採用面接で応募者の病歴(既往歴)は質問しても問題ないのか?

採用面接での「病歴の質問」は違法ではないが配慮が必要

採用面接で応募者に対して、過去の病歴や健康状態(既往歴)について質問することは、業務遂行に必要な範囲であれば、一概に違法とはいえません。

しかし病歴に関する質問をされた応募者の心理面を考慮するならば、口頭ではなくチェックシートを用意するなど、細やかな配慮が必要です。

採用面接での印象は、入社意欲を大きく左右する

リクルートキャリアの就職白書 2019によると、面接は99%の企業が実施する採用手法です。従業員規模が多くなるほど、実施率も上がります。

採用活動プロセス毎の実施率
出典元『リクルートキャリア』就職白書2019

面接の実施回数は1回に限りません。doda「採用担当者のホンネ-中途採用の実態調査」によると、面接実施の回数は2回が最も多く、面接回数は2回と回答した企業の割合は67%でした。次いで3回(25%)、1回(6%)、4回以上(2%)が続きます。 大企業ほど回数が多い傾向で、さまざまな役職者が面接を段階的に実施しているようです。

面接回数の割合
出典元『doda』「面接は平均何回?」採用担当者のホンネ−中途採用の実態調査

マイナビの「2019年卒 マイナビ学生就職モニター調査」によると、採用プロセス全体を通じて学生が企業に入社したいと最初に強く思うタイミングは、「1次面接 ~最終前面接受験時(21.7%)」でした。

入社したいと最初に強く思ったタイミング
出典元『マイナビ』2019年卒 マイナビ学生就職モニター調査

採用面接での面接官の印象は、応募者の入社意欲を大きく左右することが分かります。採用面接で応募者の過去の病歴や健康状態(既往歴)について質問をする場合は、その影響度を留意したうえで、慎重に行うべきだといえます。

採用面接で禁止されている質問

まず採用面接で法的に禁止されている質問は、面接官や人事担当者、経営者が必ず知っておかねばならない最重要事項です。

採用選考は、応募者の基本的人権を尊重し、また応募者の適性、能力のみを基準として行わなければなりません。そのため、家族状況や生活環境など、応募者の適性、能力に関係のない事柄について、エントリーシートに記入させたり面接で質問することは、禁じられています。

面接冒頭のアイスブレイクとして、ついつい聞いてしまいそうな話題も「禁止事項に関する質問をする会社」として悪評がたつリスクを考慮し、細心の注意を払うことが大切です。具体的には、下記項目が禁止事項となります。

<a.本人に責任のない事項の把握>

  • 本籍・出生地に関すること (注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)
  • 家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)(注:家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します)
  • 住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
  • 生活環境・家庭環境などに関すること

<b.本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握>

  • 宗教に関すること
  • 支持政党に関すること
  • 人生観、生活信条に関すること
  • 尊敬する人物に関すること
  • 思想に関すること
  • 労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること
  • 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること

<c.採用選考の方法>

  • 身元調査などの実施 (注:「現住所の略図」は生活環境などを把握したり身元調査につながる可能性があります)
  • 合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施

引用元『厚生労働省』公正な採用選考の基本

面接や採用基準で禁止されている病歴に関する質問

採用面接における質問の禁止事項には「応募者の過去の病歴や健康状態(既往歴)」は、明記されていないことが分かります。だからといって面接で何でも質問していいと考えるのは、早合点です。

応募者の過去の病歴や健康状態(既往歴)について、面接で質問をすることや採用合否の基準として用いることが一般的に許容されるのは「業務に必要な範囲に限定する」場合に限られます。

業務に必要な範囲を超えて、過去の病歴や健康状態(既往歴)や、感染しない病気について質問することは禁止されています。また、HIVやB型・C型肝炎などの感染情報についても、業務に影響しない場合は個人情報を取得すべきではない、というのが一般的な考え方です。

病歴に関する質問や採用基準で妥当とされる例

応募者の過去の病歴や健康状態(既往歴)について、面接で質問することや、採用基準として用いることが妥当とされるケースもあります。例えば仕事で機械操縦や自動車運転をしている最中に危険であるなど、業務上必要です。

業務遂行可否や業務遂行上のリスクを把握するために必要な質問であることを応募者に伝え、本人の同意を得た上で病歴を聞く、といった場合は妥当とみなされるでしょう。ただし、利用目的は採用選考に限定し、その旨も応募者に伝える必要があります。

採用面接での病歴の質問は「違法ではない」

採用面接で応募者の過去の病歴や健康状態(既往歴)を質問することは、業務上必要であり本人の同意がありかつ利用目的を採用面接に限定した場合においては「違法」ではありません。しかし非常にナイーブな問題で、かつ応募者のプライバシーにも関わります。

病歴に関する質問の意図を応募者に丁寧に説明する、いきなり口頭で聞くのではなくチェックシートを活用するなどして、応募者に不快な思いをさせないよう配慮しましょう。取得した個人情報は、必要最小限の人事採用関係者のみ閲覧を許可する、パスワードを設定する、プリンタ出力やデータの持ち出しを不可にするなど、厳重な管理体制を整えることが求められます。

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