離職率上昇への対応策・組織社会化
厚生労働省の調査データでは、大卒の新卒3年以内の離職率は長年3割を超えています。学生の数が増加していれば「代わりの人員確保」も容易ですが、少子化によって学生の数が減少しており、一人を採用する単価や労力が増加傾向にあります。1人を採用するためのコストが増加している中で、離職者が発生し、欠員補充のための再度の採用活動や、限られた人員の中での教育研修コストの損失は、企業にとって解決すべき課題になっています。
@人事の調査では、入社前に内定先をやめようと想定している学生が1/4を超えようとしています。離職を前提として入社する学生が増加しているため、次世代のリーダー育成などの中長期の教育研修計画が成り立たなくなってしまう危険性があります。とはいえリーダー育成をしないという選択肢をとったとなると、今後の企業経営に問題が生じることは明らかです。
早期離職の目安である「3年以上」在籍したいと思う起業の条件としては、「良好な人間関係」が挙げられています。中長期的な教育研修計画を成り立たせ、継続的な企業経営を行うためには「良好な人間関係の構築」が必須であり、会社としても「良好な人間関係の構築」を行うためのサポートを行わなければなりません。
出典元『@人事』「あなたはいつ頃会社を辞める予定ですか?」2019年春入社の新入社員へ緊急アンケート
この記事では、新入社員が自社組織に馴染んでもらうためのプロセスである「組織社会化」について説明します。
組織社会化とは?会社に馴染むために考えるべきこと
組織社会化とは、「新たに組織に加わった人員がその組織に馴染んでいく過程」のことを指します。組織を「会社」、人員を「新入社員」とする場合、「新入社員が入社後に会社に馴染んでいく過程」のことを指します。人員は「既存社員」としても考えることができ、人事異動後に部署やチームに馴染む過程とすることもあります。
早期に会社に馴染んでもらうことで、新入社員が本来のパフォーマンスを発揮できるとともに、会社の風土に合った働きを期待できる可能性が高まります。
せっかく馴染んだ集団から早々に離脱しようと考える人間はそう多くないものです。組織に馴染むことで、組織自体への愛着も湧くでしょう。
このような点から、組織社会化は離職率低下に効果があると考えられています。
組織社会化の目的について
組織社会化の目的は以下のように考えられています。
社員の本来のパフォーマンスを引き出す環境づくり
社員が組織に馴染む……つまり「組織社会化」を完了することで、社員が持っている本来の能力やパフォーマンスが発揮されやすくなるでしょう。
社員の能力が最大限に引き出される環境を整えることで、会社への貢献度も高まります。
愛社精神の育成
社員が組織を理解し、早期に馴染むことで、組織への愛着も湧くことでしょう。
「この会社のために頑張ろう」と思ってもらえるような愛社精神を育成することも、組織社会化の目的のひとつです。
早期離職の防止
組織社会化を完了し、会社に早期に馴染んでもらうことは、社員が社内でより過ごしやすくなることにつながります。
過ごしやすい会社から早期に離職しようと考える社員は多くないでしょう。このことから、組織社会化は早期離職防止の目的で意識されることも多くあります。
組織社会化を行うことで企業が得られるメリットについて
組織社会化を行うことで、企業は以下のようなメリットを得ることができます。
- 社員の業務効率向上による業績向上
- 早期離職率やメンタルヘルス不調の改善
- 採用コストの削減
組織社会化が行われている組織においては、社員は自分の役割を理解して行動できます。自らが組織にとってどのような存在であり、どのような役割を果たすべきかが明確になっていれば、業務効率も向上し、結果業績の向上にもつながります。
組織社会化が行われている組織では、従業員が働きやすい環境が整っています。早期に会社に馴染めることで、早期離職率の改善が期待できます。早期離職しなくても、自らの役割が分からない・果たせないなどの理由でメンタルヘルス不調を引き起こす従業員も低下し、結果企業ブランディングにも良い影響を与えます。働きやすい会社を構築していることをアピールするだけでなく、早期離職率や休職率などの数字を公開することで、求職者にとって魅力的な会社として根拠を持った説明をすることもできるでしょう。
組織社会化を行うことで従業員が得られるメリットについて
組織社会化を行った結果、企業だけでなく従業員も以下のようなメリットを得ることができます。
- 働きやすくなる
- モチベーションが上がる
従業員側も働きやすくなることで、本来持っている能力を最大限発揮することができるようになるでしょう。
自身が活躍する場を自ら作り出していくことにも繋がります。自分自身の能力を活かすことができる環境を作るということは、雇用する側である企業にとって必要な努力だと言えるでしょう。
会社という場に「受け入れてもらえている」と感じさせることで業務に対するモチベーションもアップすることが考えられます。自身が身を置いている会社がどのような組織なのかを早期に理解してもらうことで、社員は自分がどのように振る舞えばよいかが解るでしょう。
組織社会化の概念を取り入れ従業員が早期に企業に合った働き方ができるよう心がけることは、企業・従業員双方にメリットがあることです。
組織社会化は離職率低下・業績向上に繋がる
組織社会化とは、新卒採用・中途採用を含む新入社員が、組織や仕事にうまく馴染むためのプロセスです。組織社会化は、離職率・定着率の改善だけでなく、労働生産性の向上にも影響があり、結果的に業績の向上にもつながる重要な概念です。
新入社員への教育・研修は早期の組織社会化を意識したうえで行うことをおすすめします。