リカレント教育とミドル・シニア人材の活用方法の関係性とは?

リカレント教育はこれからの人材育成に必要な投資

人生100年時代が到来した日本で注目を集めるのが、リカレント教育です。リカレント教育とは、基礎教育などを終えて就職した後も、必要に応じて教育を受けることです。海外ではキャリアを一旦中断して大学などの高等教育機関で学び直し、キャリアを再開するライフスタイルは一般的です。一方日本は、リカレント教育の制度設計と定着がいまだに大きな課題となっています。

25歳以上の学士課程への入学者および30歳以上の修士課程への入学者の割合をOECD参加国で調査し、グラフ化したものです。各国の状況はもちろん異なりますので、この数値だけで、国民全体としての入学率を語ることは難しいのですが、日本でいうと、国内の学士・修士課程の教育のほとんどが20代前半以下、つまり、中学高等学校教育からの流れで入学していることが見てとれます。

入学者の割合
出典元『文部科学省』高等教育の将来構想に関する参考資料

文部科学省が実施した『社会人の学び直しに関する現状の調査」では、社会人の意識調査において89%の人が「再教育を受けたい、興味がある」と回答しており、多くの人が教育に対する意欲があることが見て取れます。

再教育の受講意識
出典元『文部科学省』社会人の学び直しに関する現状等について

労働政策研究・研修機構の調査では、そういった自己啓発の問題として、「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」が1位で、「費用がかかりすぎる」が2位となっており、必要性を感じてはいるものの、本業や費用などの面で二の足を踏んでいるビジネスパーソンは大勢いるのが現状です。

自己啓発の問題点別労働者割合
出典元『文部科学省』「社会人の学び直し」の現状について:企業・個人を対象とした実態調査から 

今回はミドル・シニア人材の社員に対するリカレント教育について説明します。

ミドル・シニア世代に「リカレント教育」が必要な理由

内閣府は2018年、自己啓発・学び直しが労働者に与える効果として、生産性の上昇に伴う、将来的な年収の増加を明らかにしました。今後の職業生活の長期化や技術進歩を踏まえ、自ら主体的にキャリアを形成していくことの重要性が高まると主張しているのです。

人は年齢を重ねるごとに学ばなくなる傾向があると言われています。年齢ごとの学びの実施状況をみると、20代では、88%が上司や同僚、仕事仲間から指導やアドバイス(OJT)を受け、46%がOFF-JTを受講していますが、OJTとOFF-JTの割合は20代をピークに右肩下がりの傾向になっています。

学習意欲の低下度合い
出典元『みずほ総合研究所』ミドル・シニア人材の学び直し 

自己啓発の割合は、20代・30代では40%前後ですが、その後は年齢とともに低下しており、調査からも『年齢を重ねるごとに、企業から学ぶ機会を与えてもらう機会は減ると同時に、自ら学んでいく人も少なくなる』ということが相対的にわかります。

学ぶことへの意欲も、年齢ととともに弱まる傾向にあります。文部科学省の調査によれば、「大学や大学院などにおいて学習したことはなく、今後も学習したいとは思わない」と回答した人は、30歳未満が40%弱で最も低いのに対し、60歳以上が最も高く60%強です。

学び直しをしたことがない社会人を対象とした調査で、学び直しを行わない主な理由をみると、以下のような項目が上位にあがっています。なお当該調査によれば、学ばない理由について、年齢による違いはほとんどありません。

自己啓発の問題点別労働者割合
出典元『文部科学省』「社会人の学び直し」の現状について:企業・個人を対象とした実態調査から 

加齢に伴う認知能力(創造力や記憶力、適応力、処理能力など)や生産性の低下は、OECDの調査からも傾向がはっきり出ています。この調査では、日本の成人の認知能力について、読解力や数学的思考力、ITを活用した問題解決能力(デジタル環境でアクセス、伝達された情報にアクセスし、解釈し、分析する能力)の習熟度をみると、年齢とともに低下する傾向にありました。中でも、40代半ばからの認知能力の低下は著しいものがあります。

年齢の認知能力の関係
出典元『みずほ総合研究所』ミドル・シニア人材の学び直し 

認知能力の低下は、新たな課題に対応することを困難にし、個人、ひいては組織の生産性を低下させます。労働者の年齢構成と生産性の関係に着目した複数の研究によると、働く人の年齢と生産性は逆U字の関係があり、生産性への影響は40代でピークとなると言われています。逆U字の関係は、年齢を重ねるごとに専門的な知識の蓄積が進む一方で、認知能力・意欲は低下する傾向にあることが背景にあります。

ミドル・シニア層は新しい知識を身につけることができるか?

