効です。
会社の理念や目標、価値観などを、社内報や話し合いの場を作るようにして全社員に共有することも大切です。自社の従業員同士が「何を考えているのかわからない」状態であれば、コミュニケーションを阻害する要因となってしまいます。全てを受け入れてもらえる環境構築はなかなか難しいですが、相手と何が違うのかを認知し、会社として何を目指しているのかの共通認識を持つことができれば、従業員同士が協力しあえる環境づくりに役立ちます。
コミュニケーションスキルはあとから身につけることができるため、スキルベースで人間関係が良好になる組織が作れなかった場合には、研修などで伸ばして改善することが大切です。
職場の人間関係の問題点を出し、施策を進める
職場環境における人間関係が与える影響は大きく、改善するためには、具体的な改善施策に落とし込めるところまで問題を細分化し、一つ一つの課題を順に解決していくことが重要です。
人間関係の相性を決めるのは入社後に変わりにくい性格や価値観であり、根本の原因を解決できることが理想ですが、業務スキルなどで根本の原因の解決が難しい場合には、コミュニケーション研修や異動など、様々な施策が企業としても実施できます。