事業基盤の強化・再建に必要なホールシステムアプローチ
日本能率協会の調査によると、組織開発や事業拡大の重要性や課題に関して、現在の短期的な経営課題としては「収益性の向上」や「人材の強化」などが上位に挙げられています。ところが、5年後の経営課題となると、「事業基盤の強化・再編、事業ポートフォリオの再構築」など、根本の事業戦略や方針の見直しをあげている企業が多く存在します。
出典元『一般社団法人 日本能率協会』日本企業の経営課題2018
これらの問題は短期的に実施するのが難しく、さらに実施するためには将来の見通しを立てなければならないなど、非常に難度の高い課題といえるでしょう。経営とは短期・長期の二者択一ではなく、両者のバランスを取ることで持続的に会社を発展させていくことが求められており、様々な視点から現在の課題を鑑み、将来の方向性を見出していくことが大切です。
今回は、将来の経営課題として挙げられる「事業基盤の強化・再編」などにおいて重要なヒントを得られる「ホールシステムアプローチ」のすすめ方、手法について説明いたします。
ホールシステムアプローチの進め方、注意点と代表的な手法
ホールシステムアプローチとは、ある特定のテーマに関わる全ての人が組織の垣根を越えて集まり対話をすることで現状の課題を共有し、それに対するビジョンや問題解決の方法、創造的アクションを生み出していく方法論の総称です。
従来は「意見交換の場」といってもトップ層や主催者が取り仕切り、話し合いに参加する側は主催者の用意した情報に沿って行われるものが主流でした。しかし情報が多岐にわたり変化のスピードもめまぐるしい今の現状では、トップから全体に素早く情報を共有することは難しくなり、計画された対話の場では合意を得られにくくなっています。そこで注目されるのが、「ホールシステムアプローチ」という方法論です。
ホールシステムアプローチでは、ステークホルダー全員が参加することが理想ですが難しいこともあります。そんな時、代表する人々の組織「マイクロコズモ」をつくることが必要です。適切な「マイクロコズモ」が設定できれば、そこから全体に広げていくことが可能になってきます。
これまでトップダウン形式で形式的な話し合いの場しか積んでこなかった企業にとっては、ホールシステムアプローチがうまくいくとは限りません。そのため、思想を共有して理解するための「プロセスガーデニング」(変化や成長を促す場づくり)が必要となります。
ホールシステムアプローチの具体的な手法について
ホールシステムアプローチの具体的な手法として代表的なのは4つ挙げられます。
- ワールドカフェ
- OST(オープンスペース・テクノロジー)
- AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)
- フューチャー・サーチ
ワールドカフェ
ワールドカフェでは、少人数のグループに分かれ、カフェにいるときのようなリラックスした雰囲気の中で全員が自由に対話を行います。時々グループをシャッフルしたり、少人数からより大きなグループへ移行することもあります。
相互理解を深め、協調的な思考の向上を促すことができます。
OST(オープンスペース・テクノロジー)
OST(オープンスペース・テクノロジー)とは、あるトピックにおいて、関係者が一堂に会し、参加者がそれぞれ課題を提案し、議論したい課題について自主参加で情熱と責任をもって対話を進める手法です。
参加メンバーの主体性を尊重する自己組織化のプロセスを取り、全員が納得できる合意を目指します。
AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)
AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)とは、価値を見つける質問を投げかけることで、人材や組織の持っている強みや良いところを発見し、利用しながら目標を達成するアプローチのことです。
アプリシエイティブ・インクワイアリーは、米国で開発された人材開発や組織活性化のアプローチの一つで、ポジティブな問いや探求によって、個人と組織における強みや真価、成功要因を発見し、認め、それらの価値の可能性を最大限に活かした最も成果が上がる有効なしくみを生み出すためのプロセスを指します。
フューチャー・サーチ
フューチャー・サーチとは、過去と現在の状況を共有認識したうえで、全員が理想とする未来を確認し、システム全体で協力しながらアクションプランの作成を行う組織変革手法です。フューチャー・サーチでは、自主参加型のOSTとは対照的に、利害が異なるステークホルダーも全て招きます。
効果的なホールシステムアプローチを行うために
ホールシステムアプローチとは、組織開発の手法の一つであり、目的は「すべてのステークホルダーや代表者が集まり、創造的な意思決定を行う」ことです。ホールシステムアプローチを実施する上では、思想を共有して理解するための「プロセスガーデニング」(変化や成長を促す場づくり)が必要となります。
今回は様々な手法の中から代表的なものを4つ紹介しました。適した手法を選択しながら、実施した手法を改善する・他の手法を試すなどで効果的な場にする取り組みが重要でしょう。