高齢化が今以上のスピードで進んでいく日本では、すべての年齢層や属性がスキルを向上し、全体で高い生産性を発揮できるように、人と学びに関する考察を深めていくことが重要です。とりわけ労働力人口のボリュームゾーンを形成するミドル・シニアの学び直しが喫緊の課題と言われています。

いくつかの研究は、ミドル・シニアがそれぞれに適した学び方をすることで、新しいスキルや能力を向上させることは十分可能と述べています。また、別の研究では、過去から現在の業務との関連が深い学習が効果的と指摘。年齢を重ねると、新しいことを習得するスピードは低下しますが、過去に蓄積してきた知識や経験と関連付けることで、効率的に学ぶことができるからです。

ミドルシニアの学び方に関する先行研究
出典元『みずほ総合研究所』ミドル・シニア人材の学び直し 

加えて、既に一定の知識や経験を身に着けているシニアに対しては、企業などは、学びの効果やモチベーションを向上させるためのニーズを知ることが重要だと指摘しています。

以上をまとめると、ミドル・シニアには、過去に蓄積した知識や体験と関連付けたり、目の前の業務の課題解決を行うための学びが有効です。

企業としても、学び直しの意欲がある人材には、 企業がその機会を積極的に提供することが必要です。大学等でのリカレント教育にかかる費用のサポートや、柔軟な勤務時間制度の導入、副業・兼業の推進などに積極的に取り組みたいところです。もちろん、企業側のサポートと同時に、働き手の側にも主体的なキャリアの設計も不可欠です。

企業における「2020年問題」について

「人生100年時代」において、学ぶことは一層重要になっています。

少し前の統計になりますが、2016年における日本人の健康寿命は、男性が70.42歳、女性が73.62歳となっています。こういったことを背景に、今後、高齢者の就業率の引き上げが重要な政策的課題として、70歳代まで働くことが一般的になる可能性は大きいとみられています。

平均寿命と健康寿命の差
出典元『厚生労働省』平均寿命と健康寿命をみる

企業の「平均寿命」は23.5年。ビジネスを取り巻く環境の変化は年々早くなっており、その影響を受けて、企業の盛衰も今後はさらに短縮化する可能性があります。総合的に考えても、今後は一つの企業で人生を全うするというよりは、転職や起業を含めた複数のキャリア形成に備えておくことが肝要です。現代のようなテクノロジーの時代においては、AIなどに代替されないスキルや能力も身につける必要もあり、自律的に学ぶ力と適切なスキルを複数身につけることが求められています。

企業の視点でも、ミドル・シニア層へのニーズは今後さらに高まっていくと見込まれています。

2020年時点の最大のボリューム層は「45~54歳」となり、45歳以上の労働者は全体の半分強を占めることになります。2030年にかけては、若年層やミドルエイジが 減少する一方で、55歳以上の層が増加を続けると予測されており、ミドルエイジ以降の人材 のスキル向上への取り組みは、企業のパフォーマンスに非常に大きく影響する可能性があります。

しかし企業はミドル層以上のリカレント教育に対して、あまり積極的でないのが現状です。企業の約40%は、ミドル・ シニア層の活用に具体的な施策がなく、特に、中高年比率 (45歳以上)が高い企業ほどOFF-JT費用を抑制するという調査まであります。この背景には、中高年齢層は若手社員に比べて学びの進捗に時間がかかる=コストがかかることや、訓練後の就業期間が相対的に短期間になること(費用対効果が低い)などがあるといわれています。

労働力人口の年齢構成割合の変化
出典元『みずほ総合研究所』ミドル・シニア人材の学び直し 

学び直しを実際に行うことの効果は大きく、学び直しを行った人と行っていない人の動向を追跡調査した結果を分析すると、学び直した人の年収は10~16万円近く上昇するという効果もみられます。

自己啓発とその効果
出典元『文部科学省』人生100年時代の人材と働き方

これからのミドルエイジ以上のリカレント教育促進は、現場で長期的に活躍できる人材の育成を実現していくことにつながるのです。

ミドル、シニア世代が長く現場で活躍するために

優秀なミドル層の教育やシニア層の活用は、労働力人口が減少して一億総活躍社会の実現を目指している働き方改革の中でも重要な施策であり、リカレント教育は国としても支援を行っている制度です。

学習意欲は低下する傾向にあるが、過去の知識や経験をリカレント教育によって最先端の知識と結びつけることで、期待以上の効果をもたらす可能性もあるということを、企業としても知っておくことが求められています。

スポンサーリンク